第十四話 ギルド的なヤツ
夕食を摂っているとベッテが革製の黒い眼帯を渡してきた。
金の刺繍がしてあり結構高そう。
「何これ」
「みんなからです」
三人ハモった。
「カッコいいんだけど」
「明日からプロテクターデビューでしょ、箔つけた方がいいかなって」
目を閉じて、衛生眼帯を外すと百合亜ちゃんが黒い眼帯を付けてくれた。
「その方が仕事も入りやすいですよきっと」エヴェリナが目を輝かせて見ている。「十年前のご主人様もそのような眼帯を付けておられました」
また十年前か……なんなんだ。
「似合います、ご主人様」
ベッテの一言を皮切りに、みんなおだてまくった。料理を持ってきたマタタビまで絶賛した。まあ、友人に一千万も貸してるしね。
部屋で鏡を見てみたが、確かに満更でもない。
プロテクターになるには、組合に加入した方がいいらしい。フリーでも出来るのだが、手数料を引かれない代わりに、様々な保険が利かなかったり仕事が入りにくかったりと、デメリットが大きいらしい。
さらに、受付で聞いたところ、道中賞金首を倒したり邪獣を倒したりすると、持って帰ればそれなりのお金になるそうだ。
その際、邪獣などの解体や賞金首の申告は、ハンター組合通す必要があるらしい。
やはりはハンター組合に加入しなければならない。
で、来ましたハンター組合。
ザ・ギルドですわ。
柄の悪そうな連中が、ビール的なのを呑んでる。奥のテーブルでは手掴みで喰ってる骨付きの何かが旨そう。
カウンターに足を運んでいると、恒例のプチイベント足を出して邪魔する、が始まったので、いくつかの選択肢の中から、思い切り足を蹴る、を選択した。
てめー痛―じゃねーか、からの抜剣、首で寸止め、お客様組合内での喧嘩は困ります。と一番人気の受付嬢が飛びだしてくる。悪かった、僕は今をときめくダーケス・ナイトうるかだ。組合内そう立ちでドヨメキ、お姉さんトキメキ。最後のはラップ調で。
と言う流れ。
早速男の足の側面を思い切り蹴る。男は足の骨を折って吹っ飛んだ。
え?
「ごめんなさい、ごめんなさい。ここまでするつもりは……」
受付嬢ドン引き、組合内幕引き、はいラップ調で。
手袋を外し、あらぬ方向に曲がってる脚に指輪をかざした。
「天と大地に渦巻く精霊たちよ、その力を我に与えたまえ、この者を癒やしたまえ」
徐々に脚が戻り男の苦悶に歪んだ表情が和らいでいった。
「悪かったな、軽く蹴ったつもりだったんだが、少しばかり力が入りすぎたようだ」
組合内がいい感じのどよめきを起こした。
ヒールやポーションって無いのかな?
「食事や仕事の邪魔をして悪かった」
プラチナ硬貨を一枚脚が折れていた男に、みんなに見えるように且つさりげなく手渡す。
「この男のおごりだ、好きにやってくれ」
スタンディングオベーションですわ。
受付嬢も手ぇ叩いてるし。
はい、心掴みました。人気者確定。
手続きは簡単だった。国民証を渡すと必要事項を写し取り、簡単な誓約書にサイン。加入するならそれぞれの保険料を、組合費とは別に支払うといったとこだ。
ランクなどは特にない。
解体もしてくれるし、解体して持ち込めばそれなりに高く買い取ってくれる。
三人とも加入してもらった。
一方プロテクター組合は整然としてた。恐らく商人や一般人も来るからだろう。
食事スペースも綺麗で、ハンター組合の料理とは違うようだ。
ここも食べにこなきゃ。
手続きはハンター組合と似たようなものだった。
後は待合所のような場所で座って待ち、ただ客から声が掛かるのを待つ者もいれば積極的に客を引く者もいる。
人気者になると、カウンターで指名されたり時には競りにかけられたりする事もあるとか。
また大きなキャラバンになると、複数のグループに依頼される事もあるらしい。
どうやら、経験の豊富さや人気の有無に左右されるようだ。
僕のような新参者は難しそうだな。
何列か並んだ長椅子から開いた席を探していると、最前列が空いた、と言うか開けてくれた。
「ここいいの?」
「あ、ああ。もちろんだ」
数人が席を立った。むふ、入った時からそんな気はしてたが、どうやらハンター組合の一件がもう伝わっているらしい。
どこの家庭にあるものではないなど条件はあるものの、電話的な物は存在する。
最前列に座って待つが、客にまでハンター組合の一件が伝わっているはずもなく、なかなか声は掛からなかった。
食事でもする?
と言おうとしたら、エヴェリナとベッテが立ち上がり声を張った。
「あの王妃様や貴族の皆様の悪魔を祓ったダーケス・ナイトが護衛をします」
一瞬でざわめきが止まった。
ほとんどが商人だ。身の安全もだが、王族貴族との繋がりの匂いを感じ取ったのだろう。
百合亜ちゃんも立った。
「私は異世界人。先日まで王城の訓練場で近衛兵になる為の特訓を、近衛隊長のクラース直々に受けていました」
百合亜ちゃんしたたか。使えるキーワード全てぶっ込んだ。
僕たちの前に客がどっと押し寄せた。
百合亜ちゃんは僕に悪戯っぽく笑って見せた。可愛い。
たちまち逆に条件を出せる立場となった。
僕たちの出した条件は往復である事。
行き先で一週間以上滞在する事。これは観光がしたいから……
食事は実費でいいから、当然報酬がいい仕事。
その代わり少々の危険は冒す覚悟がある。
その結果、全国に手広く展開しているヨーラン商会という大きな商会の、イエオリという男と契約した。
出発は三日後と決まった。
護衛には片道三日掛かると言うから、ホテルの食堂でウエイトレスをしている猫耳のマタタビに往復六日分プラスアルファの食事を用意してもらうことにした。
「食器も借りときたいんだよね」
「大丈夫だニャン」
「一食ずつ人数分」
五千ギルを渡すと、苦い顔をしていたマタタビは満面の笑みを浮かべやがった。
「ネコムスはちゃんとしてる?」
「ちゃんと……してるニャン」
低い、テンションが低いぞ。
「会いに行ってみよう。訊きたいこともあるし」
ネコムスは並べた宝飾品の後ろで片ヒザを立てて座っていた。
近づくと耳がこっちを向いたとこを見ると、充電は出来てるみたいだな。
「ちゃんと猫耳やってる?」
「やってるニャ」
「……ニャ? ニャンじゃないの」
「今リハビリ中だニャ。小姑みたいにチェックかニャ!」
「いや、まあ、それもなんだけど、アムルス貝の指輪はもう無いかなと思って」
あれば何かと便利だし。
ネコムスは後ろの段ボールを覗いた。
「無いニャ、あれは素材が入らないニャ。隣のハバールス帝国の海岸ならどこにでもあるけど、ローゼンヴェリーだと、湾岸都市エビリスタくらいしか無いニャ。以前はハバールスから入ってたけど、最近ハバールス産は見かけないニャ。エビリスタからも運ぶ人はほとんどいないニャ」
よほど需要がないらしい。
「今夜、宿の食堂に食べにおいでよ、いや、プロテクター組合で食べよう」
「いいのかニャ、前から一度入ってみたかったニャ」
プロテクター組合の食堂は宿の食堂とはまた違っていた。
「この海老っぽいの美味しい」
海老の姿焼きのようなものを食べた百合亜ちゃんはテンションが上がる。
「ああそれ美味しいニャ、車エビ」
「……」
僕と百合亜ちゃんは顔を見合わせた。
「車エビ?」
「車エビニャ。お高めだけど美味しいニャ」
当たり前のように答えた。
「こっちの一口いなりも美味しいですよ」
エヴェリナは小さないなり寿司を差しだした」
「こっちにも稲荷神社ってあるの?」
「いなりジンジャー?」
エヴェリナは百合亜ちゃんを見て首を捻った。
「私はこれも好きです。豚の生姜焼き。ご飯が進むんです」
「そもそもこの世界、この星ってなんていうの」
「ガイア」
三人は口を揃えた。
「ここはウーラシア大陸だニャ。空のは昼が太陽、夜は一つが月、もう一つ少し大きいのがムーンだニャ」
キツネにつままれたような不思議体験をした。
稲荷だけに……




