第十話 ボス戦
いやいやいやいや、ここで王妃と間違いが起きたとしたら、童貞喪失したことになるのかな。
なんか近いんですけど、物理的にも心理的にも。
僕? 全然射程圏内ですし。いや、これだけ若々しくて綺麗なら、誰でも圏内でしょう。
って、これだから童貞はってパターン? 妄想先走りすぎ?
まあいい。
見えてんだよね、ゲート。ってことは、来るでしょラスボス。で、ガブラ使えない縛りみたいな?
「王妃よ、ここで待つがいい、この先は危険な匂いがする」
そして王妃はいい匂いがする。
王妃は手を胸元で組んで少女みたいに立ち尽くす。可愛い。
上に注意しながらゲートに歩いて行くと、はい、来ました下から。
土を派手に盛り上げて、デカそうな感じの奴。
もしかして来るまでずっと潜ってました? うけるんですけど。
十メートルくらいあるナマハゲが出てきました。
まずはドラゴンブレス。目を狙って撃ちまくり。
はい片目撃破。HP少し削りましたー。
今回のデート、じゃなくてミニ旅行で、装備のこともだいぶ分かりました。結構、俺ツエーですよ。
始めのオロオロしていた自分が、恥ずかしくなるくらいですわ。
リロードしたらもう片方の目に狙いを定めてって、伸びてきたんですけどぉ、舌が。慌てて撃ったら外しまくりで、銃が飛んで行っちゃいました。おまけに舌で弾き飛ばされたんですけど。気持ち悪い。
これだから童貞は。
とりあえず逃げる。ボス戦はパターンを覚えるのが基本だよね。
攻撃は舌でのペロリと腕のなぎ払い、あとは踏みつけ。
見切った――
ケイオスブレードを抜いて攻撃をよけながら炎を焚いて斬りかかる。一振り、二振り、スネが裂け傷口が燃え盛る。
もう一本の脚も、一振り、二振り、はい、体勢崩しました。あとは前に出て首を切り落とすだけ。
首に向かって走り出すと、何かがおかしい。
何で立ち上がる。
振り向くと脚が六本になってるし、さらに腕が四本になってるし。
こういう時は逃げる。
そして掴まれる。パターンにないんだけど。第二形態だ。
大きく開いた口が迫ってくる。
でも知ってる、剣を投げてもう片方の目に刺して潰す。
二番人気の脇役がやるヤツだけど、仕方ない。
ナマハゲの目に剣を投げつけた!
縦に当たってちょっと痛がった。
剣は刺さったよ、見事地面に。
さあどうする? 太股の手斧やナイフには手が届かないし。
食べられたら咀嚼されるのかな、どうせなら飲み込んで欲しいな……
いや、諦めたら負けだ。中二以来、笑われようが馬鹿にされようが、諦めずに来たから今、異世界でスローライフを楽しめるチケットを手に入れたんじゃあないか。
噛んだよ、噛まれるくらいなら噛んだよ、気持ち悪いけど噛んだよ。
恐ろしいもんで、人間っていざとなったら凄い力を発揮するんだね。食い千切りまくってやった。どっちが悪魔か分からないくらい、食い千切ってやった。
さすがに痛かったのか、ドン引きしたのか分からないけど、手放してくれた。解放してくれたんだ。
落ちていくさなか、業火の手斧と氷結の手斧を投げつけてやったら、奇跡的に刺さった。
ナマハゲの身体が燃えながら凍っていく。
僕はというと、地面に叩き付けられた。
痛い。けど逃げる。
ナマハゲは相当苦しんでくれているようで何より。
それにしても痛い、折れたかなどこかの骨。
でももう少し。王妃を救うんだろう、うるか。
立ち上がって
「疾風よりも早く、鐘の音が一万尺へ届かん前にたどり着け、駆けろ神速」
と叫び、スピリットナイフで足を六つ全て吹き飛ばし、逃げられるだけ逃げた。
十秒経つとナマハゲは呻きながら手をついた。逃げすぎたせいでチャンスロスだ。
身体を引きずりながら、ナマハゲの首を目指した。
ナマハゲが満身創痍の僕を睨み、四本の手で這い寄ってきやがった。
ここであえての立ち向かう。ギリギリの所で頭を抱えてうずくまり、胸に刺さった斧を抜くと、通り過ぎたとこで背後から斧を使ってよじ登った。
頭まで来たら二本とも刺して、ダメ押しで首にナイフを突き立て精霊を流し込んだ。
ナマハゲの首から上が、燃え盛る肉片と凍った肉片になり、飛び散った。
その場に倒れたナマハゲは煙のように消えていった。
僕が力なく倒れていると、王妃が駆け寄って来て抱きかかえ、そして抱きしめてくれた。
頬ずりがとても温かく柔らかくて気持ちよかった。
体調が戻ると、二人手を繋ぎゲートをくぐった。
目を覚ますと、王妃に跨がり手を握っていた。
僕、なんかやっちゃいました?
と思っていると「天と大地に渦巻く精霊たちよ、その力を我に与えたまえ、この者を癒やしたまえ」と言うエヴェリナの涙声が聞こえた。そうか、ずっと癒やし続けてくれてたんだな。
ベッテもアッシリアも泣いている。他の王女たちも涙を流しているじゃない。クソ王子共は王妃目覚まさないだが? みたいな目をしてやがるぜ。
悪魔払いはまだ終わってないんだよ。仕上げがあるんだ。
「ベッテ、これから悪魔が出てくる。身体全部が出てきたら声を掛けて」
「はい、分かりました」
「下劣なる悪魔バズルーよ、出てきてその姿を見せよ。って貴様は臆病者だから出てくるはずも無いか。なら、下劣なる悪魔バズルーよりも勇敢な下級悪魔よ出てこい」
「誰が臆病だーっ」
はい釣られました。
「実に臆病者らしい顔をしている」
「口は達者だが恐れおののき後ずさってるではないか」
「貴様の口が臭いんだ」
「この小僧がー」
「出ましたご主人様」ベッテが拳を握って叫ぶ。
すかさずケイオスブレードを抜き、これまでの王妃の辛さを想像する。
刃は瞬く間に黒い炎を上げた。
それを見たバズルーは、戸惑い王妃の中に戻ろうとしたが、なぎ払い炭も残さず魂ごと焼き尽くした。
ミザリアさん曰く、身体の一部でも宿主に残っていたら、たちまち再生して悪魔払いは失敗するそうだ。
王妃の手を離すと、彼女はゆっくりと瞼を開いた。
室内がどよめく。
王妃は僕を見て微笑む。
だから耳元に口を寄せた。
「おかえり」
すると王妃は「ただいま」と笑った。
王妃をゆっくりと起こし、国王とアッシリアの顔を見た。
二人は歩み寄り王妃を抱きしめると涙で頬を濡らした。
王子と王女が何人かすぐ駆け寄ったが、実の子だろう。
エヴェリナとベッテに礼を言うと、二人は泣きながら抱きついて来てくれて、なんかとても嬉しかった。
短い旅だったけど、久しぶりに家に帰ったような安心感を抱いた。
王妃から事情を聞いた国王は、僕たち三人に寝心地のよさそうなベッド付きの広い部屋を用意してくれて、食事まで運ばせてくれた。
豪華な料理の数々に、二人は目を丸くして喜んだ。
食事をしながらどんな旅だったかを二人に聞かせ、二人はそれを一喜一憂しながら聞き入った。
アッシリアの勧めもあって、一晩お世話になることにした。何より本題の異世界人に会うという問題が残っている。
今にして思えば短い旅や、戻ってきて迎えてくれる二人やアッシリアのおかげでお城に泊まれたり出来ていることが、不思議な感じだ。
不思議な感じだし、とても楽しい時間だ。




