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もふもふにだけモテる勇者は、自分の価値がわからない  作者: 遠崎カヲル


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3/13

冒険者ギルドと、面接と、通る理由

 宿を出てしばらく歩いたところで、ニャリエナが口を開いた。


「今日も宿に泊まるニャン?」


「……まことに申し訳ないのでござるが」


 ボッチルフは眼鏡を押し上げた。


「金が、ないでござる……ふごっ……」


「稼げばいいニャン」


「そうなんでござるが……その……吾輩、実は冒険者ギルドに所属していなくて……」


 ニャリエナが耳をぴくりと動かした。


「なんでニャン」


「……い、いつも面接で落ちるでござる……デュフフ……」


 笑い方がおかしかった。ニャリエナは首を傾げた。


「面接?」


「その……人と話すのが……吾輩、あまり得意ではなくて……ふごっ……毎回うまく言えなくて……はい……」


「じゃあ一緒に行くニャン」


「え、いや、ニャリエナ氏が行っても……その……」


「行くニャン」


 ニャリエナはすでに歩き出していた。

ボッチルフは慌てて後を追いながら、ぼそぼそと独り言を言い続けた。


「吾輩などのために……その……本当に申し訳ないでござる……ふごっ……」




 冒険者ギルドは街の中心にあった。

 扉を開けた瞬間、酒と汗と鉄のにおいが混ざった空気が押し寄せてきた。

 昼間から酒を飲んでいる男たち、依頼の紙を眺めている冒険者たち、怒鳴り声と笑い声が飛び交っている。


 ニャリエナは鼻をひくひくさせた。においを確認している。

 強い、弱い、危険、安全。その順番で周囲を値踏みしていく。


 視線が集まった。ボッチルフに向けられた視線だった。


「なんだあいつ」

「チビじゃねえか。しかもデブ」

「冒険者志望か? 笑わせんな」


 くすくすと笑い声が上がった。

 ボッチルフは肩を縮めて、眼鏡を押し上げた。そして、また押し上げた。

 ニャリエナにはその反応の意味がわからなかった。


 受付の窓口に座っていたのは、四十がらみの無愛想な男だった。書類を眺めたまま、顔も上げない。

 その手元には小さな水晶玉が置いてあった。


「嘘をつくと光る。わかったな」


 それだけ言って、男は面接を始めた。


「名前」


「……ボッチルフ、と申します……」


「職業」


「……旅人……でござる……ふごっ……」


「実績」


 沈黙があった。

 ボッチルフは口を開いた。閉じた。また開いた。眼鏡が少し曇った。


「……その……吾輩などの実績を申し上げるのも……おこがましいというか……その……ふごっ……ないわけでは……ないのでござるが……言いにくいというか……」


 受付の男がようやく顔を上げた。値踏みするような目でボッチルフを一瞥して、それから書類に視線を落とした。


「……次の方どうぞ」


「あ、いえ、その……まだ……」


「登録には実績の申告が必要です。申告できないなら——」


「人攫いを瞬殺したニャン」


 割り込んだのはニャリエナだった。受付台に顎を乗せて、受付の男を真っ直ぐに見ている。


「五人。一瞬でニャン」


 受付の男はニャリエナを見た。ボッチルフを見た。水晶玉は光らなかった。

 男はしばらく無言だった。


「……嘘ではないな」


「強いニャン」


 ニャリエナは誇らしげに言う。


「いい匂い。かっこいいニャン」


 受付の男は困った顔をした。ボッチルフは前かがみになりかけた。

 男はため息をついた。


「……試験だけ受けろ」




 試験の説明は簡単だった。

 受付の男は書類を差し出しながら、ボッチルフをちらりと見た。


「通常の試験課題は魔物一体の討伐、制限時間は二刻だ」


「はい……」


「お前の課題は鉄竜の角を三本。制限時間は一刻」


 周囲がざわめいた。


「おい今一刻って言ったか」

「鉄竜だぞ。しかも三本って」

「落とす気満々じゃねえか」


 ボッチルフは書類を受け取った。鉄竜の生息地、制限時間、必要な角の本数。全部書いてある。


「……あの……これは……その……」


「嫌なら帰っていい」


「……いえ」


 ボッチルフは眼鏡を押し上げた。


「やるでござる……ふごっ……」




 半刻も経たないうちに、ボッチルフは帰ってきた。


「半刻も経ってねえぞ」

「くくく。諦めたんだな」


 周りから声が聞こえる。


 ボッチルフは革袋を受付台に置いた。中から鉄竜の角が三本、転がり出た。

 ギルドの中が、静かになった。


 受付の男は角を一本ずつ確認した。本物だった。損傷もなかった。


「……不正探知を」


 別の職員が魔道具をかざした。反応はなかった。

 沈黙があった。


「……まあ」と誰かが言った。「運がよかっただけだろ」

「そうだな。たまたまだ」

「どうせ抜け道があったんだろ」


 ボッチルフは何も言わなかった。ただ眼鏡を押し上げて、小さく頷いた。


「……はい……吾輩など……その通りでございます……ふごっ……」


「違うニャン」


 ニャリエナが静かに言った。

 誰も答えなかった。


 受付の男はライセンスと一緒に、小さな袋を差し出した。


「登録完了だ。ランクはE。鉄竜の角三本の買取金だ」


 袋はずしりと重かった。


「……ありがとう……ございます……ふごっ……」




 ギルドを出ると、夕暮れが近かった。

 ボッチルフはぼそぼそと独り言を言いながら歩いていた。


「Eランクでも……その……ないよりはましでござるし……吾輩などにはちょうどいいというか……ふごっ……」


 ニャリエナは隣を歩きながら、鼻を動かした。

 ボッチルフから漂う、汗と脂のすえたにおい。


「いい匂い。かっこいいニャン」


「グボフ」


 ボッチルフは前かがみになりながら、それでも歩き続けた。


 しばらくして、ニャリエナが口を開いた。


「今日も宿に泊まれるニャン?」


「……泊まれるでございます……ふごっ……」


()()一緒にお風呂入るニャン」


 ふごっ、ぶしゅっ。


 ボッチルフの鼻から、赤いものが噴出した。

 止まらない。


 眼鏡を押し上げる手が、わずかに震えていた。

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