表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふにだけモテる勇者は、自分の価値がわからない  作者: 遠崎カヲル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

呪いと、術者と、効かない理由

 妙な事件の噂が立った。


 町はずれの廃屋に近づいた者が体調を崩すらしい。

 調べた結果、原因は地下から発せられる呪いのせいという事がわかった。


 役所からギルドへ正式に探索調査依頼が入り、いくつかの冒険者が現地へ向かった。

 しかし、調査に行った者たちもことごとく被害を受け、撤退を繰り返した。

 戻ってきた者たちは皆、顔色が悪かった。妙なことに、実力者ほど症状が重くでた。


 ギルドで合同調査が組まれる事になった。

 Aランク三人組の冒険者パーティを筆頭に、Bランクの前衛が二人、同じく魔法使いが二人。さらに、手練れの斥候が一人。

 そこに、ボッチルフとニャリエナが加えられた。どう考えても荷物持ちの人数合わせだった。


「おまえらは後ろでいい。足引っ張るなよ」


 Aランクのリーダーがボッチルフを一瞥して言った。


「はい……でございます……」


 ボッチルフは小さくうなずく。

 ニャリエナは気にした様子もなく、鼻をひくひくさせながら周囲のにおいを確かめていた。




 廃屋に入った瞬間、空気が重くなった。体に見えない何かがまとわりつくような感覚がある。

 奥へ進むほど、その嫌な感じはどんどん強くなっていった。。


 先頭を歩いていた斥候が、不意に足を止めた。眉をひそめ、周囲を警戒するように視線を動かす。


「おかしい……感覚が、鈍い」


 斥候が小さくつぶやく。その声を合図にするように、後ろでも変化が出始めた。

 魔法使いの一人が顔をしかめた。体の中の魔力が、勝手に抜けていく。

 前衛の一人が剣を持つ手を見下ろす。握力がなくなり、武器が重い。

 Aランクの一人が膝をついた。立ち上がろうとしても、うまく力が入らない。


 ニャリエナもふらついた。耳がぺたりと下がる。


「変なにおい、強いニャン……」


 異常が広がる中、ボッチルフだけが、何事もないように立っていた。


 周囲を見回す。

 斥候は壁にもたれかかり、前衛は剣を引きずるように歩いている。魔法使いは額を押さえていた。

 Aランクのリーダーは顎を引いて、それでも前を向いている。

 ボッチルフは自分だけが、何も感じていないのを悟った。




 皆、歯を食いしばって進む。プライドと意地だけが支えだった。


 ボッチルフを除いて。


 最奥の部屋に入ると、床一面に魔法陣が広がっていた。

 複雑な線が幾重にも重なり、中央に黒いローブの男が立っていた。


「ほう……ここまで来たか」


 男が顔を上げた。視線が巡り、倒れかけた者たちを確認して、やがてボッチルフで止まった。


「ククク、この場は効率がいい。強い冒険者ほど、呪いがよく馴染む。私の力の源となるのだ」


 男が手を上げると、空間が歪んだ。黒い揺らぎが広がり、冒険者たちが苦しそうに膝をついた。


 ボッチルフを除いて。


「……あの……?」


 ボッチルフが首を傾げた。


 男は眉をひそめると、もう一度、黒い揺らぎを放った。しかし、ボッチルフに触れた瞬間、消えてしまう

 ボッチルフは変わらずに立っていた。


「なぜ……効かない」


 低い声だった。男の表情が歪み、ボッチルフを舐めるように見た。

 それから、ボッチルフにだけ聞こえるように静かに言った。


「……呪いが効かない人間は、二種類だ。強力な神の加護を受けている僧侶か――」


 一度言葉を切り、再び口を開く。


「もしくは……すでに、呪われている者だ」


 ボッチルフは、ぴたりと動きを止めた。

 それから眼鏡を押し上げる。


「……どちらかは、想像に任せるでございます……ふごっ……」


 短い沈黙があった。


「……ならば始末する。ちょうどいい。この肉体強化の実験台になれ」


 男が足を踏み出すと、床が砕けた。一歩で距離が詰まり、鉄をも裂くような一撃を振り下ろす。 

 ボッチルフは体の芯を半歩だけずらした。拳が空を切り、風が頬をなぞった。


「……踏み込みに、癖がありますな……ふごっ……右に入る時、左肩が先に動く……呪いで強化した筋力に、体が追いついていないでございますな……」


 術者は舌打ちして、より大きく踏み込んだ。

 ボッチルフは外に逃げず、逆に内側に入った。手首を打って力を流し、肩を当てて軸をずらした。

 男がぐらりと体勢を崩したところで、足を払う。男の体が仰向けに倒れた。

 間を置かず、ボッチルフが押さえ込み、刃を喉へ当てる。


「……終わりでございます……ふごっ……」


 あっという間だった。


 男がボッチルフに飛びかかり、そのまま勝手に倒れて終わった。

 周囲には、そう見えた。


 ボッチルフは男を縛り上げ、要点の線をいくつか踏み潰した。部屋の空気が変わり、黒い靄が散っていく。

 斥候が顔を上げた。前衛たちが剣を握り直し、魔法使いが息を吐いた。ニャリエナが体をぶるりと震わせた。


「……軽くなったニャン」


 Aランクのリーダーが最後に立ち上がった。




 ギルドに戻ると、視線が集まった。

 Aランクのリーダーが前に出て話し始めた。


「……強力な呪いだった。能力が高い奴ほど影響を受けるんだ。俺たちは皆、動けなくなってしまった」


 ギルド中が静まり返る。


「だが、Dランクがいたからな。ほとんど影響を受けずに、結果的には助けられた」


 そう言って肩をすくめる。

 視線がボッチルフに集まり、失笑が起きた。


「術者は大したことなかったよ。なにせDランクにやられるくらいだからな。勝手に転んで自滅してた」


 笑いが漏れた。


「今回は低ランクに助けられたよ。お手柄だったな。ありがとさん」


 リーダーが言い終わると、笑いが広がった。


「役に立たないのが役に立ったな」 

「臭すぎて呪いも逃げたんじゃね?」

「キモくて術者が見落としたんだろ」 

「存在自体が呪いっぽいもんな」


 もはや、ギルド中がどっと沸いていた。


 ニャリエナの耳が逆立った。


「違うニャン!! 勇者様が全部やったニャン!! 助けられたくせに何いってるニャン!」


 空気が一瞬だけ止まった。


「いや、別に助けてとも頼んでないし」

「なあ」

「な」


 軽く頷き合った。空気が戻り、笑いがまた広がった。


 ニャリエナの尻尾がぶわっと膨らんだ。


「話にならないニャン!! もう行くニャン!!」


 ボッチルフの腕を掴み、出口へ向かって引っ張っていく。しかし、途中でくるりと振り返った。


「……報酬、もらうニャン」


 受付へ戻って袋を受け取ると、中身を確かめた。


「よかったな、稼げて」

「もらうもんはもらっとけよ」

「俺なら恥ずかしくてもらえないけどなー」


 飛んでくるヤジを無視して、二人はギルドを後にした。

 後ろではいつまでも笑い声が聞こえていた。




 夜の通りを二人で歩いた。ニャリエナはまだぷんすかしていた。


「まったく! 呪いは大変だったニャン」


 尻尾は膨らんだままだ。


「呪いって、変わったにおいだったニャン。でも……」


 ニャリエナは首を傾げた。


「そういえば、勇者様から、たまに似たようなにおいがするニャン」


「ぶほっ……そ、そうでござるか?」


「そうニャン。不思議ニャン」


 ニャリエナは、そう言ってボッチルフを眺めた。


「まあ……吾輩は……存在が呪いみたいなものでござる……ので……」


 そう言いつつ、ボッチルフは目をそらした。


 ニャリエナはしばらくボッチルフを眺めていたが、やがてにこっと笑った。


「勇者様になら、呪われてもいいヨ」


 そのまま振り向いて歩き出した。


「……ちょ、ニャリエナ氏……意味がわからな……な、何でございますか……?」


 慌てて後を追った。ニャリエナは振り返らなかった。尻尾だけが、機嫌よくゆれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ