表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bullullu ―龍脈を駆ける術師見習い―  作者: UBSshi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/22

第十話 図書館

授業と授業の合間、鬼燈院の廊下は一時的に賑やかになる。


生徒たちが次の教室へ移動し、誰かが誰かに声をかけ、笑い声が響く。その流れに逆らうように、ソウジは一人、別の方角へ歩いていた。


図書館は、鬼燈院の北棟の奥にあった。


重い木の扉を押すと、空気が変わった。


静かだった。廊下の喧騒が、扉一枚で嘘のように消える。天井まで届く本棚が何列も並び、その隙間に細い光が差し込んでいた。本の匂いがした。古い紙と、かすかな墨の匂い。


棚の一部には、普通の本とは明らかに違うものが並んでいた。表紙のない束、巻物、木の板に文字を刻んだもの。どれも年代を感じさせる、触れたら崩れそうな代物だった。


ソウジは迷わず奥へ進んだ。目当ての棚は決まっていた。


道術の理論書が並ぶ一角。氷系の道術に関する文献は少なく、あっても古いものばかりだった。それでも読み込めるものは読み込んでおきたかった。


本を一冊抜き取り、近くの机に座る。


静かだった。他に人はいない——と思っていた。


窓際に、人影があった。


臼井ライラだった。


窓の外から差し込む光の中に、小さな影が立っていた。何かをしている。手元に集中していて、こちらに気づいていないようだった。


ソウジは視線を本に戻した。


特に気にする理由はなかった。図書館に来る生徒は珍しくない。


本を開き、最初のページを読み始める。


——だが、何かが引っかかった。


ソウジは無意識に、再びライラの方へ視線を向けた。


ライラの手元に、小さな鳥がいた。


茶色い、地味な鳥だった。おとなしく、ライラの手の上に座っている。


ライラの指が、鳥の足元で何かを動かしていた。細い、糸のようなもの。それを鳥の足に、素早く、慣れた手つきで結びつけようとしていた。


その動きが——妙に、手慣れていた。


鳥を可愛がる者の手つきではなかった。もっと、無駄のない。目的のある動き。


そのとき、ライラがこちらを見た。


目が合った。


ライラの動きが、一瞬止まった。


止まったのは、本当に一瞬だった。すぐに表情が戻る。困ったような、少し恥ずかしそうな顔。前髪の奥の目が、伏し目がちになった。


「……あの、」


小さな声だった。


「驚かせてしまいましたか。」


「いや。」


ソウジは本に視線を戻しながら答えた。


「この鳥、外から入ってきてしまって。可愛くて、つい。」


「そうか。」


「なんか、懐いてしまって。足に木の実を結んであげようかと思って……。」


ライラの声は終始小さく、どこか申し訳なさそうだった。


ソウジはページをめくった。


「図書館に鳥を持ち込むのは感心しないが、俺には関係ない。」


「……すみません。」


それきり、ライラは黙った。


ソウジは本を読み続けた。


ただ——もう一度だけ、視線が動いた。


ライラの方を、無意識に。


窓際にライラはまだいた。だが鳥の姿はなかった。いつの間にか、窓の外へ飛んでいったらしい。ライラは静かに窓の外を眺めていた。


その横顔は、穏やかだった。


本当に、鳥が好きなのかもしれない。


ソウジはそう思い、本に視線を戻した。


---


しばらくして、ライラが立ち上がった。


「……邪魔してしまってすみませんでした。」


「邪魔はしていない。」


「そうですか。」


ライラが頭を下げて、図書館の扉へ向かう。


その背中をソウジは見なかった。


ただ、ページをめくる手が、一瞬だけ止まった。


何かが、引っかかっていた。


うまく言語化できない。気のせいかもしれない。ライラは確かに申し訳なさそうだったし、鳥を可愛がっているようにも見えた。


だが——。


ソウジは静かに息を吐き、本に集中した。


今は関係ない。


そう結論づけて、ページを繰った。


---


図書館の扉が閉まった。


廊下に出たライラは、少しだけ足を速めた。


窓の外、空はもう何もなかった。鳥は、とっくに見えなくなっていた。


ライラは空を見上げなかった。


ただ、前を向いて、歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ