戦争前夜
初めて来たときに比べて、村はかなり復興したといえるだろう。
壊れていた家々は整い、荒れていた畑にも緑が戻りつつあった。
ここまで復興が早かった要因は、何より村長の存在が大きい。
あの男の指示はいつも的確で、無駄がない。
俺が持つ力をどのように使えば最も効率よく作業が進むのかを瞬時に見抜き、村人たちに指示を出していく。
俺に「固定」の力で骨組みを固めさせ、「加速」で資材の運搬や作業の工程を短縮させる。俺がひと働きするだけで、ニンゲンたちが何日もかける労力が一瞬で浮くのだ。
「さすがは村長様だ」と、村人たちも口々に男を称えていた。
いつも穏やかに微笑み、村のために尽力する優秀な指導者――俺の目には、村長がそう映っていた。
その裏で男がどれほど冷酷な計算を巡らせているかなど、当時の俺が知る由もなかった。
――そしてある日、村の外から大勢のニンゲンが向かってきているという情報が届いた。
どうやら、連合軍とやらが村長の判決を下しに差し向けた精鋭たち……ということらしいが、詳しい事情など俺にはよく分からなかったし、どうでもよかった。
ただ、村のニンゲンが血相を変えて俺のもとに駆け込んできた。
「お願いです……! あの侵略者たちがまた村を滅ぼしにやってきました。
契約通り、我らと村長たちを守ってください。」
この時、ニンゲンは何を言っているのだろうと思った。
あの日、村長との契約は以下の通りだ。
一、我が村は汝の滞在を許可し、滞在中は村の民の一員として扱う。
代償として、汝はこの村の復興に全力を尽くすものとする。
二、この契約の執行日から数ヶ月後、連合軍がこの村を訪れる。
その時に戦闘に発展しそうな場合、汝が仲裁に入り、戦闘をやめさせるものとする。
三、現村長の娘を汝の世話係として任命する。
代償として、汝は娘の護衛の役割を兼任するものとする。
四、この村契を破った場合、即座にこの村から追放するものとする。
五、我が村の存続が脅かされる事態となった場合、汝は村長の指示に従い、優先して村長およびその血族
の安全を保護するものとする。
六、汝が持つ特殊な力の行使は、村長または役人の承諾を得た上で行うものとする。許可なく力を行使す
ることは固く禁ずる。
七、汝が本契約および村契を順守している限り、我が村は汝を永遠に家族として迎え入れ、食料と住処を
保障するものとする。
――「守れ」などという文言は、どこにもない。
あるのはただ「戦闘に発展しそうな場合、仲裁に入り戦闘をやめさせる」という文字のみだ。
村長はあらかじめ、自分を裁くために大勢のニンゲンが押し寄せてくることを知っていた。そして、その時のために俺という存在を「仲裁」という口実で引き入れ、自分と血族の盾(五条)、および都合の良い兵器(六条)として縛り付けようとしていたのだ。
それに、個人的にあの村長には興味がある。
ただ従順なだけのニンゲンより、これほど欲望に忠実で狡猾な男のほうが面白い。
死ぬには惜しい人材だ。
「了解した……。では、到着しだい戦闘の仲裁へと向かおう。」




