戦争……?
翌日、連合軍の精鋭30人ほどが村に到着した。
鍛え上げられた鉄の甲冑に身を包み、鋭い槍や剣を構えたニンゲンたち。
ただの村一つを平らげるには過剰なほどの武力。
それこそが、村長という男が背負った「罪」の重さを物語っていた。
「村長を出せ! 我らは連合の命を受け、悪逆の限りを尽くした罪人に刑罰を与えに来た!」
村長の罪状は三つだった。
一、自らの村の繁栄を優先し、水を止め、流通を遮断して近隣の村々を瓦解・滅亡へと追いやった罪。
二、この惨烈な戦争を引き起こした発端者としての罪。
三、囚えた奴婢らに過剰な労働を強いて使い潰し、ニンゲンとしての尊厳を無惨に踏みにじった罪。
先頭に立つ男が、腹の底から響く声で叫ぶ。
少しひっかかることがあった。
俺が見てきたこの半年間の間、奴婢という存在をこき扱っていたとは思えないのだ。
村の民たちとの格差はそこまでなく、明らかな誇張のように感じた。
それに、村長としてこの村を守ろうとし、成長させようとすることは当然なのではないだろうか。
各村長の対応が遅れたことに罪があるのではなかろうか。
そう考えていると、村長が声をかけてきた。
「違和感を感じるだろう。
あれは、隣村のやつらが俺を確実に殺すために用意したものだ。
確かに俺は、近隣の村のことまで考えれなかった。だからと言ってこの仕打ちは過剰と思わんか。
汝の言うニンゲンってのは、きたねえ生き物なんだ。せめて、同士だけでも信じてみようぜ。」
「……そうか」
俺は静かに頷いた。
半年間この村で見てきた事実と、目の前の村長が口にした言葉。
それらを天秤にかけたとき、俺の中で一つの答えが導き出された。
——村長は村を守ろうとしただけなのだ。
——隣村のニンゲンたちが、己の過ちを棚に上げて村長を殺そうとしているのだ。
——そして俺とこの村は、この理不尽に立ち向かう「同士」なのだ。
それは疑う余地のない「真実」として胸に収まった。
「分かってくれたか……! そうだ、俺たちは同士だ!」
高台の上で、村長が歓喜に顔を歪ませる。
己の言葉一つで神すらも手玉に取ったという優越感と、これで助かったという安堵。
その下心に、俺は気づく由もなかった。
俺は視線を眼前に迫る連合軍の精鋭たちへと向けた。
村長を陥れ、無道な罪を擦り付け、命を奪おうとする悪しきニンゲンたち。
「おい、退け! 邪魔立てするなら容赦なく刻み刻んでくれる!
この村の民は、全員殺しても誰も咎めないほどの存在なんだよ!!」
先頭に立つ隊長らしき男が剣を構え、膨れ上がる殺気とともに踏み込んできた。
同時に、俺は力を使った。
刹那、隊長らしき男の体は、剣を振るおうとした姿勢のまま、肉片と血煙となって雲散霧消した。
その背後に一直線上に並んでいた精鋭たちも例外ではない。鉄の甲冑も、鍛え抜かれた肉体も、巨大な鉄槌で潰されたように瞬時に粉砕され、赤い霧となって大地に撒き散らされた。
俺は拳を振るっただけだった。
もちろん、色々な特典付きだ。
「固定」により、空気抵抗や重力といった邪魔な物理現象を一切固定し、排除した。
「加速」により、振り抜く拳の速度を限界のその先へとまで高めた。
大気を押し開く音すら置き去りにした一撃。
空気の抵抗を全く受けず、加速を極限まで保持した拳が引き起こしたのは、単純な打撃ではなく、空間そのものを削り取るような壊滅的な衝撃波だった。
「……ひっ……!?」
俺の直線状から大きく逸れていた数名だけが、辛うじて五体満足のまま生き残っていた。
だが、彼らの顔から殺気や正義感は完全に吹き飛んでいた。
返り血と、同僚だったものの肉片を全身に浴びながら、信じられないものを見る目で俺を見つめている。
足がガタガタと震え、構えていた槍が手から落ちて土に刺さった。
「ば、バケモノ……ッ!」
人間が積み上げてきた武力も、正義を騙る罪状も、俺がただ一度拳を振り抜くことの前には何の意味もなさなかった。
高台の上からは、村長の息を呑む気配が聞こえてくる。
俺は血の匂いに満ちた風の中に佇みながら、拳をそっと下ろした。
「……仲裁は完了した」




