断章1ー2
思ったより長くなりました。
この戦は勝てる。
誰もがそう信じていた。
この一日さえ過ぎれば、また今までの日常に戻れると思っていたのだ。
しかし、いざ戦が始まると、誰もが恐怖で身を戦慄させることになった。
隣村との境界を流れる川の周辺は、足を取られる泥深い沼地だった。
それゆえ本来なら大規模な戦闘には向かないというのが、集落の指揮を執る役人たちの見立てだった。
そして、この地理的条件の価値にいち早く気づいていたのが村長だった。
六年前の戦が終わるやいなや、引き抜いた奴婢たちを死に物狂いで働かせ、沼地に櫓を建てさせると、そこから村へと繋がる一直線の道を切り拓かせたのだ。
敵の姿が見え次第、櫓から空高く狼煙を上げる。
それが、我が村の防衛陣形を整えるすべての合図となるはずだった。
しかし――あの日、狼煙よりも先に見えたのは、誰もが目を疑うほどの大軍だった。
こちらの戦力の三倍はあっただろう。
そこには隣村の者たちだけではなく、無数の弱小集落が、命を賭して結託した「連合軍」の姿があったのだ。
我が村の防衛線は一瞬で崩れ去った。
奴婢を盾にしても恐れずに押し寄せる大軍。
燃え盛る家屋、血に染まる道。
村の砦や櫓はすべて破壊され、占領された。
戦いに備えていた男たちは、その場で次々と打ち取られていった。
六年間、すべてを完璧に支配していたはずの村長の計算は、連合軍の凄まじい執念の前に、呆気なく崩壊したのだった。
俺はというと、その大軍を目にした瞬間、持ち場を捨てて逃げ出した。
女子供のいる避難所へと駆け込み、「警護に来た」と偽ってその中に紛れ込んだのだ。
外から凄惨な悲鳴が響き渡る中、震える女子供を落ち着かせる俺の姿は、さぞ英雄のように見えただろう。
仲間たちが殺されているというのに、俺は一体何をしているのだろう――
そんな自責の念が胸を刺した時、激しい音とともに避難所の扉がこじ開けられた。
避難所の扉は、この村の人しか開け方を知らないはずなのだ。
すると見知った顔と共に連合軍が突入してきた。
裏切者が出たのだ。
そうして、我が村は完全に占領されたのだった。
その後、生け捕りにされた役人や村長が村の中央へと引きずり出され、連合軍による「裁判」が始まった。
その場で告発された罪状を聞き、村人は初めてこの現状の意味を理解した。
村長は六年前、櫓と道を作っただけではなかった。
山を開拓したり、河川をせき止め、水流を強引に変えたのだ。
その結果、水脈を奪われた近隣の村々では壊滅的な干害や飢饉が頻発した。
交渉しようにも、我が村と向き合えば悪魔のような不平等な条約を突きつけられるということも彼らは分かっていた。
生き延びる道はただ一つ、結託して我が村を潰すこと。
――そうして出来上がったのがあの連合軍であり、この惨絶な結末だったのだ。
連合軍が最初に行ったことは、隣村の監視のために派遣されていた警護衆を金で買収することだったという。
確かな地位と莫大な金を条件にあっさりと裏切った警護衆の殺害を合図に大軍は動き出したようだ。
また、境界線を見張っていた櫓には、村人には知らされていなかったが奴婢が常駐させられていたそうだ。
その奴婢も連合軍を見ると、狼煙を上げるどころか、我が村に続く道を丁寧な案内をしたらしい。
こうして連合軍は村の占領に成功したということだそうだ。
それから裁判の判決だが、役人は処刑で、村長の罰は保留ということになった。
女子供は、五十人ほど連れていかれた。
遺された俺たちを包み込んでいたのは、ただ底知れない絶望の表情だけだった。
そんな中、俺たちのもとに一人寄ってきたやつがきた。
そいつは呑気な面で、こう言った。
「初めまして、ニンゲン」
……しばいてやろうかな。




