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凪の瓶を携えて  作者:
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18/20

18話

(ここが届け先のはずだけど……一体これはどういうことだ)


 驚きで駅弁が入った袋を落としそうになる。

 家があるはずの場所にあったのは何とコインパーキングだった。


 アスファルトが綺麗に敷かれていて、車が何台も停まっている。

 どう見ても人が住んでるようには見えない。


 ゲームとかなら地下へ続く入口があるんだろうけど、残念ながらこれは現実だ。


(でも住所は間違いなくここで合ってる)


 地図アプリに何度か直接住所を入れてみるが、何回やっても目の前のコインパーキングがある場所にピンが刺さってしまう。


 こうなると可能性としては二つ。


 一つ目はシンプルに住所ミス。

 二つ目は最近どこかに引っ越した。


 あとは元々ここはコインパーキングで、実はお隣が届け先の家ってことも――いやそれなら流石にそう書いてるか。


(アプリで過去のこの辺りの風景を追えないかな)


 アプリを開いて調べる。


 過去のここの風景は……なるほど。

 昔はここに家があったんだ。


 アプリで過去の画像を見ると、今から一年前の画像は更地。

 さらに五年遡ると家が建っている画像が出てきた。


 都会みたいに細かなデータの更新がされていないので、具体的にいつこうなったのかはわからないけど、どうやら元々ここにあった家を取り壊して、いま目の前にあるコインパーキングが出来たのは間違いなさそうだ。


 まあそれがわかったところで、これ以上はもうどうしようもないが。


 どこかに引っ越ししたか、それともおじいちゃんくらいの年齢だったら……。

 あまり良くない想像が頭の中によぎる。


(とりあえず磯崎さんかおじいちゃんに電話するべきか?)


 でもここ住所を教えられたって事は、多分二人とも詳しい事情を知らない可能性が高い。


 だけどこれ以上はどうしようもないし、やっぱり電話するしかないだろう。

 磯崎さんには……ちょっと電話しづらいしまずはおじいちゃんに電話をかける。


(いつもすぐに出ないよな。おじいちゃんは)


 待てども待てどもコール音が帰って来るばかりで電話に出る気配がない。

 まあここまでは予想通りだ。

 

 その後二回、三回と電話をかけて五回目でようやくおじいちゃんが電話に出てくれた。


『どうした叶都。もう届け終わったのか?』

「いや全然。まだ途中だよ」

『なら何で電話を掛けてきた?』

「それが岡山の届け先に着いたんだけど――」


 数年前にはおそらく家が無くなっていた事、そして今はコインパーキングに変わった事を伝える。


『そうだったのか。なら近所の人に聞け。確か日名口ひなぐちさんの知り合いがすぐ近くに住んどったはずだ。その人なら詳しい事情や引っ越し先も知っとるだろう』

「わかった。その知り合いの人の名前――って電話切れてるし」


 だけど相手の名前がわかっただけ一歩前進か。

 あとはおじいちゃんの言う通り、近所の人に聞いて回るしかないな。


 それにしてもAIに聞けば何でもわかるこの令和の時代に近所の人へ聞き込みね……。


 といっても流石のAIもデータがないと誰がどこに引っ越したとかわかるわけないもんな。


 とりあえず地道に一件、一件回ってみるか。



――――



 ……と意気込んだものの、かなり苦戦した。


 最初の数件はまずインターホンを鳴らしても出てすらくれない。

 出てくれる家がたまにあっても、警戒してかそんな人は知りませんの一点張りで話はすぐに終了。


 まあ最近世の中物騒だから仕方ないけど、悲しくなる。

 でも警戒する気持ちもよくわかる。


 僕が相手の立場なら、こんな昼間に帽子を被った男がリュックを背負って一人自宅に尋ねてきたら、間違いなく警戒するだろうし。


 そして十件目を超えたあたりで、ようやく家から出てきて話してくれる人と出会えた。


 温和な顔つきで見るからに人の優しそうなおじいさんだ。


日名口ひなぐちさん?」

「はい、数年前までこの近所に住んでて、どこかに引っ越されたと思うんですけど。多分男の人で少しお年を召した方だと思います」

「男、日名口……あーあの熊みたいに大柄な男の人だね。思い出した思い出した」


 そう言っておじいさんが何度も頷く。


「本当ですか!? どこに引っ越されたとかご存じですか?」

「いや、申し訳ないけど詳しくは知らないねぇ」

「そうですか……」

「もしかしたらだけど、武田さんなら知っとるかもしれないね」

「武田さん?」


 誰だろう。

 歴史ゲーム好きなのでとある戦国大名の顔が頭の中に浮かぶ。


「町内会の会長さんだよ。何度か話してるところを前に見かけたことがあるから、多分何か知っとるんじゃないかな」

「わかりました、ありがとうございます。あと武田さんのお家の場所はご存じですか?」

「あー確か……この通りを右に曲がってしばらく道なりにいった先だったかな。大きい家だから行けばわかると思うよ」

「ありがとうございます!」


 気持ちを込めて勢いよく頭を下げる。


「いやいやお酒の配達だっけ? 頑張ってね」

「はい、失礼します。ありがとうございました」


 その後、武田さんの家に行き事情を説明すると、なんと武田さんが僕のおじいちゃんの事を知っていた。そのおかげでここまで苦戦したのが嘘だったみたいに、あっさりと引っ越し先の住所を教えてもらうことが出来た。


 おじいちゃんがもっと詳しく教えてくれたら、こんな苦労せず済んだのにな。

 そう思う一方で、多少なりとも教えてくれたからこそたどり着けたのも事実。


 何とも言えない複雑な心境になる。


 とにかく武田さんによると日名口さんは家を取り壊した後、同じ岡山県にある倉敷市という場所にあるマンションへと引っ越したようだ。


 ただ武田さん曰く行っても会えるかどうかは微妙らしい。

 その理由は教えてくれなかったけど、教えてくれないってことは多分あんまり良い理由ではないんだろう。


 その後また岡山駅へと戻り、電車に乗って今度は倉敷市へと移動。

 途中、改札口を通った先にも駅弁を売ってるお店があったので、お腹が空いていたこともあり、また駅弁を購入した。


 岡山といえば桃。

 桃と言えば桃太郎ということで、一番人気らしい桃の形をしたタイプのお弁当を買ってみた。


 お弁当の中はご飯の上に錦糸卵が乗せられたちらし寿司。


容器も凝っていて、まず形が桃。

 そして色もピンク色という徹底ぶりだ。


 他の具材はエビやタコなど海鮮系の具材が中心に乗っていたけど、容器の見た目に反して味はあっさり目。


 結構食べやすくて美味しいお弁当だった。


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