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凪の瓶を携えて  作者:
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17/20

17話

(このフェリーが港に着いたら、ようやく岡山か)


 残念ながら岡山への船に高速艇はなかった。

 なので今回はフェリーで約一時間の船旅となる。


 出発してからまだ三日目くらいのはずだけど、島で一日過ごした間は色んな出来事があった。


 だから気分的にはもう一週間くらい旅してる気分だ。


 それは多分、こうやって船で移動している事も影響しているかもしれない。

 船で移動するたびに別の世界に移動している感覚があるから。


 言葉だけなら、海という大きな水溜まりを超えただけなのに、そう感じるのは一体どうしてだろう。


(いやそれより、今は次の配達先に向けて色々考えるべきか)


 幸い時間もあるし、船内もゆとりがあって良い雰囲気だ。


 船内はかなり広くお菓子や飲み物などが売っている売店まである。

 デッキの方にも出られるみたいで、到着するまでゆったりと過ごせそうだ。


 お客さんは観光客とあとはビジネス客の姿が少々といった感じ。みんな思い思いの場所でそれぞれ過ごしている。


 それじゃあまずは計画を――。

 と考えたところで小さくお腹の虫が鳴る。


(……計画の前にまずはご飯を食べるとしますか)


 今朝、島で買った大師まんじゅうを袋から取り出す。


 ん? みんな外で何してるんだろう。


 箱の包装を開けるのに苦戦する最中、ふと顔を上げると遠ざかる島に向かってスマホを向けている人達の姿が目に入った。


(ああ、写真を撮ってるのか。そういえば、旅の途中に写真とかぜんぜん撮ってなかったな)


 母さんにも旅の写真を撮っておけって言われたし、見習って僕も撮っておくか。遠ざかる島の写真なんて、この先の人生で撮れる機会は早々ないだろうし。


(うわっ、外は結構風が強いな)


 風で帽子が飛ばされないように押さえながら、遠ざかっていく島をスマホで適当に撮影していく。


 写真を撮っている人の中には、本格的なカメラを使っている人もいて、そんなに撮ってどうするんだっていうくらい、連続のシャッター音を響かせている。


(僕はもうこれくらいでいいや)


 島が手のひらで簡単に覆い隠せるくらいのサイズになったタイミングで、撮影を止める。


 今の撮影だけで、ここ数年間の撮影回数を超えたかもしれない。


(こうして見ると、ほんと遠くにある島なんだよな)

 

 そんな場所にさっきまで僕がいた。

 そう考えると、感慨深さとどこか物寂しさを感じて少し心が騒めく。


 出会って交流した人は少ないけれど、みんな良い人達ばかりだった。

 でもこの先の人生で多分もう出会うことはないんだろうなきっと。


 僕がここへまた来ない限り。


 今ならまたここに来たいっていう気持ちは強いけど、それがこの先一年、二年と続く自信はない。


 東京と違って、もういいや。っていう感じではないから、また何かあれば来たいなって思うけど、その切っかけがいつ来ることか。


(……大師まんじゅうでも食べよう)

 

 船内に戻り、適当な席に座って箱を開ける。

 なかなか格好いい名前に反して、見た目はごく普通の白皮のお饅頭だ。


 皮が薄いのか中に入った餡が透けて見える。


 味の方はどうだろう。

 一気に半分くらいかじる。


 ……結構甘くておいしいな。


 皮が柔らかいし、一口サイズだから食べやすくてパクパクいける。

 中の餡がこし餡なのも僕好みだ。

 おじいちゃんみたいな粒あん派は、なんでこし餡なんだって怒りそうだけど。


 こし餡だとわかってたら、もっと買ったのに。


(ん……なんだ?)


 誰かに見られている気がする。

 顔を少し上げて正面の方に目を向けると、金髪の子供と目が合った。

 

 多分あの子かな。


 座席に手をかけて、僕の方をジッと見ていた。

 僕の近くには誰もいないし、後ろの方にも特に何かあるわけでもない。

 まず間違いないだろう。


 隣でうとうと気持ちよさそうに舟をこいでるお父さんっぽい人が、星条旗デザインの帽子を被っているので多分アメリカ人。


 あとは僕の方を見てる理由だけど……多分これかな。


 試しにまんじゅうを持った手を右に動かすと、子供の目線もつられて右に。上に動かすとつられて上に動いた。


 なんだか面白く――い、いやこういうのは良くないな。うん。

 もう止めよう。


 とりあえずここまでやって、まんじゅうをあげないのはちょっと可哀想だ。

 だけどこういう場合は、英語でなんて言ったらいいんだっけ……。


 this eat……うーん。

 まあ無難にこれが欲しいか聞けばいいか。

 

「ドゥーユーウォントディス?」


 学生時代に受けた英語の授業を思い出しながら言ってみたが、首を傾げられてしまった。


 発音が悪かったのかな?


 仕方ないここはスマホの音声で……。


『Do you want this?』


 これでどうだろう。

 しかしまた首を傾げられる。


 うーん駄目か。

 でもこれで伝わないってことはないだろうし……。


 もしかして英語圏の子じゃないんだろうか。

 こうなれば……あとは勢いだ。


「あー、これ、食べる? あげるよ」


 まんじゅうを指さし、ジェスチャーを交えながらゴリゴリの日本語で言ってみる。するとどうやら想いが伝わったみたいで、激しく頷いてくれた。


 良かった。どうやらちゃんと伝わったみたいだ。

 やっぱり言葉じゃなくて気持ちが大事だよな。


 このまま渡すのは……今のご時世面倒なことになりそうだし、未開封のヤツを箱ごとあげるか。勿体ないけど。


 学童アルバイトの時に、お菓子関連で起こった嫌な思い出が脳裏によぎる。


「ありがとう!」


 日本語かよ。

 しかもめちゃくちゃ流暢だし。

 紛らわし――いや見た目で判断した僕が悪かったかもしれない。 


「あー、お父さんとかお母さんに食べていいかどうか確認してから食べるんだよ? アレルギーとか。あと一口で食べると喉に詰まるかもしれないから、ゆっくり味わって食べるんだよ」

「うん、わかった!」


 その後、揺すり起こされたお父さんが片言の日本語を話しながらお礼に来て、お金を渡そうとしてくれたけど丁重に断った。ただどうしてもお礼がしたいということで、小豆島土産の醤油プリンなる物を代わりにもらった。


 そうして、まんじゅうやプリンを食べ終わった頃に岡山の港へ到着。


(こっちの港は、本当に港っていう感じだな)


 近くには何もなくて、あるのは立て看板が近くに置かれた謎の石とだだっ広い駐車場だけ。


 船から降りると風もクーラーもないので、また海の近く特有のむわっとした空気に身体が包まれる。けどここまでの旅や海が近い島で過ごしたこともあってか、最初ほどは気にならなくなっていた。


 ただその代わり、今回は少し船酔いしてしまった気がする。

 途中で色々食べてるのに何で酔ってないんだって思ってからがダメだった。

 

 喉の奥から何かが込み上げてきそうな感じだ。


 今すぐ吐くって程じゃないけど、しばらくは動かずじっと風景を眺めておきたい。

 

 そんな気分だ。


 揺れ自体はほとんど無く結構穏やかだったので、どうやら僕の船酔いは気持ちの問題がかなり影響してそうな気がする。


 旅で得た収穫の一つと言えるかもしれないけど、出来れば得たくなかった。


 とにかく次の届け先は岡山県の岡山市。

 とりあえずはバスで岡山駅まで移動になるだろう。


 ついでに駅弁買っていけば昼過ぎくらいには、届け先に着くかな。

 酔いが醒めるまでもう少し色々と調べておくか。

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