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8 スーパーチアフル

 トムの職場は、駅前のスーパーチアフル。職場に着いたトムは自分のロッカーでエプロンをつける。すれ違う先輩や後輩、同僚に軽くあいさつをして担当エリアに向かった。先に来ていたパートの女性が声をかけてくる。


「今日も暑いねえ」

「そうだね。とけちゃうかと思ったよ」


 そんな他愛もない話をしながら商品を棚に入れていく。開店準備が完了し、客が店内に入ってくる。その中に常連客の年配男性がいる。この男性は女性店員への態度が悪く、女性のレジスタッフから嫌われている。そのためこの男性が来ると女性スタッフは視線を逸らし、自分のところに来るなと心で願うのだった。そして今日のターゲットになってしまったのは学生バイトの陽向ヒナタだった。ヒナタは普段はこの時間いないのだが風邪で休んだスタッフの代わりに急遽来てくれたのだ。その男性客がレジの台に買い物カゴを投げるように置いた。ヒナタは少し驚いたようすで男性客を見たが、そのまま普段通りに会計を進めた。男性客はむっすりとした顔で不機嫌そうに立っている。


「1404円になります」


 ヒナタが言った。男性は小さく折りたたまれたままの千円札1枚を投げるようにトレイにのせ、小銭入れの中身をすべてトレイの上にぶちまけた。ヒナタは静かに待ち、見つめていた。すると男性が突然大きな声を出した。


「とれよ!」

「え!?」


 ヒナタはびくっとし、男性を見る。


「早くしろよ!」


 ヒナタはおどおどしながらトレイの上の千円札を手に取り、広げてレジに入れ、500円玉をとる。


「おい! また小銭増えるだろ! 他のからとれ!」


 男性が叫んだ。ヒナタは顔をこわばらせながら小銭を数え、レジに入れた。そしてお釣りを返すときに誤って小銭を落としてしまった。男性は眉をつりあげヒナタをにらみつけて言った。


「何やってんだ! 投げるな!」

「ご、ごめんなさい! すいません!」


 ヒナタは謝りながら落とした小銭を拾い、男性に渡した。他のレジスタッフは視線を逸らしている。そこへ店長が歩いてくる。


「どうなってんだこの店の教育は!」


 怒りの収まらない男性が店長に向かって怒鳴った。


「すみません。これからはこのようなことがないようにいたします。不快な思いをさせてしまいすみませんでした」


 店長はそう言って男性に頭を下げた。ヒナタも瞳を潤ませながら頭を下げた。男性は不機嫌そうに店を出ていった。トムは店の裏で台車を片づけていた。そこへヒナタが走ってきて、物陰に隠れた。トムは不思議に思い、ヒナタを追って物陰をそっと覗いた。ヒナタはしゃがみ込んでうつむいていた。


「ヒナタ? どうかしたの? 大丈夫?」


 トムが声をかけると、ヒナタは顔を上げ、トムの顔を見るなり泣き出した。


「ええ!? ど、どうしたの?」


 トムはヒナタのそばにしゃがみ、心配そうに見つめた。


「もう嫌……帰りたい……」


 ヒナタは絞り出すように言った。


「ひどいことがあったんだね。かわいそう……。僕にできることある?」


 ヒナタは肩を振るさせながらただ泣いていた。


「わかった。僕がみんなには言っておくから今日は帰るといいよ」

「ありがとう……」


 ヒナタは小さく頷き、小さな声で言った。


「ううん。気をつけて帰ってね。今日は来てくれてありがとう」


 トムはそう言って、立ち上がりその場を離れた。ヒナタは顔を上げ、トムの後ろ姿を見つめた。


 店内に戻ってきたトムはパートさんたちに事情を聴いた。


「かわいそうにターゲットにされちゃったのよ」


 背の低い中年の女性スタッフが言った。


「そうなんだ……。今日はもう帰ったからみんなでフォローしよ」


 皆、気まずそうに苦笑いを浮かべて頷いた。そこへ店長が通りかかる。


「ヒナタはもう無理そうか?」

「え?」


 トムは眉をひそめて店長を見た。


「無理そうなら次募集しないといけないからな」

「さあ、どうだろ……」

「明日はどうだろな。一応他のスタッフに声かけてる方がいいかもな」


 店長はそう言って、ゆっくりと歩いていった。

 トムはぎゅっと拳を握りしめた。

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