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6 アユムが椿荘に

 サヤカとトムがリビングでくつろいでいる。


「ミツキ遅いね。飲み会だっけ?」


 サヤカが聞く。


「そうそう。新人さんの歓迎会だって」

「ふーん」

「でも明日も仕事なのに大丈夫なの?」

「昼からだからね」

「そっか。でもあんまり飲み過ぎたら明日に響きそう」

「僕はそろそろ寝ようかな。また寝坊したら大変だし」


 トムがそう言って、ソファを立ったとき、玄関の扉が開く音がした。トムとサヤカが顔を見合わせ、玄関へと向かった。玄関では腕を広げて眠っているアユムと息を切らしたミツキが座っていた。


「何!? どうしたの?」


 サヤカが驚いて言う。トムはアユムを見てミツキに聞く。


「誰?」

「ごめん。遅い時間にバタバタして」


 ミツキが申し訳なさそうに言う。


「そんなこと別にいいけど。どうしたの? 酔っぱらい?」


 サヤカがアユムを見ながら言う。


「職場の後輩なんだけど、酔っぱらっちゃって。家知らないからつれて来たんだ」

「ソファに運ぼうか?」


 サヤカが言う。


「うん、ありがとう。手伝ってもらえると助かるよ」

「いや、あたしが運ぶよ」

「え?」

「これくらい平気だから任せな」


 サヤカは、アユムを起き上がらせ、担いでリビングへと運んでいく。そしてソファに寝かせた。トムがミツキに水を渡した。


「大変だったね」

「ありがとう」


 ミツキは水を飲み干した。サヤカはアユムに布団をかける。


「とりあえずこれでいいでしょ。さあ、明日も仕事でしょ。そろそろ寝よ」

「そうだね。ありがとう二人とも」


 3人はそう言って、2階へと上がっていった。



 カケルは配達を終え、片づけをしている。そこへ同期のドライバーの拓馬タクマが近づいてくる。


「お疲れ!」

「お疲れ」

「次の休み、同期で集まって飲みに行かねえか? いい店見つけたらしいんだ」


 タクマはそう言って、少し離れたところに立っている男たちを指さした。カケルが男たちの方を見ると、男たちが笑みを浮かべて軽く手を上げた。カケルは少しの沈黙のあと、小さく首を振って言う。


「いや、いい」

「ええー、またかよ。いっつも来ねえじゃん」

「悪いな」

「わかった。おごるから! それでいいだろ?」

「いや、いいって。おまえらだけで行って来いよ」

「寂しいこと言うなよ。いつも俺のわがまま聞いてくれて助けてもらってるお礼がしたいんだよ」

「シフト変わるくらいだろ? 俺は暇だから出てるだけだ」

「おまえはそう言うけど、俺には大助かりなわけよ」

「わかった、わかった。その気持ちだけで十分だ。じゃあな」


 カケルはそう言って軽く手を上げ、軍手を外しながら歩いていく。


「待て!」


 タクマはそう言って、カケルに背後から抱きついた。カケルは驚いて離れようとする。


「何してんだ、おまえ」

「今回だけは来てくれ。頼む」


 タクマが小声で言った。カケルは眉をひそめてタクマを見る。


「何だ。どうかしたのか?」


 タクマはカケルから離れて小声で話しだした。


「実はあいつら、カケルが付き合い悪いって怒ってんだよ」

「はあ?」

「このまま断り続けたらおまえがハブられちまう。それは避けたい。だから頼む」


 タクマは胸の前で小さく両手を合わせて言った。カケルは小さくため息をついて頷いた。


「よし、決まり! じゃあな!」


 タクマはほっと笑みを浮かべて走っていった。



 カケルは疲れ切ったようすで帰宅した。玄関の扉を開け、リビングに入ったとき思わず声を上げそうになるのをぐっと押し殺した。リビングのソファに見知らぬ男が眠っている。アユムだ。カケルは男を見つめ、そっと横を通り過ぎて風呂へと向かった。しばらくして風呂から上がると、アユムがぼーっとしたようすでソファに座っていた。カケルは声をかけることもなく、冷蔵庫から水を出し、グラスに注いで飲んだ。アユムはそのようすをぼんやりと見ている。


「あの、俺も水ほしいです」


 アユムが言った。カケルは何も言わず、グラスに水を注ぎ、アユムの前に置いた。


「ありがとうございます」


 アユムはそう言って、水をゆっくり飲んだ。


「で、おまえ誰だ」


 カケルが言った。アユムがグラスを置いて答える。


「あ、俺はミツキさんの職場の後輩です。アユムって言います。昨日、飲み過ぎちゃって泊まらせてもらったんです」

「そうか」


 そう言って、カケルはキッチンへ向かった。カケルは冷蔵庫を開け、冷凍チャーハンを取り出した。フライパンをレンジに置いたとき、背後から声がする。


「俺がやります」


 そこにはアユムが立っていた。


「いや、いいよ」


 カケルはそう言って、冷凍チャーハンの袋を開ける。アユムはその袋を取り、微笑んで言う。


「任せてください。泊めてもらったお礼です」


 アユムはそう言って、フライパンに凍ったチャーハンを入れ、炒め始める。


「お礼する相手、俺じゃないだろ……」


 カケルは不思議そうにそのようすを見つめた。


「カケルさんですよね?」


 アユムがチャーハンを炒めながら聞いた。


「ああ、そうだけど」

「先輩から少し聞いてるんです。いつも朝方に帰って来るトラックの運転手をしている人がいるって。体壊さないか心配だって言ってました」

「そうか」

「俺、ここに一度遊びに来たいと思ってたんですよね。こんな形で来ることになるとは思ってなかったけど嬉しいです」

「何でそんなに来たかったんだ?」

「え? シェアハウスってすてきじゃないですか。知らない人と同居って不安もあるけど、先輩から聞いてる限り、みんな優しくてすてきな人ばっかりみたいだし。俺もここに住みたいですよ。部屋空いてません?」


 アユムがそう言って笑った。


「空いてたが昨日埋まった」

「ああ! そうだった。残念……」


 アユムがチャーハンを皿に盛りつける。


「はい、できましたよ。どうぞ」


 カケルは皿を受け取る。


「おまえも食べるか?」

「いいんですか? いただきます」


 カケルはもうひとつ皿を出し、半分移し替えた。


「そんなにもらったら無くなっちゃいますよ?」

「いいよ、べつに。食えるだろ?」

「え、はい。食べれますけど」

「ありがとな」


 カケルはそう言って、皿を持ってリビングにいく。アユムもそのあとをついていった。二人は椅子に座ってチャーハンを食べる。

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