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5 歓迎会

 ミツキの職場はファミリーレストランのキッチン。ミツキは野菜を切り、皿に料理を盛りつけ、忙しそうに動いている。


「お願いします」


 ミツキはそう言って、テーブルにできあがった料理を置いた。そこへ男性の新人ホールスタッフのアユムがさわやかな笑みを浮かべて取りに来た。アユムはモデルのような体系に、整った顔立ちをしている。女性スタッフや女性客は、彼が横を通り過ぎるたびに手を止め、目で追った。


「よろしく」

「はい」


 軽くやりとりをして、ミツキはまた作業に戻っていった。アユムはさわやかな笑顔を浮かべて、料理を客のテーブルに運んでいく。


「お待たせしました」


 女性客は目をキラキラと輝かせ、アユムをじっと見つめている。アユムは軽く会釈してさっとカウンターの方へと戻っていった。女性客は別れを惜しむようにアユムの後ろ姿を見つめていた。アユムがキッチンの中を覗きながら小声でミツキを呼ぶ。


「先輩!」


 そう言って、手招きする。ミツキは辺りを見回してからそっと近づいていく。


「どうしたの? 何かトラブル?」

「いえ、とくに。今日の俺の歓迎会来てくれますよね?」

「え? 今日だったっけ? というよりそれ今必要?」

「今日ですよ! 俺にとっては大事なことです」

「えっと……。あ、今日は新入居者の人が来たからまっすぐ帰ろうと思ってるんだ」

「じゃあ、俺も行きません」

「ええ!?」

「ミツキ先輩は俺にとって特別な人なんです。俺が初日にミスばっかりしたのに先輩は優しく慰めてくれて、助けてくれたじゃないですか。その先輩が来ないなら行く意味ないです」


 ミツキは困ったようすで考える。そのようすを見てアユムが寂しそうな表情を浮かべて言う。


「ミツキ先輩、俺と新入居者どっちが大事なんですか?」

「え? そんな……」

「新入居者の人とパーティするんですか? 約束してるんですか?」

「それはないけど……」

「だったら来てくださいよ。歓迎会」


 そのとき、先輩シェフが大きな声で叫んだ。


「ミツキー! 何してるんだ! さっさと盛り付けしてくれ!」

「はーい! すみません!」


 ミツキは先輩の方を見て返事をする。そして、アユムの方をもう一度見る。


「わかった。行くよ、歓迎会。それじゃ、戻るね」

「はい!」


 アユムは満面の笑みを浮かべ、ミツキに手を振った。ミツキは軽く手を振り返し、仕事へ戻っていく。


 そして仕事も終わり、レストランを閉めてアユムを含む5人の新人の歓迎会が始まった。テーブルにはいろいろな料理が並べられている。店長の乾杯の合図とともに乾杯をして、それぞれ食事を始める。ミツキは食べながら携帯をいじっている。隣に座っているアユムが携帯を覗き込みながら言う。


「先輩、携帯見てないで話しましょうよ」

「え? あ、ああ、ちょっと待って、これだけ送っときたいんだ」


 ミツキはそう言って、メールを急いで打ち、携帯をポケットにしまった。そしてアユムの方を見て座りなおした。


「だいたい1ヶ月だっけ? どう? 少しは慣れた?」

「はい、ホールの先輩もみんな優しいですし、ミツキ先輩もいるので毎日楽しいです」

「そっか、それはよかったよ」


 二人が話しているところに先輩の中年女性が近づいてくる。


「アユムくん、あっちで店長が呼んでるわよ。一緒に飲みましょうよ」


 中年女性がアユムの腕を引き、席を立たせる。


「え、え……」


 アユムは戸惑いながら女性につれて行かれた。ひとりになったミツキはときおり携帯を見ながら、静かに食事をしていた。そこにアルバイトの新人女性が来た。


「ミツキ先輩、ここいいですかあ?」


 新人女性はミツキの隣の席に腰を下ろす。


「楽しんでる? 遠慮なくいっぱい食べて帰るといいよ」

「はい、いーっぱい食べてまーす!」


 新人女性は顔が赤く、酔っぱらっていて少し声が大きい。


「ちょっと飲み過ぎたのかな? もうやめた方がいいんじゃないかな?」

「そんなことないですよお! だってこれオレンジジュースですよお?」


 ミツキは新人女性のグラスを取り、グラスに鼻を近づける。ふわっとお酒の匂いがした。


「これはジュースじゃない。お酒だよ?」

「うっそお。飲んだことなかったけどお酒っておいしいんですねえ」

「飲むの初めて!? じゃあ、もうお水にしとこ」


 ミツキはそう言って、新しいグラスに水を注ぎ、新人女性の手に持たせた。新人女性は頭をゆらゆらさせながら頬を赤らめて、ミツキを見つめている。


「ミツキ先輩ってほんっと優しいですよねえ。新人たちの中で大人気なんだから」

「水飲んで」


 ミツキはそう言って、新人女性の手を持ち、グラスを口元まで持っていく。新人女性はふらふらしながら水を飲み、そのままミツキの肩に寄りかかって眠ってしまった。ミツキは辺りを見渡し、パートの女性を呼んだ。


「ジュースと間違えてお酒飲んじゃったみたいなんだ。この子の家知ってる? 送ってあげてくれないかな?」

「あら、大変。わかったわ。任せて」

「ありがとうございます」


 パートの女性は眠っている新人女性を抱え、店をあとにした。そうしてしばらくの間、ミツキは近くの人と雑談を交わしながら食事を楽しんだ。ミツキがふと時計を見ると、針は23時を差していた。


「あの、そろそろ俺、失礼します」


 ミツキはそう言って席を立った。そこへふらふらと酔っぱらったアユムが来て、ミツキの肩に寄りかかった。


「せんぱーい……もう、帰っちゃうんですかあ?」

「だ、大丈夫!? 飲み過ぎだよ」

「先輩が帰るなら、俺も帰りまーす!」


 アユムは片手を上げ、他の社員たちに言った。社員たちも見送るように手を上げて返す。


「ミツキ、アユムを頼んだぞー!」


 社員の男性が言った。


「ええ!? 俺、家知らないんですけど」


 ミツキが慌てて言う。


「俺、知ってまーす!」


 アユムがまた手を上げて言った。


「タクシーに乗せとけば何とかなるって! よろしくな!」


 社員の男が言う。


「は、はい……」


 ミツキはしぶしぶアユムをつれて店をあとにした。


 店から出た二人は夜道をふらふらと歩いている。ミツキはアユムの腕を肩にかけ、転ばないように支えながら歩いた。


「しっかり、もうすぐ大通りだから」


 大通りへと出たミツキは、歩道脇の車止めにアユムを腰かけさせる。


「ちょっとここで待ってて。タクシー止めて来るから」


 ミツキが離れようとしたとき、アユムがミツキの腕をつかみ引き止める。


「だめ」

「え?」

「お金、そんなお金ない」


 アユムはそう言って笑い、頭をふらふらとさせて今にも道路に倒れそうになっている。ミツキはアユムを抱えてまた歩きだした。


「とりあえず駅まで行こう。家はどこ?」


 アユムはウトウトとしている。ミツキは仕方なく、アユムを抱えながら駅まで向かった。駅に着いたミツキはアユムをベンチに座らせて、自販機で水を買った。


「アユム? 起きて。水買ってきたから飲んで。ほら」


 ミツキはうつむいたアユムの頭を起こし、口元に水を近づけて少しずつ流し込んだ。アユムはうっすらと目を開け、ミツキをじっと見つめる。


「目が覚めた?」

「先輩……優しいですね」


 アユムはそう言ってミツキにキスをした。突然のことにミツキが驚いていると、アユムはにこっと笑い、また眠った。

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