4 傷跡
ケイゴがウトウトとしていたとき、カケルが部屋から降りてくる。
「うるさくて寝てられないな」
カケルはそう言って、冷蔵庫から水を取り出し、グラスに注いだ。
「お、起きたか! 俺にも!」
ケイゴがカケルに向かってグラスを差し出しながら言う。
「たく……」
カケルは面倒そうにケイゴの持っているグラスに水を注いだ。
「サンキュ」
ケイゴは水をおいしそうに飲んだ。カケルはケイゴの向かいに座り、携帯を見る。
「せっかく二人なのに携帯見るのか? 寂しいじゃねえの」
「暇なら引っ越し手伝ってやれよ」
「やだよ。カケルと話したいんだよ」
「話すことなんかない」
「俺はある」
カケルはため息をつく。
「何だ」
「レミちゃんは元気か?」
「え? あ、ああ」
「最近、見ねえなと思ってさ」
「学校が忙しいんだろ。こんなとこ来たって何もないしな」
「大好きなお兄ちゃんに会えるじゃねえか」
「もうそんな懐く年でもないだろ」
「そうか? だといいんだがな。何かあったのかと思ってな」
カケルは少し黙り、そして口を開く。
「急にどうした。あいつに何か聞いたか?」
今度はケイゴが黙った。カケルは話を続ける。
「聞いたんだな。黙ってろって言ったのに」
「ミツキを責めるなよ。俺がオーナー権力振りかざしたんだから」
「権力に負けやがって」
「それでレミちゃんはどうなんだ?」
「高校には普通に行ってる。でもここに来るのは怖いってさ」
「そうか、悪いことしたな。そんなやつだと見抜けなかった」
「男にも恐怖心を持ってる。俺以外が近づくと顔がこわばってるのがわかる。本人は大丈夫だって否定するけどな」
「そうとう怖かったんだろうな」
配達員たちが降りてくる。カケルたちは階段の方を見る。
「では、失礼しまーす!」
「ありがとうございましたー。ご苦労さまー」
サヤカがそう言いながらリビングの前を通る。それを見たカケルが驚いてケイゴを見る。
「女!?」
「ああ、ちょっと派手で不良風だけどいい子だぞ?」
「そういうことじゃないだろ」
「大丈夫だ。本人も了解済みだ。ミツキと同じこと言うんだな」
「誰だって思うだろ」
「俺ってそんなに信用ねえのか? 騙して家賃収入得ようとなんかしねえよ」
「そうじゃない。おまえが抜けてるからだ。今朝だってそうだろ。入居者のこと言い忘れてた」
「ああ、そうだったな。なんだ俺の心配してくれてんのか! かわいいやつだな!」
ケイゴが満面の笑みでカケルの頭をクシャクシャっとなでる。
「やめろ」
カケルはそう言いながらケイゴの手を払う。そこへサヤカが腰を伸ばしながら入ってくる。
「やっと終わったよー……」
サヤカはカケルに気づき、指さして言う。
「あ! 203?」
「なんだその呼び名」
カケルが眉をひそめて言った。
「ああ、ごめんごめん。何だったっけ?」
「カケルだ」
ケイゴが横から口出す。
「ああ! そうそう! あたしサヤカ、よろしく」
そう言って、カケルに手を差し出した。カケルは少し戸惑いながらもサヤカの手を取った。
「ああ」
サヤカが微笑むとカケルは目を逸らし、手を離した。サヤカはカケルを見て言う。
「あたし、ビアンなの。外では隠してるけどね」
「え? そうか。わざわざ言わなくてもいいぞ?」
「うん、言ってみたかっただけ」
「そうか」
「そういえば、ここではカケルがいちばん年上で25だ。トムは20だ」
ケイゴが言った。
「そっか、ありがとう。みんな同世代か。話し合いそうでほっとしたよ」
サヤカはそう言ってソファに腰かけた。




