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2 喧嘩の理由

 ケイゴが話を続ける。


「実はな、今日の昼頃に新しい住人が来る予定だ」

「ええ!? 今日ですか!?」


 ミツキが驚いて言った。


「悪いな。言おう言おうと思っていたんだけど、今日まですっかり忘れてた」


 ケイゴはそう言って笑った。ミツキは周囲を見渡す。ソファの上やテーブルの上、床などに本やCD、靴下、上着などがあちらこちらに散らかっている。


「掃除しないと。みんなも自分のもの部屋に片づけよ」


 ミツキはカケルたちを見て言った。


「無理! そんな時間ない。じゃあ、僕そろそろ行くね!」


 トムはそう言って、慌ただしくリュックサックを持ち、玄関へと走っていく。トムは靴を履き、思い出したように振り返り、中に向かって大きな声で言う。


「カケルー! 今度は殴っちゃだめだからねー!」

「さっさと行け!」


 カケルがすぐさま言い返した。


「はーい! いってきまーす!」


 トムはそう言って出ていった。ミツキはリビングを見渡してため息をつく。


「ほとんどトムのなのに……」


 そんなミツキを見て、ケイゴが声をかける。


「大丈夫だ。契約前に散らかってるかもしれないけどいいかって聞いたら問題ないって言ってたぞ? それに俺の部屋よりはきれいだ」

「そうですか……。でも共同スペースだからこのままってのも良くないですよ。なんとかしなきゃ」


 カケルがキッチンへ向かい、ごみ袋を持ってくる。


「仕方ない、手伝ってやる。散らかってるもんまとめてこの中に入れろ」


 カケルがそう言ってごみ袋の口を開く。ミツキは袋の口を押えて言う。


「だめだめ、捨てちゃだめだよ! 気持ちはありがたいけどカケルは仕事終わりで疲れてるでしょ。もう休んで」

「そうか、わかった」


 カケルはごみ袋を片づけ、階段を上り、部屋へと帰っていった。


「さて、やるか!」


 ミツキは部屋を見渡し、気合を入れるように言った。


「ミツキも今日仕事だろ? 俺も手伝うよ」


 ケイゴが言った。


「ありがとうございます。まだ3時間はありますけどね」


 ミツキはそう言って微笑んだ。ケイゴは散らかった本やCDを積み重ねながら言う。


「エイジのことだけどさ、あの日、カケルと何があったんだ? 時が経てば教えてくれるだろうって思ってたけど、もう3ヶ月も経つのに誰も教えてくれないし。俺、一応オーナーだぜ? トラブルの詳細を知る権利はあると思うんだけどな」


 ミツキが手を止めて黙り込んでいる。


「そんなに深刻なことなのか?」

「そうですよね。オーナーが何も知らされないのはおかしいですよね……」


 ケイゴが真剣な眼差しでミツキを見つめる。ミツキは重たい口を開いて話しだした。


「あの日、カケルの妹のレミが来てたの覚えてますか?」

「ああ、そんなこと言ってたな。俺が駆けつけたときにはもういなかったが」

「彼はレミを襲おうとしたんです」

「ええ!? レミちゃんってまだ15か16だろ!」

「彼はちょっとちょっかいをかけただけだと言ってましたが、レミは傷ついた。だからあれからほとんど顔を出さなくなったんです」

「それでだったのか……。週一で泊まりに来てたのに来なくなったなとは思ってたんだよ」

「カケルはレミに起きたことを言いたくなかったんだと思います。だから虫の居所が悪くていきなり殴ってきたっていう彼の言い分を黙って受け入れたんです」

「あいつ……そんなことしてたのか。捜しだしてぶん殴ってやりたいぜ」


 ケイゴはそう言って、不機嫌そうに腕を組んだ。


「今まで黙っていてすみません。カケルに口止めされてたのもあるけど、言っていいものかと迷ってしまって」

「迷って当然だ。レミちゃんのことを考えるとな。このことは誰にも言わない。約束するよ。それにしても、トムは何考えてんだ? そんなことがあったのにあの態度か?」

「トムは知らないんです」

「え?」

「あのとき仕事でいなかったので」

「そうだったのか。てっきり俺だけ知らないのかと思ってたよ」

「エイジはトムにノリが合わないやつとは一緒に住めないって言って出ていったんです」

「そうか。エイジのやつ、人の弱みにつけ込んでカケルを悪者にしていきやがって。俺、あのあとカケルにまた暴力振るうことがあったらここには置いておけないって説教しちまったよ。エイジにも謝らせちゃったし」

「そうだったんですか」

「妹傷つけたやつに謝りたくなかっただろうな。俺、恨まれてるかな?」

「それはないと思いますよ。真実を言わないってことは誤解を招くって覚悟してたと思います」

「はあ……エイジを単なる被害者として扱ったことが悔やまれるぜ。契約解除のときに知っていれば迷惑料とれたかな」


 ミツキが時計を見る。


「あ、もう10時だ。急がないと」

「おっと、そうだったな」


 二人は急いで部屋の片づけを始めるのだった。本やCDはまとめて積み重ね、脱ぎ捨てられた服はさっとたたんだ。そしてフローリングの床を使い捨てワイパーで拭き終えたのが11時前だった。ミツキはほっとした表情を浮かべ、ケイゴは疲れたようすで椅子に腰かけた。ミツキは麦茶をグラスに注ぎ、ケイゴの前に置いた。


「ありがとうございました。助かりました」

「いいってことよ! もともと俺が言うの忘れてたからだし。バタバタさせて悪かったな」


 ケイゴはグラスの麦茶をグイっと飲んだ。


「それじゃ、俺そろそろ出る準備しますね」


 そう言ってミツキはエプロンを外した。


「お、もうそんな時間か」


 ケイゴが時計を見る。そのとき玄関のチャイムが鳴った。ミツキは玄関へと向かい、扉を開けた。そこには大きめのボストンバックを肩に担いだひとりの女性が立っていた。金髪のウェーブした髪を高い位置でひとつにまとめ、白のタンクトップにデニムのショートパンツを履き、ブルーのチェックのカッターシャツを腰に巻き付けている。


「はい、何か御用ですか?」


 ミツキが尋ねる。

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