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幽玄荘の枯れず桜  作者: 竹野 ぼん
始まり
22/23

重苦しい夕食

酸漿が時雨堂へと向かっている頃

一方で幽玄荘台所 では


俺は夕飯の支度をしていた、巴の監視の下で。

理由は単純だ。朝、弁当のおかず用に焼いた卵焼きの砂糖と塩を間違えると言う初歩的なミスを犯したからだ。

発覚したのはお昼に俺が残りの卵焼きを食べた時、しょっぱさのあまり上げてしまった俺の悲鳴を聞きつけ巴が駆け付けてきたからだ。

それからはこってりと叱られた。

そして現在、今晩のおかずの煮物の味付けで砂糖の容器に手を伸ばす。

こちらを睨むように見る巴の視線が痛い。

誘導するようにガッチリとこちらの腕を掴み締め上げてくる手も痛い。

逃げないように腰に巻き付きギチギチと締め上げている蛇(かれ)の尾も痛い。

俺は震える手で砂糖の容器を取った。

ニコリと笑う巴。

「これが砂糖だ。間違えるな」と言う圧を感じる

その時、勢いよく玄関が開いて閉まる音とドタドタという走る音と共にここの住民の奏(かなで)くんが

入ってきた。

「桜木さん!巴さん!ただいま帰りました。」

「おかえり、奏くん。今日のお弁当…大丈夫だったかい?」なんとか俺は振り向く、巴の締め付ける力がさらに強くなる腰回りが圧迫されて…痛い…苦しい

「えぇ、美味しいお弁当でしたが…何か問題でもありましたか?」

その時俺と巴は顔を見合わせた。

落ちるかける砂糖の容器を慌てて掴む巴の手

俺の腰周りを締め上げていた尾も緩んだ。

そのまま俺は痛む腰をさすりながら屈んだ腰が壊れるかと思った。

「え…美味しかった…?」

「桜木が…砂糖と塩を間違えた卵焼き(アレ)が入った弁当を?」巴が狼狽えた様子で聞き返す。

「はい。美味しかったです。ん?もしかして、ツネ…いえ、僕のクラスメイトが食べてしょっぱいって言っていたのは…」

「あぁ、そうだね。しょっぱかったんだろうね」

犠牲者がもう1人いたのか…

ふらふらと立ちあがろうとする俺の腰に再び尾が巻かれまた締め上げられるさらにキツく、軽く持ち上がる身体。腰が壊れそうだ。

「そうでしたか、明日謝らないといけませんね」

奏くんはシュンとしながら、弁当箱を開ける

空だ。しっかりと完食している。

「そ…そうだね…そうした方が…い…い…ね。」

ギチギチと圧迫されていくミシミシという感触がする

ほんとうに腰の骨が折れそうだ。

「巴…ギブ…離して…腰折れそう…」

「離さん。」

俺の腰に尾を巻きつけたまま、手本を見せるかのように巴は煮物の鍋に調味料を入れていく。

そんな俺たちを見ながら、奏くんが声をかける。

「あの…今日、零さんの働き先に行ったのですが…その…」奏くんがすこし怯えた様子で話し始めた。

「あ…あ、あの店に行ったのか…もしかして…店主の…酸漿(かがち)くんには…会った…かい?」

苦しみながらもなんとか声を出しながら俺は尋ねた。

「は、はい。会いました。あの人…零さんが虎耳尻尾を付けて恥ずかしがっている様子がかわいいと言って笑ってまして…怖くて逃げ出してしまいました」

肩を抱き体を震わせる奏くん

「アイツ…そんな趣味があったのか!?」

それを聞き少し驚く巴。尾が緩み、解放されて

床に崩れ落ちる俺。痛い。

「酸漿くんなら確かにそんな趣味があってもおかしくはないね」腰をさすりながら俺は答えた。

締め付けられた腰回りがズキズキと痛む。

多分冗談だとは思う…ただ酸漿くんの場合本心も混ざっていそう彼が時々零くんを見る視線が怖い。

従業員ではなく家族…いや飼い猫を見るような視線。いくら零くんが虎になると言っても猫というヤワな大きさではない。立派な虎だ。普段の姿にしても成人男性な訳で…笑っている彼の姿を想像したら寒気がしてきた。ま、まさかね。

沈黙。

ただ煮物が煮えていく音がするだけだ。

重い空気が漂う。

「アハハ…冗談さ…じょう…だん」

「冗談したか」奏くんが震えた声で答える。

誤魔化せてはいない。

「そう、冗談。」

「そうか、冗談か」巴が震えた手で味を見ている。

ごめんなさい。

俺は心の中で酸漿くんに手を合わせた。

申し訳ない。君はしばらく変人扱いされる。

本当にごめんなさい。

そんな少し重苦しい空気の中、玄関が開いた音がした。

「俺、少し見てくるね」

俺は台所から逃げるように玄関へと向かった。

「おかえり〜、零くんはやか…どうしたんだい?店の制服のままで」

帰ってきた零くんは、赤と黒の中華風の衣装のままだった。

「桜木さん。酸漿さんに店じまいだって、帰されてしまいまして…」

「酸漿くんが君を叩き出すって珍しいね。」

「急用ができたって…」零くんの顔が暗い。

「急用…酸漿くんが、鬼灯(ほおずき)ちゃん関係かな?」

「いえ、鬼灯の姐さんなら事前に連絡してきますし、酸漿さん血相変えて店を飛び出しますよ」

鬼灯ちゃん。

俺も会ったことがある酸漿くんと瓜二つの女性だ。酸漿くんとは別方向で怖い。

「確かにそれもそうだね。さてと、そろそろ晩御飯ができる頃さ。一緒に食べよっか」

「…うす」零くんは小さい声で頷いた。

少し元気が出たように見える。

その後、俺、巴、奏くん、零くんでご飯を食べたけど

ご飯を食べている最中も妙に重苦しい空気が流れていて気まずい夕飯になってしまった。

ご飯の味がしない。

夕飯が終わった後、奏くんは居間でテレビを見ていた

ちょうど天気予報が流れていた。明日の天気は晴れだ。天気予報が終わった後クイズ番組が始まった。

始まってしばらくした頃ブランくんが帰ってきた。

「ただいま帰りました。」女性のような声、その手には濡れて透けた酒の缶が入ったビニール袋を持っていた。

「おかえり、ブランくん。そんなにお酒を持ってどうしたの?」

「今日、夜桜を見ながらお酒を飲もうと思いまして」

「へぇ、零くんとかい?」

「はい。ですので奏様、少し騒がしくしてしまったらすみませんね。」

「はい、分かりました。」奏くんはテレビの画面を見ながら答えた。

「それでは、私は失礼いたします。」そう言って去って行った。

俺も立ち上がり、玄関へと向かって行った。

玄関を開け、外に出る。

陽が沈んで綺麗な半月が浮かんでいた。

満月までまだ先だ。

俺はそのまま中へと戻り玄関に鍵をかけ、また居間へと戻っていった。

居間では奏くんが一人で一喜一憂していた。

どうやら彼は自分で解いて答え合わせをする派らしい。

俺はその様子を見て、風呂の準備を始めるため居間から立ち去っていった。




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