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幽玄荘の枯れず桜  作者: 竹野 ぼん
始まり
17/23

朝の散歩

朝、僕は早く目を覚ましてしまった。

スマホを見る朝の5時。

登校にも朝食にもまだ早い時間だった。

このまま寝ようとも思った。

ただ、今度は登校時間を過ぎないかという心配もある

(桜木さんが巴さんが起こしにきそうだけどそれは嫌だなぁ…)

僕は布団から出て、洗面所に向かった。

洗面所には先客がいた。

三つ編みにまとめた白い髪、白いシスター服、服の上からもわかる筋肉、零さんより高い身長。

身長が高いせいか、洗面台の前で屈んでいた。

「あら、おはようございます。奏様」

柔らかい目つきの金の瞳、女性のように綺麗な顔に対して鼻筋には横一文字の大きな傷跡。

ブランさんだ。

「ブランさんおはようございます。ブランさんは早起きなんですね」

「えぇ、仕事の都合上今から準備をしてここを出ていかないといけませんので…」

「そうなんですね。ところでお仕事は何を…」

「骨董品店の店員です」ブランさんはニコリと笑う

「骨董品店なんですね。修道服はなぜ着ているのですか」

「店主の趣味です」ブランさんが笑顔のまま答える

「ここから着ていたのでてっきりブランさんの…」

「店主の趣味です。」これは追求してはいけない気がした。多分、店の人の趣味では無いと思う。

ブランさんなりの事情があるのだろう。

「変わった趣味の方なんですね」僕は気持ちを切り替えて答えた。

「えぇ、こんな私を雇ってくださる変わった方です」

ブランさんが嬉しそうにフフフと笑いながら答える

そのままブランさんは洗面所を出て行った。

ブランさんがいた洗面所には香水の匂いが残っていた。

僕は顔を洗いカラーコンタクトをはめ洗面所を出た。

部屋に戻りパーカーを羽織り、スマホをポケットに入れてヘッドホンを首にかけまだ部屋を出た。

台所を覗くとエプロン姿の桜木さんが朝食の準備をしていた。

最近では料理に慣れてきたようで鼻歌を歌っていた。

おかめのお面をつけた横顔が見えた。

僕はそのまま廊下を進み、玄関へ向かい

靴を履いて外に出た。

まだ少し涼しい外の空気を吸って歩き出した。

住宅街を歩いて駅の近くまでくる。

まだ早い時間のせいか人がそこまでいない。

僕は駅前を通り過ぎてさらに歩いていく。

駅の近くの公園にたどり着いた僕は、公園のベンチに座って一息つく。

スマホを見る。時間は6時を過ぎていた。

公園にはランニングや体操をする人がちらほらいた。

僕はヘッドホンを耳にかけて、スマホの音楽アプリを起動して曲を選んだ。

僕は音楽を聴きながら、公園内の遊具や噴水をぼーっと見ていた。

その時、フサフサの尻尾をぶんぶん振りながら黒くて大きな犬が僕に向かって走ってきた。

後ろで飼い主らしき女性が引きずられないよう一生懸命リードを持ち走っていた。

僕の前で犬は舌を出し止まり、後ろで女性が肩で息をしていた。赤紫がかった髪に頭の左脇から生えている角張った渦巻き状のアホ毛が揺れていた。

僕はヘッドホンを外した。

犬は僕の前で座っていた。

金属製の名前プレートらしきものが首元で揺れていた。

「ごめんなさい…うちの犬が…」

「いえ、かまいません。それにしても大きいですね」

「そうなのよー、力も強くて散歩する時大変で」

昔はこんなに小さかったのよと女性は手で大きさを表していた。

女性は疲れたように僕の隣に座った。

犬も大人しくは座っていたけど、目は爛々と輝いていた。舌を出しハッハッと息をしていた。

一息ついた女性はペットボトルの水をごくごく飲んで一息ついた。

「はー、生き返る…」

僕は犬を見た。僕は犬のそばに近づき手を伸ばして犬に触れて撫でた。

犬は気持ちよさそうに目を細め、尻尾をぶんぶん振っていた。

最初は黒い毛に埋もれてよく見えなかった首輪が見えた。

青い首輪だった。

「そういえば、この子何という名前なんですか」

「サグルって言うのよ。探し物が得意だからサグルって名付けたのよ」

「サグル…」

僕は昨日…入学式の日のことを思い出していた。

あれはLHRの自己紹介の時。

僕やツネと一緒に残されていた子だった。

深海 探(ふかみ さぐる)です。趣味は散歩

好物はサツマイモです」 切り揃えた黒髪、右脇に生えている角張った渦巻き状のアホ毛、白眼がちの鋭い目

の男性。

目の前の犬とおんなじ名前の子だった。

彼女を見る、彼女にも深海探君と同じアホ毛が生えていた。年も僕や姉と同じくらいだ。

「もしかして…深海探君のご兄弟ですか?」

「え!?深海探って私の双子の弟だけど…もしかして、同じ学校の子?」

「はい、はじめまして。お姉さん。深海探君と同じクラスの天野奏(あまのかなで)です。弟さんとこの子名前が一緒なんですね」

撫でられて喜んでいた犬の動きが止まる。

「そ、そうなの。たまたま同じ名前になっちゃったのだから、この子の方はサグって呼んでるの」

僕は試しにサグと呼んでみる、サグルはプイッとそっぽを向く。サグルと呼んでみたらワンとそっぽを向いたまま返事をする。尻尾が揺れる。

「サグ!!」彼女がサグと呼ぶとワフっと言って嬉しそうに尻尾を振りながら、彼女に寄っていった。

彼女はサグルを撫でながら目を見る

「サグ〜なんで奏君相手には、返事しないのー?」

クゥンとサグルは細く鳴き、下を向く、耳も垂れている。

何か言いたげだ。

「サグって呼ばれるのが嫌だったのかも…」僕はボソッと呟いた。

するとサグルは吠えた。

何回も吠えた。

そんなに嫌だったのだろうか?

「サグ…もしかして、恥ずかしかったの?」

するとサグルは静かに返事をした。

あの反応は無視でなく、恥ずかしがっていたのか…

僕は改めてサグルに近づき、座り。撫でた。

ひたすら撫でた。

尻尾をちぎれんばかりに振っていた。

その光景を後ろで探のお姉さんはスマホを構え写真に収めていた。息が荒い。

サグルを撫で回している最中僕のスマホのアラームが鳴った。

時間を見る 7時になるところだった。

僕はお姉さんと別れて、幽玄荘へと戻っていった。

帰った後は手を洗い、台所へ向かい、朝ご飯を食べ片付け、歯を磨き、制服を着て通学鞄を肩に掛け。

玄関へと向かっていった。

玄関には丁度零さんがいた。

零さんは挨拶をする僕を見るなりギョッとした顔をしていた。

零さんは「少し待ってろ」と言い部屋へと戻っていった。

僕がそのまま待っているとボディスプレーを持って零さんが戻ってきた。

「奏、朝犬とか撫でてきたか?」

「はい、散歩中に犬に会いまして触れ合いましたが…

その何か不味かったですか」

「失礼だったらわりぃんだけど…すごく犬臭い」

ボディスプレーをかけながら零さんが嫌そうな顔をする。

「そんなに匂いますかね」 僕は自分の腕を嗅いでみる

ボディスプレーの爽やかな匂いしかしない。

「あぁ、すごく臭う。」零さんは鼻を抑えながら、スプレーを噴射していた。

一通りスプレーを噴射された後、零さんはよしと言って、僕のことを見送っていった。

今日は、初めての登校日だった。

なのに、初日にボディスプレーまみれになるとは思わなかった。

僕がトボトボ歩いていると、僕にぶつかり手に肩をかける人物がいた。

「おはよ!かな…くっせ!!」

その人物は近づくなり、僕から離れる

紺色の髪に紺の瞳赤い目尻の丸い模様。

夜式 来常(やしき きつね)ことツネだ。

「おはよう。ツネ、臭くてごめんね…」

今の僕はむせるくらいボディスプレーの爽やかな匂いを纏っている。

「お…おぅ、こっちも臭いとか言ってごめんな」

「うん、大丈夫だよ。今ぼくボディスプレー臭いからさ…」

「おおぅ…確かにボディスプレー臭いな、何があったんだ?」

「実は…」

僕は朝の出来事を話した。

ツネは途中から笑って話を聞いていた。

「犬臭いからって、ボディスプレー全身に散布する奴がいるのかよ」

「そうなんだよ…お陰で制服は少し湿るし、ボディスプレー臭いし」

「あぁ…でも大分匂いが薄れてきたな」

「そうだね」

「それにしても犬かぁ…深海か?」

「なんで深海さんの犬ってわかったの?」

ツネがしまったという顔をした。

「い…いやぁ昨日教室に指導で残された時、深海から聞いてな」パーカーのフードをサッと被りツネは目を逸らす。また初めて会った時のようにツネの目が紅くなったように見えた。

「そっか、深海さんと知り合いになったんだね」

「そ…そうそう、あっ噂をすれば」

ツネが前を見る 前方を深海と今日出会ったお姉さんが一緒に歩いていた。

僕は二人に向かって歩き出した。

「おはようございます。深海さんとお姉さん」

「おはよう今朝ぶりだね奏くん、えっと…お姉さん呼びはちょっとやめて欲しいかな?ほら、私たち同学年だし」お姉さんの後ろで深海は恥ずかしそうに隠れていた。

「でも、名前を知りません。」

「あ、そっか…名前名乗ってなかったね。私は深海 真(ふかみ まこと)気軽に真とかマコって呼んでね。」

「俺も深海じゃなくて、探…って呼んで欲しい」

真の後ろから探がボソッと呟いた。

「分かりました。真、探」

「タメ口でいいよ、あ、そうだ。メッセージ交換しよ、アプリ出して!ほーら、探も出して出して」

「あぁ」探も渋々スマホを出す。

「ついでに俺も連絡先、交換してもらおうかな」

ツネが後ろからひょっこり出てきた。

「えっと…君は」真が戸惑う

「俺は夜式 来常(やしき きつね)、奏でと深み…いや、探とおんなじクラスの奴だ。よろしく」

ツネがニコリと笑った。

それに対して探は目を逸らした。

「そっか、探と同じクラスの子かぁ、もしかして昨日言っていた子?」

「お…おう」深が耳を赤くして頷く。

「へぇ…それじゃあ、来常くんとも連絡先交換しよっか」

「おう、よろしく」

こうして僕らは連絡先を交換た後、一緒に歩いて教室前で別れた。

お姉さんは隣のクラスらしい。

僕らは教室に入って、席についた。


朝のHRの時に入ってきた小暮先生は、僕の顔を見ながら顔をしかめていた。

まだボディスプレーの匂いが残っていたのだろうか。

僕は自分の腕の匂いを嗅いだ。

ボディスプレーの香りは仄かに匂う程度だった。

校内では始業を告げるチャイムが鳴っていた。

僕はこれから始まる高校生活に胸を膨らませていた。

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