転移者と虎は夜、桜の下花を見る。
この話は異界で生まれ変わり、前世の頃生きていた世界に帰ってきてしまった人物と 虎が花を見るお話
通行人にぶつかったそいつはブツブツと呟いたあと俺の方を見る。肩をつかまれる。
『…僕にぶつかったくせにさぁ、そんな悪い子にはお仕置きしないとなぁ』
『は?何言ってんだ?…っていっでぇ何すんだお…ま…え』
『さ、悪い子は滅多刺しの刑ですよぉ……ケヒヒッ』
鋭利なものを持った男に押し倒される
目の前にはキリのようなものが迫っていた。
腕、腹、胸、そして目…痛い暗い暗い暗い暗い暗い
痛い痛い痛い痛い痛い寒い…誰か…誰かたすけてくれ…風景が変わり、和室で白髪のボサボサ髪の男に掴みかかっていた。
『…ふざけんな、誰でもいいとかたまたま俺だったとか、やり直しができるとか、身勝手すぎだろ!?俺を他のやつを巻き込むなよ…いかれ…や…ろ…』
体の力が抜けて床へと崩れ落ちる
『へー、いかれ野郎かー、君の価値観からは我がそう見えるのか…もっと話したいけど、
時間切れかな?だから、もう転生させるね
特別に記憶や君の手グセの悪さは残してあげるあと、これは我からのプレゼントさ。じゃ、精一杯あがいてねー、弱虫君』俺の体はそこから投げ出され捨てられた。 夢だ。俺が死んで生まれ変わった時の記憶
また場面が変わる。城のような場所の通路
俺の目の前にはアイツが降り立っていた
『弱虫君いや、今は弱虫じゃないか…
ここは最果て、終わりの場所。
君は長い長い旅路を経てここに辿り着いた。我さぁ
キミにしたことがバレて神様という立場じゃなくなるのが決まったんだ。だからさ君が最初に望んだ通り、元の世界に返してあげる。ただしぃ君のいまの体のままでね。ケヒヒ 』
口が裂けそうな歪な笑顔でそいつは俺を見た
俺の足元に広がる闇、引き摺り込まれる身体。
『ふざ…けるな、せめて…最後まで終わりまで見届けてから…』
『待てないし、そんな時間もないんだよね。だからここでお別れだ。バイバイ我のかわいそうでかわいい
愛しい子♪』
前を走る、赤髪と銀髪の幼馴染二人、途中で拾った踊り子、そして、足を止めて振り向くピンクの髪の魔女。魔女は気づいて俺に慌てて駆け寄る、だが間に合わず俺は闇に飲まれていった。
俺はそこで目を覚ました。
木製の天井に電灯…チクタクという時計の音。
「夢…か…」
俺はベッドから起き上がり、畳に足をつけた。
懐かしい夢、この世界で殺され、異世界で生まれ変わり、そこで出来た幼馴染達と旅をし、なぜか魔王の元にたどり着き…あと少しのところでこの世界へとまた戻ってきた。その時の記憶。
部屋の中に置いている小さな冷蔵庫を開け、炭酸水の入ったペットボトルを取り出しながら俺は顔をくしゃくしゃに歪ませる。
「アイツらに会いたい…でも、もう顔も名前もロクに思い出せねぇ…ハハハ…お笑いものだな…」
この世界に戻され、幾年も経った。
この世界に戻ってきてすぐのことだ。
前世の俺は死んでいる上、前世の記憶がある程度残っていても姿も名前も完全に別人だ。それにも関わらず
朧げながらも覚えていた前世で働いていた古道具屋を訪ねてきた俺を見て、店主は口を開いた。
「なにがあったかは知らない。姿も違う、間違っていたらすまないが…君、代田くんだよね?代田真白くん。あー…代田くんは死んでいるんだった…。ならキミは生まれ変わりだから……後で名前を教えてくれないかな?……おかえり、代田くん」
そう、笑って俺のことを迎えてくれた。
今も俺はそこで用心棒兼荒事担当として働いている。
俺はそんなことを思い出しながら、廊下を歩いていた。
やがて縁側にたどり着く。
外を見れば、桜が月明かりに照らされ花びらが舞い散っていた。奇妙なのはその桜は桜が散ってもまた花をつけて散る。
枯れず桜。そう呼ばれている奇妙な桜だ。
ここは、幽玄荘。俺のような訳あり達がが住んでいる場所だ。
縁側に着く、そこには先客がいた。
金と黒が混じった髪。
金色の瞳がこちらを見る。
「よぉ、ブラン。お前も花見か?」
虎原 零だ。
「あぁ、そんな所だ。」
「なぁんて言って、また昔の夢を見たんだろ?」
「そうだ。この世界に来るまでの夢を見ていた。」
「来るって、お前この世界の生まれだろ?」
「前世はな…いまの俺は異世界で生まれこの世界に来てしまった異世界人のブランだ」
「そうか…なぁ、ブラン異世界ってどんな場所だったんだ?」
「そうだな…お前に分かりやすく言えばRPGのような世界だ」
「へぇ、魔法とかもあったのか?」
零が目を丸くしてこちらを見る。
「あったな…」
「すげぇ、ロマンがあるなぁ」
足を振り、体をゆらゆら揺らしている。
やけに上機嫌だなと思い俺は零の顔と手元を見る。
酒の空き缶を持っていた。
顔も赤い。
零は喉をゴロゴロと鳴らしていた。
まるで猫だ。
俺は手に持っている炭酸水が入っているボトルのキャップを捻った。プシュッという音と共に泡が勢いよく昇っていく。
俺は炭酸水を一口飲む。
炭酸の強い刺激が喉を通っていく。
前を見る、桜は今日も花を散らしては花をつけていた。
ハラハラと舞い散る花弁が月の光を反射し、白く舞っていくそんな幻想的な光景を見ながら俺はまた炭酸水を一口飲んだ。
気がつけば、零がゴロゴロ喉を鳴らしながら俺に寄りかかっていた。
酒臭い。
「退けろ!!零!お前みたいな筋肉質な奴に寄り掛かられても嬉しくない」
返事はない。その代わりにさらに零はぐいぐいと頭をこちらに擦り付ける。
グルルという甘えたような唸り声とゴロゴロという音が耳元でうるさく響く。
少し細身だが筋肉質な身体に180センチ近い身長の大人の男が酔っ払って俺に甘えてきている。
力が入って硬い胸板が腕に押し当てられる。
これがグラマスな体型の美女や猫だったらどれほど良かったか…
俺は抱きついてきた零の腕を掴んで離そうとするが、この酔っぱらいの力は強く、離れない。
おまけに離れまいと爪まで立ててしがみつく。
「零…お前いい加減にしてくれ…お前に抱きつかれても嬉しくない。むさ苦しいだけだ」
「ヤダ」ゴロゴロと喉を鳴らしながら零が呟く
ゴロゴロ音がさらにデカくなる。
肩越しに振動まで伝わってくる不快だ。
そのまま力なく零がずり落ちていく、頭が俺の膝の上に乗る。相変わらずゴロゴロと喉を鳴らしている。
そのまま、零は気持ちよさそうに眠り始めた。
「全く…困った酔っぱらいだな」
俺は零の顔を見る。
だらしなく口を開きふにゃふにゃした顔で眠っている
アイツもこんな顔で眠っていたな…赤髪の幼馴染…
明るくていつも俺ともう一人の幼馴染を巻き込んでいく台風のような奴…旅の始まりもアイツからだったな
俺は零の頭を撫で、もう一人の銀髪の幼馴染のことを思い出そうとしたが…顔は朧げで思い出せない…
アイツの思いつきに巻き込まれても困ったように笑っていたっけな…魔女の助手をしていたから巻き込まれることには慣れていたのかもな…
「会いたい…一目でいい…会いたいよ…お前らに」
俺は泣き出したい気持ちを堪えて炭酸水を飲み干した。零はお構いなしに寝息を立てていた。
桜は相変わらず花をつけては散りまた花をつけては散り続ける。
空には三日月が浮かんでいた。 俺は月明かりに照らされた桜の下静かに涙を流した。夜はまだ長い。
零の頭を支えていた膝が限界を迎えそうな頃、
やっと零は目を覚まし、酔いが覚めたのかすぐに離れ土下座をして謝った。
俺はそれを見てクスリ笑って
気にしてないと零に向かって言った。
零は恥ずかしそうにしていた。
そんなある春の夜の日の出来事




