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幽玄荘の枯れず桜  作者: 竹野 ぼん
始まり
15/22

幕間 違反と尻尾

桜が咲き 天気は晴れ 今日は入学式という晴れ舞台だった。

1-A教室

俺、夜式 来常(やしき きつね)はSHRの時点で教室に取り残されていた。

おそらく服装違反の件だろう。

入学前にできたダチの天野奏(あまのかなで)が教室を出ていく。

俺の目の前には、笑顔の担任の小暮が立っていた。

「夜式さん…なぜ先程から目を合わせないのですか?」

小暮が目を見開きこちらを見る。

獲物を狩る捕食者のような鋭い眼差しだ。

怖い。

俺はパーカーのフードを強く握りしめた。

先生が呟く。

「苔と土の匂い…コイツじゃないな…」

「え…」

俺はその発言を聞き取り、思わずフードから手を離してしまった。

小暮先生がそれを見逃さずフードを剥ぎ取る。

()()が空気に触れる。

「やはり、そうでしたか。」

小暮がニヤリと笑う。

しまったと思い俺は咄嗟に頭を隠した。

「名前は体を表すとは言いますがここまで露骨とは…」今日出会ったばかりの担任の小暮先生が()()()()()()()()()

音を拾おうとし、()()()()()()()()()()()()()()

「夜式さん、あなた耳が出てますよ、動揺したのでしょうか?瞳も赤くなってますよ?」

「!!」

「今度は尻尾もですか、全く化けるのが下手な小狐ですねぇ…」小暮が呆れた様子でこちらを見る

俺は慌てて後ろを見た。

腰のあたりで先っぽが真紅に染まっている白い尻尾が揺れていた。

俺は慌ててフードを被り直した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「先生、なんで俺が狐だって、分かったんですか?」俺はフードの隙間から小暮の顔を覗き込んだ。

小暮は呆れた目でこちらを見ていた。

「まずは、その耳と尻尾をしまいましょうか。夜式 キツネさん? 」

「それができたらとっくにやっている…」

耳と尻尾がへにゃりと力なく垂れる。

動揺するあまり、上手く変化ができない。

「そのためのパーカーですか…全く、()()として恥ずかしい。」

ど う ぞ く ?耳がピクリと動く。

「えぇ、私は貴方と同じ種族ですよ。」

だから分かったのだろうか?ただ目の前にいる教師はどう見ても人間である。

「なら、証拠を見せろよ」

俺は小暮を睨みつけた。

「はぁ…仕方がないですね」

呆れた様子で小暮が眼鏡を外す。

小暮の目が茶褐色から橙色に染まる。

丸かった瞳孔は縦長になり、頭には紅葉色の三角の耳がひょっこり出る。それはすぐに引っ込み、小暮は眼鏡を掛け直した。

「これで信じてもらえましたか?」

「お、おう。」俺は目を逸らしたが尻尾は正直でぶんぶん揺れる。

「同族に会えた嬉しさのあまり尻尾を振って、まるで犬ですね…とりあえず落ち着き次第、人間に化け直してください。そうそう式典中、パーカーは脱いでください。」

「えーまじか…」

「そのくらいは我慢してください。」

さてと、と小暮はもう一人の生徒の元へ移動した。

「先ほどのやりとりを見てますよね?

どうして驚いていないのでしょうか?」

切り揃えられた黒髪の生徒がビクッと震える

頭の右脇に生えている角張った渦巻き状のアホ毛が揺れる。

深海 探(ふかみ さぐる)さん?」

小暮がその生徒の顔を覗き込む。

「獣臭い正体はお前か」ボソリとものすごく小さな声で呟く。

小暮がその生徒の首元に指をかけた。

「襟でで隠れているからバレないと思いましたか?」

チャリという音と共に金属プレート付きの青いチョーカーのようなものがちらりと見えた。

「入学式にアクセサリーを付けてくるとは肝が据わってますね」

「離せよ」 グルルと深海は唸り声を上げた。

パッと小暮は首から指を離した。

「とりあえず、深海さんも式典中それを外してくださいね。」

深海が渋々、それを外す。

ゴトっという音と共に机の上に置かれたもの。

チョーカーのではなくそれは犬用の首輪であった。

金属製の名札プレートが付いていた。

「深海さんは犬でしたか。道理で驚かなかったのですね」小暮がにこりと笑う

「オレは人間だ!!」深海が歯を食いしばって唸る

それに反して深海の耳には黒い毛が生え形が変わっていく、腰のあたりからも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

小暮が呆れた様子でため息をつく。

俺も呆れてため息をついた。 この事態を起こした教師に対して。

「深海さん、耳と尻尾が出ていますよ。」

ハッとした顔で深海が己の姿を見る徐々に顔が青くなっていく。

「とりあえず、深海さんも耳と尻尾をしまいましょうか」

「それができたらとっくにやっている」

学ランの上着を頭にかぶせて深海は呟いた。

尻尾は足の間に挟まっていた。

「全く、困った子達ですね」

この時おそらく俺たちは同じことを内心思っただろう

お前が言うな。

「とりあえず、二人は耳と尻尾をしまってから体育館に来てくださいね。入学式の入場に間に合うよう頑張ってください」

小暮が教室から出ていく

俺は既にアイツのことが少し嫌いになり始めていた。

ただこの騒ぎで少し俺は少し落ち着いていた。

俺は立ち上がり、深呼吸をして手を合わせ、目を閉じ、集中した。

落ち着け、落ち着け、今の俺は人間…人間…ただの男子高校生 夜式来常だ…

耳や尻尾が引っ込む感覚がある。俺は目を開き

後ろを見て頭を触った。よし、人間になっている。

俺は体育館に向かうためパーカーを脱ぐ。

あとは式が終わるまで耳や尻尾を出さないよう我慢をするだけだ。

我慢我慢我慢我慢…

我慢と呟く俺の隣に気がついたら深海が隣にいた。

白目がちの鋭い目がコチラをじっと見ている

「な…なんだよ」

「…恥をしのんでお願いがある…オレの耳元である言葉を囁いてくれないか?」

「はぁ?」 なんだそれは

「普段はこの程度なら戻れる…だが…今は戻れなくてな…」恥ずかしそうに顔を逸らす

確かにその気持ちは分かる。俺はため息をつき深海を見た

「それで、なんて言えばいいんだ?」

「それは-」

深海が言った言葉は単純なものだった。

俺は深海の黒い毛に覆われた犬耳の近くに顔を寄せた。

耳がくすぐったそうに震える。

俺は深海に囁いた。

「探。人間になれ」


俺は我慢とひたすら呟きながら体育館へと向かって歩いていた。その後ろを深海が歩く。

深海の体には耳や尻尾は生えていなかった。

俺たちはお互い目を合わせず、気まずそうな雰囲気のなか体育館へと向け、少し早足で歩いていった。





彼らの正体を天野少年が知るのはまだ先の話。

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