入学式
春それは出会いの季節。
春それは変化の季節。
庭のチューリップが蕾を膨らませ、水仙の花が咲き、枯れず桜は今日も花を散らせて舞っていた。
「奏くん忘れ物はないかい?」
「はい、確認しました。
それでは行ってきます。」
「いってらっしゃい、奏くん。」
靴を履いた奏くんは、黒い学ラン姿で立ち上がった。
左右で色が違う瞳も目立つためか、右目に紫色のカラーコンタクトをはめていた 。
今は4月の頭。
今日は奏くんが高校に入学する日だ。
奏くんは朝早く準備をして出ていった。
どうやら親御さんと駅で合流するらしい。
最初はここでの合流を提案したけど。
「僕の兄や姉ならともかく、父と母にみなさんを会わせたら倒れてしまいますよ」と笑顔で言っていた。
確かにそれもそうか。
髪色以外ぱっと見一般人な巴や、少し見た目が怖い零くんならともかく
年中お面を被っている 俺、桜木。
ツギハギ傷だらけのフランちゃん。
そして、鼻筋に横一文字の大きな傷がある上に女装をしているブランくん。
確かにうっかり出会ってしまったら大変だ。
逆にお兄さんお姉さんがいる上にその二人に俺たちを会わせても問題はないんだ。という感想が浮かんだだけだった。
俺は、元気に去っていく奏くんを見送ったあと、下駄を履き外に出て体を伸ばした。
雲一つない青空に桜の花びらが舞っていた。
朝、駅の改札で僕はスマホを見てある人物を待っていた。今は通勤ラッシュの時間。
駅の改札では人が激しく出入りしていた。
その中で紫色の髪の女性が二人歩いてきた。
僕は驚いた。
一人は母だ。
もう一人は本来いてはいけない人間、今日始業式で学校にいるはずの人間。
後ろで二つ結びにした髪が揺れ、笑顔でこちらに手を振る人物。
ブレザー姿の女性。
姉の天野 響だ。
「やっほー!!奏ー!!お久しぶり!!会いたかったよぉぉぉぉ!!」姉が大きい声で叫ぶ。
「姉さん…今日始業式じゃなかったっけ」
僕は呆れながら姉に尋ねた。
「そうだよ」
「なんでいるんだ…」
「サボった。だって奏の晴れ姿を見たかったし」
悪びれもせず姉は答えた。
「そのためだけに来たのか…母さんもなんで姉さんを止めなかったの?」
「最初はお父さんと一緒に止めたんだけどね、どうしても行きたいって説得されてねしつこく何回も言われているうちに…折れちゃった」
母が残念そうにいう。
「そこは折れてはほしくなかった…父さんならともかく姉さんは来ちゃダメでしょ」
ごめんと謝る母
「なーんでー!!たまにサボったっていいでしょ」
姉が頬を膨らませる。
「サボるのは構わないけど、弟の入学式のためにサボるのはちょっと…僕もう高校生だよ。」
「高校生がなんだ!!もう来ちゃったんだ!!後戻りできないよ!!」姉が胸を張る
列車の時間を見る 次の列車に乗ればまだ遅刻程度で済むはずの時間だ。
今すぐ改札に向かってほしい。
「まぁ、もうここまで来ちゃったし…ね」
母が諦めた顔をして僕の肩を掴む
僕はため息をついて母の手を肩からどける。
「はぁ…母さんまで姉さんの味方をするのかぁ…」
「ごめんね、奏。でも確かに入学式に響がついてくるのは不味いわねぇ…ねぇ、響入学式が終わるまで時間を潰してくれないかしら」
違う、そうじゃない。
姉に帰るよう説得して欲しかった。
「えー、せっかく来たのにぃ」
なぜその説得を家を出る前までに終わらせなかったのだろうか…そして今も帰るよう説得して欲しかった。
姉が騒いでいる間に無慈悲にも列車の発車アナウンスが鳴ってしまった。
ぶーたれる姉を前に僕はため息をついて、耳打ちをした。
「姉さん…入学式が終わったら僕と二人で写真を撮ろう。それでいい?」
姉の顔がパァぁっと明るくなる。
「分かった!!時間を潰す!!じゃっ!!」
姉はそのまま走っていった。
駅からはどんどん遠ざかっていく。
本当に姉は自身が通う学校の始業式に行くつもりはないらしい。
「姉さんいっちゃった…」
「奏…私たちも学校へ向かいましょうか」
母さんはタクシー乗り場へと向かっていった。
僕は母と一緒に学校へと向かい始めた。
僕は姉の行動力に呆れつつ、母と一緒にタクシーに乗り込んだ。
学校前につき、僕はタクシーから降りてそのまま昇降口へ向かっていった。
この前の雨で桜は散ったかと思ったけど、まだ咲いてない花があったのか少しだけ花が咲いていた。
僕は下駄箱で靴を脱ぎ、持ってきた上履きに履き替える。
学校内では親子連れの生徒や僕のように単独で行動する生徒など様々だった。
僕はクラス分けのクラス表を見て教室へ向かった。
僕のクラスはA組だ。
教室につき扉を開ける。
賑やかな話し声がきこえる。
席は苗字順で僕の席は比較的前だった。
僕は席についたその時だった。
「お、奏じゃん!!同じクラスなんて奇遇だな!!」
紺色の髪と瞳、目尻に赤く丸いまるで紅を差したような模様がある少年に声をかけられる入学前に出会った夜式 来常だ。
ツネは黒い学ランの下に白いパーカーを着ていた。
「ツネ!!同じクラスなんだね。改めてよろしく」
「おう!こちらこそよろしく」
僕らは固い握手を交わした。
その時ちょうどチャイムが鳴った。
ツネも僕と別れて席についた。
教室の扉を開けて担任の先生が入ってきた。
切長の茶褐色の瞳に右目に泣き黒子、茜色の眼鏡をかけ、茶褐色の長い三つ編みの髪が揺れた。若く見える男性教師だった。
教師はボクとツネを見た。
ツネはサッと猫耳付きのパーカーのフードを被り目を逸らしていた。
「えー、まず新入生の皆さんご入学おめでとうとございます。今からSHRを始めます。
まずは入学式の流れの説明をします。」
先生は入学式の流れと自己紹介をした。
先生の名前は小暮 紅葉
担当科目は古典。趣味は横笛演奏と言っていた。
先生の自己紹介も終わり次に入学式後の流れの説明に入る。説明が終わり、入学式へと向かうためゾロゾロと生徒が教室から出ていく。
教室には僕らを含めて何人かの生徒が残されていた。
「さて、皆さんなぜ残されたのかわかりますよね」
「はい…」僕は返事をする。
恐らく僕は髪色だろう。
「まず天野さん。その髪は地毛ですか?」
「はい、地毛です。」僕は髪をかき分け生え際を見せた。黒い毛もなんもない薄紫の髪だ。
「確かに地毛ですね…では次になぜ、片目だけカラーコンタクトをつけているのですか?」
先生の茶褐色の瞳が僕を見つめる。
バレている。
「えぇっと…片目だけ色が違って目立つので付けています」僕はうつむき呟くような小さな声で答えた。
「…そういった事情なら仕方ありませんね、天野さん
体育館へ向かってかまいません。」
「はい。」
僕は教室を出て体育館へと向かった。
教室を出る時小暮先生はツネにパーカーを脱ぐように言っていた。
僕が教室を出て歩いている時、隣のクラスの方でも声がした。 声からして同じように指導されている生徒がいるらしい。そちらはアクセサリー類のようだ。
「入学式に服装違反する人いるんだ…」
自身のことを棚に上げて僕は呟き、体育館へ向かって歩き出した。
体育館に着く少し前にツネがパ学ランのボタンをしっかりと留めた状態で歩いてきた。
もちろんパーカーは着ていなかった。
「我慢…我慢…我慢…」ツネはひたすら不機嫌そうに我慢とブツブツ唱えていた。
「パーカー脱ぐのがそんなに嫌だったの?」
僕はツネに声をかけた
「ま…まぁな… 」ツネが目を逸らす。
僕たちはそんな会話をしながら体育館前に着き、入場して行った。
入場前、数名の生徒が僕らを見てクスクスヒソヒソと笑っていたが僕はそれを無視し、堂々と歩いた。
入学式は何事もなく無事行われた。
式中、僕は保護者席を見る。
母の隣で母と談笑している人がいた。
その人はツネと同じ紺色の髪をしていた。
目の下には三つホクロが並んでいた。
恐らくあの人がツネのお父さんなのだろう。
僕は視線を戻した跡今度はツネをみた。
ツネは腕を組んだまま式典中居眠りをしていた。
教員席の方を見る小暮先生もツネ同様居眠りをしていたようで他の先生方に突かれていた。
僕はそれを見たのち視線を前に戻した。
入学式が終わった後、体育館を出て教室へと戻る
LHRではそれぞれの自己紹介を行った。
LHRが終わり、教科書類の購入をし解散となった。
僕は母と合流し、昇降口から外へ出た。
外では写真撮影をする生徒や連絡先を交換する生徒が多かった。
「あのー、よろしければ写真を撮りましょうか?」
ツネのお父さんが声をかけてきた。
後ろには恥ずかしそうにしているツネがいた。
「では、お言葉に甘えまして、お願いいたします。」
母がカメラを渡す。
僕と母は入学の看板の前に並んで写真を撮ってもらった。
次にツネのお父さんからスマホを預かり、2人のことも写真に撮った。
撮影中 ツネは恥ずかしそうに目を逸らしていた。
撮影が終わった後ツネがツネのお父さんのスーツの裾を引っ張りながら声をかけていた。
「紺…いや、親父。写真も撮ったしもう帰ろうぜ」
「それもそうですね。では帰りましょうか」
どうやらツネは普段は名前呼びらしい。
お父さんは紺という名前らしい。
「ツネ!また明日!」
「おう!奏また明日な!!」ツネは手を振って帰っていった。
「ねぇ、奏夜式さんから聞いたわよ。入学式前にあの子と友達になったんだって?」
「うん…母さん夜式 来常…僕の友達だよ」
「あら、立花くんと同じ名前なのね」
母は少し驚いていた。
立花 橘音中学時代の同級生の名前である。
「そう、だからツネって呼んでいるんだ。」
「そうなのね。そういえば奏、立花くんと同じ学校じゃなくてよかったの?あんなに仲良かったのに」
「母さん、何回も言ったでしょ。見学の時ここがよかったから選んだって…学区外だったけど」
そう、ここは僕が住んでいた場所から離れた場所だ。
一応列車では時間はかかるけどいけなくはない距離、ただ受験の際に学区外というだけだった。
「あ、そうだ入学式も終わったし姉さんと合流しないと」
僕は話題を変えるように姉に電話をかけた。
「もしもし、姉さん入学式終わったよ、今姉さんどこにいるの?」
『遅ーい!! あ、今?今ねぇなんと奏が通う学校の近くまで来てます!!たがら校門前で待っててねー!!
走ってくるから!!』
ブツリと電話が切れた。
「母さん。帰りのタクシーを呼んで。僕は歩いて
幽玄荘まで帰るからさ。」
「幽玄荘って奏がお世話になっているところよね?
この後、響と一緒に大家さんに挨拶しに行こうと思っていたのだけど…」
「今日は大家さん用事があっていないんだ。」
半分嘘だ。幽玄荘大家さんこと巴さんは、桜木さんに絡まれて、いろんなところに連れ回されたり、何処かへ行ってしまい最近いないことが多い。
「そう、それは残念ね。なら挨拶はまた今度にするわ」
「う…うん。」
僕は幽玄荘の住民達の顔を思い浮かべていた。
できればそんな日が来ないことを祈る。
母がタクシー会社に電話をかけている間、姉が走ってこちらへときた。
「奏ー!!入学おめでとう!!よし!写真撮るか!!」姉が僕の肩を掴み抱きつき、スマホをこちらに向けシャッターボタンを押す。
笑顔の姉に対して、戸惑いの表情を浮かべる僕が映っていた。
写真を撮り終わった後、姉はブレザーのポケットから
鬼灯の実がプリントされた紙袋を取り出す
「はい、奏 これあげる。ここの近くの雑貨店で見つけたんだ。」
僕は袋を開けた。
白いフクロウのキーホルダーが出てきた。
「ありがとう。」
「へへーん。そうだ店の人すごい格好しててさスリーショット撮ったんだけど見る?」
それは少し気になる。
僕は姉が見せた画面を見る。
それを見て吹き出しそうになった。
姉と白髪の和服姿の男性、チャイナ服に虎耳姿で手で顔を隠そうとしている金と黒が混ざった髪色の男性…零さんだ。
あの人、虎耳つけて雑貨店で働いているんだ。
僕は今日、住民の秘密を知ったような気持ちになった。
そのあとタクシーが来て母と姉が乗り込み、僕はそれを見送り、家路に着く。
今日から高校生だ。幽玄荘へと戻る足取りは軽く。
僕は軽くスキップをしながら帰って行った。
幽玄荘に戻った後、ちょうど玄関を掃除していた狐の面を被った桜木さんに零さんの仕事について聞いてみたら笑いながら、店の場所を教えてくれた。
今度学校帰りに寄ってみようと思う。
僕はそのまま靴を脱ぎ、自分の部屋へと向かい
姉からもらったキーホルダーをボディバッグにつけた。
僕は障子を開けて縁側に出て座った。
今日も、枯れず桜は相変わらず咲いていた。
僕はそれをしばらく眺めていた。
これにて、少年と奇妙な住民達の出会いの話は一区切りとなります。10年近くも待たせてしまい申し訳ありません。 これからも物語を綴って参りますので
温かい目で見守っていただくと幸いです。




