屋敷の外
-桜木が酸漿という人物に連れていかれた日の昼過ぎ。-
僕、天野奏は目を覚ました。
開いた障子の先から見える庭からは相変わらず、枯れず桜が花をつけては散っていた。
昨日の深夜の出来事から、眠れずにいた僕はことの真相を知って安心したのかそのまま部屋に戻り今まで眠っていたようだ。
とりあえず、パジャマから私服の水色のパーカーに着替えた。
ふとスマホの日付を見る、あと何日かすれば入学式だ。
(そういえば、ここに来てから屋敷の外に出ていないな)
考えてみれば、引っ越してきた日から今の今まで屋敷の敷地の外から出ていない。
僕は、スーツケースからボディバッグを出し、それを胸に掛け、部屋の扉を開け玄関へと向かっていった。
玄関へ向かう途中、緑から青のグラデーションカラーの髪の人物に声をかけられた。ここの大家さんこと巴さんだ。
「奏、何処に行く予定だ?」
「とりあえず、ここ一帯を散歩しようと思います」
「そうか…奏、もし桜木を見かけたらこの番号に連絡してくれないか?」
巴さんは電話番号が書かれたメモを僕に渡した。
「これはもしかして…」
「己の番号だ。アイツは携帯を持ってない上にこの屋敷の外へ出たことがないからな」
「もしかして、桜木さん…いなくなってしまったのですか」
「そうだ。朝騒がしいと思って玄関に来てみれば、
玄関は開きっぱなしな上桜木の姿が見当たらない…
何かあったに違いない」大家さんの眉間に皺がよる
「己はもう一度屋敷の中を見て回る、いなかった場合は外を探す。奏…桜木のこと頼んだぞ」
「わかりました。」僕は玄関に向かって歩き出した。
玄関から出ようとした時慌てた様子で大家さんが走って来た。
「奏!!傘は持っているか」
「あ…持っていません。」
「己の傘を貸してやる」
「すみません。ありがとうございます。」
「礼にはおよばない」
「それでは行ってきます。」
こうして僕は大家さんの傘を借り、周辺散策の他に桜木さん探しも用事に加わってしまった。
僕は屋敷の門から外へ出た。
幽玄荘は住宅街の奥から少し外れたところにあり、
後ろには林があった。
「相変わらず広い屋敷だなぁ」
僕は外を見てつぶやく。
立派な門に広い敷地、そして立派な平家の日本家屋…
こんな豪華な屋敷がポツンと建っていたのだった。
僕はあの日登った坂を降り住宅街の中を歩いていった。
目的地は近いうち通う学校だ。
一応地図アプリ上では徒歩25分ほどと表示されている。
少し遠いけど、歩けなくはない距離だ。
僕は学校を目指し歩き出した。
道端には雨にも負けず、タンポポが蕾を膨らませていた。
雨のザーザーという音、雨音にかき消され静かな街を僕は歩いて行く。
傘で顔が隠れているせいかすれ違う人もこちらを見て驚くことはなかった。
30分後、僕はなんとか学校前にたどり着いた。
残念ながら雨で桜は散り始めていた。
同じく、残念そうに桜を見ている人物がいた。
僕と同じくらいの歳だろうか。
赤い傘を差し、白い猫耳付きのパーカーに紺色の髪が
傘の隙間から覗いていた。
「こんにちは。下見…ですか?」
僕はその人物に声をかけた。その人はギョッとした顔で僕を見た。 紺色の髪に対してその瞳は不気味なくら い紅く見えたような気がした。
「お…おう、今度からここに通うからな…迷子にならないように…」逸らした瞳の色は髪と同じ色だった。
紅く見えたのは気のせいだろうか?
「奇遇ですね、僕も春からここに通うんです。」
「そうか、仲間か!! 」その子の顔がパァッと明るくなる。
「僕の名前は天野奏です。君は?」
「俺は夜式 来常っていうんだ。
よろしくな奏」
にっこりと夜式 来常と名乗った人物が、手を差し出す
僕はその手を握った。
その目尻は隈取りや赤い紅を引いたように丸みを帯びた赤いアザのようなものがあった。
「よろしくお願いします。夜式」
「苗字呼びかよ」
「中学時代の同級生に同じ名前の人がいるので」
「まじかよ…俺以外にもいるのかキツネって名前のやつ…」
「はい…いるんです」
幽玄荘に住むことになったきっかけの同級生が正にその人物である。
「そうかぁ、だけどな苗字呼びはやめてくれ…こ…いや親父の顔がチラつくんだよ」
お父さんと同じ呼ばれ方…確かにそれは嫌かもしれない。
「うーん、そうですか…ならツネはどうでしょうか?」
「ツネ…ツネか…それいいな、今度からそう呼んでくれ!あー…あと、俺ら同い年だろ敬語じゃなくていいだろ?」
「確かにそれもそっか…じゃあ、改めてよろしく、
ツネ」
「よろしくな奏」
「あ、そうだせっかく出会ったんだ連絡先交換しねぇか?」ツネがスマホをポケットから出して、メッセージアプリを起動しQRコードをこちらに見せた
「うん」 僕も同じくスマホを差し出しコードを読み取った。
「おっし、連絡先ゲット!!いやー入学前に、知り合いができて嬉しいなぁ!!」
「こっちも、入学前に顔見知りができて安心したよ」
「そっか!」ツネがにっこり笑った
この後僕らは別れ、また僕は歩き出した。
いつの間にか雨も止んで、曇り空から太陽が覗いていた。
学校周辺を歩き、地図アプリを頼りにして幽玄荘に戻る途中、僕はある人物を見付ける。
チャイナ服のような半袖シャツにパンツ、黒い靴、
結ばれた長い青みがかった髪、猫のお面…
その人物はその場でうずくまっていた。
桜木さんだ。
「桜木さん…!!」僕は桜木さんに駆け寄った
「うーん、奏くん…おはよう」
うとうとした様子で眠そうな声で桜木さんは返事をした。
「大家さんが探してましたよ」
「巴が?そっかぁ…なんも言わなかったも…ん…な…」
その場で桜木さんは横になり眠りについてしまった。
「桜木さん!?道端で寝ないでください…桜木さん!? 」
桜木さんの体を揺らしても桜木さんは起きなかった。
僕はスマホを取り出しメモの番号を打ち込んで電話をかけた。
「もしもし、大家さん?奏です。桜木さんいました。
眠っていて、おきません」
「………………そうか
奏、今何処にいるんだ?」
少しの沈黙の後多さんは口を開いた。
おそらく、呆れか怒りのどちらかだろう
「住宅街の中です。」
「電柱はあるか?」
「はい」
「番地は書いてあるか?」
「確認しますね…あ、書いてあります」
「番地を言ってくれ、そこに向かう」
「番地は…」
番地を伝えた後、大家さんが来るまで待った。
その間も桜木さんを突いたり揺らしたりしたけど彼は目を覚さなかった。
大家さんは、軽自動車を運転しながらきた。
(大家さん…免許持っているんだ…軽自動車なんだ…)
車から降りてきた大家さんの顔は険しかった。
瞳がまるで蛇のようになっている
「待たせたな。で、そこの奴はまだ眠っているのか?」
「はい…ぐっすりと」
大家さんの口からため息が漏れる…
「おい、桜木!!起きろ!!」
大家さんが桜木さんの体を揺らしても頬を軽く叩ても桜木さんからは反応はなく、ただ寝息だけが聞こえる。
大家さんがまたため息をつく。
その後、桜木さんを抱き抱え後部座席に寝かせた。
「奏、助手席に座れ帰るぞ」
僕は頷いて助手席に座った。
車の中ではラジオから最近流行っている曲が流れていた。
雨が止んで、湿った風を開けた窓から浴びながら
幽玄荘へと戻っていった。
車は幽玄荘前で停まり、大家さんが桜木さんを抱えて今まで運び、僕は脱がせた靴を持って靴箱に入れた。
その後大家さんは車を停めてくると言って、車に乗って去っていった。車の音は屋敷の裏手側で止まった。
駐車場はあるんだ。
そう僕は思って屋敷の中に戻っていった。
居間では相変わらず、桜木さんがすやすやと眠っていた。
お面を被ったまま、よく眠れると思った。
苦しくないかと思い、僕はお面に触れて持ち上げてみた。お面は簡単に外れた。
そこから先の記憶はない。
気がついたら居間の天井を眺めていた。
ボーンと居間の時計が時間を知らせていた。
夜の7時半。
どうやら、気を失っていたらしい。
桜木さんの姿はなくなっていた。
代わりに台所から晩ごはんの匂いがする。
辛い匂いがする。
僕は立ち上がり台所に向かって歩き出した。




