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幽玄荘の枯れず桜  作者: 竹野 ぼん
始まり
11/23

雨あめ降れ降れ

午前7時

朝ご飯を食べるために巴が起きて台所にやってきた

「おはよう巴 、味噌汁できてるよ」

「おはよう桜木、お前一人で作ったのか?」

「そうさ、俺一人で作ったのさ」

「すごいな」

「もしかして…馬鹿にしてるのかい?味噌汁くらい作れるさ」

「昨日、野菜を切ることすら苦戦していたお前が、コンロの火の熱に驚いていたお前が、味噌汁を一人で作ったことに驚いただけだ。」

巴は冷蔵庫から納豆のパックを取り出しながら言う。

「もう慣れましたー。昨日の一回で慣れました」

俺は不貞腐れながら答えた。

「そうか、なら今日の晩飯はお前に任せるとするか」

わざとらしく、納豆を混ぜながらニヤリとした顔で僕のことを見る

「ま、まっかせなさーい!!」

俺は胸を張って答えた。

仮面で顔が見えなくても巴とは長い付き合いだ。

きっと俺が見栄を張っているのはバレているだろう。

「今日の晩飯が楽しみだな」

とクスリと笑いながら彼は手を合わせいただきますと言い朝飯を食べ始めた。

俺も席について飯を食べ始めた

朝飯を食べ終わり、食器を洗い片付ける。

午前8時

自室の布団を片付け、零(れい)くんの様子見を見にフランちゃんの部屋へと向かう。

もちろん襖をノックしてから入る

「おはよう、フランちゃん 零くんの様子はどうだい?」

「おはよう、桜木。零ならもう傷が治って今はぐっすり寝てるよ。」

フランちゃんはベッドを指差す。

ベッドの上には毛布を被った金と黒が混ざった髪色の大柄な男が眠っていた。

俺は毛布を捲って、彼の腕を見た。

昨日の傷が塞がっていた。

「相変わらず、化け物みたいな回復力だよまったく…こっちがなんもしなくても塞がっていくんだから」

フランちゃんは呆れた様子で彼を見る

「ありがとう。彼を診てくれて」

「お礼なんて言われる筋合いはないよ、アタシは何にもしてないし」

栄養バーを食べながら彼女は笑っていた。

「そうは言っても、ベッドを貸してくれた上に傷口を綺麗にして、毛布まで被せてくれたんでしょ。

優しいなぁフランちゃん」

「あっそ、アタシは当たり前のことをしたまでさ、

用が済んだならとっとと出ていきな」

「はいはい。それじゃあ、フランちゃん。引き続き零くんのことよろしくね」

僕は手を振るフランちゃんに背を向け部屋を出る。

その時だった雨に混じり歌声が聞こえてきた

外からだった。

「あめあめ、ふれふれ、かあさんが♪蛇の目でお迎えうれしいな♪」

その声の主が幽玄荘の入り口を叩く

「ごめんくださーい!酸漿(かがち)です。零さんは

いらっしゃいますか」

玄関のガラスに映る白い影

俺は玄関を開ける

そこには和傘を差し、桜柄の白い羽織に赤と黒の着物を着た男が立っていた。

長く垂れた赤いもみあげと尾のように長く白い髪が揺れる。

その顔は笑っていた

否わらっているように見えるが目が笑っていない。

彼の名前は酸漿糸遊(かがちいとゆふ)。

名前が読みづらいからシユウまたはカガチと呼ばれている。

零くんの働き先の雑貨店の店主だ。

「零くんは、今怪我をしていて休んでいるさ」

「怪我はもう完治してますよね?」

彼の目がすうっと見開く、

朝焼けのような朱色の右目が覗く

左目は切り揃えた前髪に隠れて見えない。

「完治していても体力は回復してない、今日は働けないよ」

「そうですか、念のため確認になりますが、嘘はついてませんよね」

彼が目を見開きこちらにぐいっと近づき、俺の目を覗く 怖い怖い怖い。

「う、嘘なんてつくわけないでしょう、本当に彼は体力を消耗して休んでいるんだ。証拠に今、彼は出てきていないだろう?」

「うーん、確かに…それもそうですね。零さんはしっかり出勤してきますし、欠勤の際も連絡してきますからねぇ…」

「そうそう、だから今日は何があっても彼は出せないよ」 酸漿くんの目線は俺の足元に移っていた。

「なら、桜木さん…零さんの代わりに働いていただけませんか。もちろんお給料は出します。」

酸漿くんは俺の顔を見て言った。

「なんで俺が?」

「今ちょうどいたからです。」

「俺の体質を知った上で?」

「私の勘にはなりますが…桜木さんこの屋敷から出られる身体になっていますよね?」

図星だ。なぜこのことを知っているのだろうか

「その様子だと当たっているようですね…さてと、行きましょうか桜木さん」

酸漿くんは俺の体に手を回し抱き上げる、器用に傘を脇に挟んで。

その華奢な身体の何処からそんな力が出るのだろうか

「あ、あのー?酸漿サン!?俺まだ返事してませんよ!?」俺を抱えたままずんずん進む酸漿くん

「拒否権はありません」彼がにっこり笑う。

俺は頷くしかなかった。

そのまま何事もなく門を抜ける

本当に俺は屋敷を出たのだ。

ただその時の俺は屋敷を出た嬉しさより、酸漿くんの出す威圧感に気圧され震えていた。

まるで蛇に睨まれた蛙だ。

俺はそのまま酸漿くんの店まで連行され、一日中働かされたのだった。

仕事から解放された後ヘトヘトになった俺はそのまま道に迷って力尽き気がついたら幽玄荘の居間にいた。時計を見る…夕飯の準備…!!

慌てて台所に向かった頃には巴くんが夕飯の準備をしていた

俺に気づいた巴は呆れた様子で

「やっと目を覚ましたか…急にいなくなったかと思えば、奏が道端で眠っているお前を見つけて己に連絡をしてきてここまで連れてきたんだ。全く心配をかけさせるな、一体今日は何処で何をしていたんだ?」

「あはは…ちょっと労働を…」

「服装からして酸漿のところか…零の代わりに連れていかれたな」

今の俺の服装は作務衣ではなく中華風のシャツとズボンだ。

「そんなところさ」

「それなら一声かけてからにしてくれ…」

「はい…気をつけます」

俺は巴の隣に立つ。

今日は初めから割と散々な日だったなと考えながら俺は夕飯の準備を手伝った。


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