深夜の住民たち
深夜の獣たち 桜木視点となります。
深夜、俺桜木は眠れず屋敷内の見回りをしていた。
眠れない理由は単純だ、体を得た喜びと興奮で寝付けなかったのだ。隣で眠っている巴にバレないように俺はこっそり、部屋を抜け出した。
俺は巴と同じ部屋で寝ている…風呂も一緒に入ることとなった。理由は監視、巴は俺を監視するためにここにいる。
まぁ、俺にはあまり関係ない話だけど。
ただ、巴は俺からすれば腐れ縁で幼馴染のようなもの
だ。(彼はそう思ってないかもしれないけど)
俺は、鼻歌を歌いながら屋敷内を懐中電灯で照らしながら歩いていた。
その時だった、玄関が開く音がした。
誰か帰ってきた。足音からして2人分だ
ここの住民は 現在俺、巴、フランちゃん、奏くん、そして今帰ってきたであろう二人の6人である。
俺は玄関施錠のため玄関へ向かった。
「おかえり」
俺は勢いよく飛んで転んだ
そうだ。今はもう肉体を得たから飛べないんだった。
俺は転んで痛む体をさすりながら、玄関へと歩いていった。
玄関へと向かう途中、ずるずるという何かを引き摺る音、滴る音、湿った音、息切れのような息づかいが聞こえてきた。
俺は、懐中電灯でそれを照らした
そこには白い修道服を着た、筋肉質な長い白髪の男と Tシャツとパンツ姿の黒と黄色が混じった髪色の男がいた。
「おかえり、ブランくん、零くん」
ブランくんからは返事はなく、零くんはグルル…という唸り声を出すだけだった。
まるで獣だ。
ブランくんの手には大きな黒い袋があった。
その袋の後ろには赤い液体と、土混じりの轍ができていた。
そのまま俺を無視して二人はふらふらと歩いて行く、そこは彼らの部屋でもない、ましてやフランの部屋でもない。
奏くんや僕らの部屋の方角だ。
「ブランくんそっちじゃないよ、零くんも二人の部屋はあっち!!」
俺はブランくんの肩を掴んだ。
緑色に輝く瞳がギョロリとこちらを見る。
ブランくんは俺を睨みつけたあとハッとした顔をした
「あー…悪りぃ、意識が飛んでいたみたいだな」
ブランくんが口を開く
無意識でここまで歩いてきたのか…
「とりあえず、フランちゃんの部屋に行こうか」
なぜ彼女の部屋かというとブランくんが持っている黒い袋と関係があるからだ。
それに先ほどから零くんの息も荒く、目の焦点も合っていない、腕に深い切り傷を負っているようだ。
俺はため息をついた。
「零くんとりあえず君もフランちゃんの部屋に行こっか」 俺は零の肩を支えて歩いた。
この時、俺は知らなかった。
奏くんが起きていて、ブランくんたちが移動している様子や音を聞いていたことを 部屋の中で怯えていたことを
その時はとりあえず、二人を移動させること、その後の掃除のことで頭がいっぱいだった。
俺は零くんを支えながら、ブランくんは息を切らせながらなんとかフランの部屋の前までついた。
俺は零くんを支えたまま怪しい光を放つ部屋を開けた
。
部屋の中にはベッドと怪しい筒、何かの音、空き缶が詰まったゴミ袋が散乱していた。
その部屋の中、PCの前で彼女はエナジードリンクを飲んでいた。
「ねぇ、桜木ィ 部屋に入る時はノックしろと言ったよねぇ」
「フランちゃん…今はそれどころじゃないんだ。零くんが怪我をしたみたいでさ」
「また怪我かい全く…とりあえずベッドに乗せておきな」
また…というのは零くんはよく怪我を負って帰ってくるからだ。
俺は零くんをベッドに寝かせようとする…重い…
筋肉質な身体は重くて、持ち上げられなかった。
その時だった俺の背後から不機嫌そうにブランくんが零くんを抱き抱えベッドの上にのせた。
「これでいいか?」
「あ、ありがとうブラン君」
「どういたしまして。んでフランさん、お届け物です。鮮度抜群のいつものブツです」
ブランくんは引きずってきた袋を指差した
「あらぁ、ありがとう これでしばらくパーツに困らないわね」
パーツ、フランちゃんは人間ではなく人造人間である。
ただ昨日までの俺みたいに本体は別にあり、今の身体は仮初である。
本人曰く、頭の一部以外、他の部分はバラバラに散り
行方がわからないらしい。
故に今の彼女の在り方はゾンビに近い。
人間の身体の寄せ集め、定期的に身体を変えないといけない存在。
生きるために人間の部品がいる倫理から外れた不安定な存在。
それらの部品を何処からか調達してくるのがブラン君である。(出どころは考えたくないけど)
それでも諦めず、本体を集めようとしているのが今の彼女だ。
「用は済んだし、俺は部屋に帰ります…零のこと頼みましたよフランさん 零に何かしたら承知しないからな」
ブランくんがフランちゃんのことを睨みつける
「はいはい、分かったから、早く休みなさい。
おやすみ、ブラン」
ブランくんは頷いて部屋を出ていった。
「さてと、俺も廊下の掃除をしなくちゃならないからね…じゃあ、あとはよろしくね。フランちゃん」
「あいよ、さっさと失せな」 彼女は気だるそうに手を振る。
俺はそれを見て部屋を出ていった。
そのあと俺は掃除道具と薬品を持って
廊下を掃除し始めた。
「あーっ!!面倒臭い…消毒もしなければならないのが辛い…なんで引きずって歩くんだ…中身が漏れているじゃないか…」俺はブツブツ言いながら床の消毒と清掃を行なっていった。
掃除は夜が開け始める頃までかかった。
掃除が終わった後、俺はブツブツと文句を言いながら片付け、手を念入りに洗い、朝飯の準備を始めた。
俺はまだ二人に対する文句をブツブツと唱えていた。
そこに奏くんが現れた。
挨拶はしていたけど声が暗かった。
俺は振り向いて挨拶を返す。
すると彼はポロポロと泣き始め、怖かったと呟いていた。
俺は慌てて駆け寄って声をかけた。
目の前の少年が急に泣き出したからだ。
少年はずっと泣いていた。
俺はそれを見てオロオロして、奏くんの頭を撫でることしか出来なかった
外では雨が降り始めていた。
しばらくして少年は落ち着いたのか泣き止んだ
「奏くん落ち着いたかい?」
「はい…桜木さん、すみません…お見苦しい姿をお見せしてしまって」
「俺は気にしないから大丈夫さ、ところで奏くん…
急に泣き出して一体何があったんだい?」
「実は…深夜喉が乾いて目が覚めて…」
それから彼は深夜にあった出来事を話し始めた
足音、荒い息遣い、唸り声…引きずる音…
「それが怖くて…恐ろしくて…ヘッドホンで耳を塞いで…」
奏くんがまた泣きそうになる
きっとそれはブランくん達に違いない。
まさかあの時奏くんが起きていたとは
「奏くん…怖かったね…ごめんねぇ」
「なんで桜木さんが謝るのですか?」
「多分その音はここの住民のものなんだ…俺がしっかり誘導していれば奏くんに怖い思いをさせずに済んだのに…」
「いえ…桜木さんは……(いや少しは悪いか…?)悪くないと思いますよ」
「そっかぁ…」俺はヘナヘナと座り込んでしまった。
少しだけ二人の異変に気づいてもっと早く誘導していれば…これは俺の責任だ。
「それは、悪いことをしてしまいましたね」
後ろから声がした。
腰まで届く長く白い髪を三つ編みにしており白い修道服を着ているが体つきは今にも弾けそうなくらい筋肉質であり、顔には大きな傷跡金色の瞳…ブランくんだ
「お、おはようございます。あなたは…」
「お初にお目にかかります、私はここの住民で名をブランシュと言います、気軽にブランとお呼びください」
深夜のような睨みつけるような目つきではなく、優しい態度、穏やかな目つきそして淑女のような柔らかい声色。 仕事モードだ。
だが彼は男だ。
女性の声を出しても
仕事服が修道服という変な服装の男という事実は変わらない。
僕は吹き出しそうになる
彼は笑顔でこちらを睨みつけた。
「はじめまして、天野奏です。ところで、悪いことをしてしまったとはどういうことでしょうか?」
赤くなった目元で奏くんはブランくんに尋ねた
「そうですね、昨日の夜中フラン様に頼まれた荷物を運んでおりましたが…疲れていたからか、道を間違えてしまったのです。まさか奏様や桜木様の部屋の方に向かってしまい、奏様を怯えさせてしまうとは…なんとお詫びをすればいいのか」
彼はわざとらしく、大袈裟に謝る
「いえ…詫びるなんてそんな……あの」
奏くんは少し慌てたあと考え込み口を開いた
「なんでしょうか…奏様」
「あの、ブランさん…引きずる音と赤い跡と唸り声はなんだったのですか…?」
「まずは唸り声からですが…あれは私と同じくここの住民の零という人の声ですね、私と一緒に荷物を運んでおりましたので、きっとその時の声でしょう。引きずる音と赤い跡は中身が重くて引きずっておりましたら、中身が少し出てしまったのです」
「中身ってまさか…」
「ご安心ください、奏様中身はベリー類です。」
「ベリー類…」困惑する奏くん
「フラン様の好物なんです」ブランくんが微笑む
いくらなんでも無理がある。
「ベリー…でもあの色は…」
「ベリー類です」ブランくんが力強く言う。
奏くんは腑に落ちなさそうな様子で首を傾げたあと
「わかりましたベリー類ですね」
不服そうに頷く。
「では誤解も解けましたし、私は失礼いたします。」
ブランくんはそのまま台所を出ていく。
俺と奏くんはお互の顔を見た。
「フランさんベリーが好きなんですね。」
「あー、うん?そ、そうだね」
「それにしても変わった人でしたね…あの人もフランさんや大家さんのようなお化けなんですか?」
「あ、あぁ…彼は一応人間さ」
「修道服を着て、顔に傷跡がありましたし、てっきりフランさんのご兄弟かと…」奏くんがクスリと笑った
「確かに名前も似ているしね」
「ふあ〜あ、安心したら眠くなってきました。僕も部屋に戻りますね。」
奏くんが大きなあくびをして立ち上がった。
「あぁ、怖がらせてごめんね。おやすみ奏くん」
台所を出る奏くんを見送りながら、俺は朝の支度に戻った。
外はまだ雨が降っていた。




