深夜の獣達
花が咲き続ける奇妙な桜、枯れず桜の下にある屋敷
幽玄荘
台所で夕飯を食べ、食器を洗い、片付け僕は部屋へと戻る途中だった。
今日の夕飯のおかずは野菜炒めだった。
肉体を得た桜木さんが料理をしたいと言うことでまずは簡単なものからということだった。
桜木さんは食事中「少し塩が多かったかも…」と呟いてはいたけど、僕は美味しい野菜炒めだと思って食べていた。
部屋に戻って、タブレット端末でリズムゲームを遊んでいる最中ガタガタという音がした。
出入り口の襖を見ると隙間から手が見える
ガチャガチャと鍵代わりの金具が揺れる音がした
僕は一旦ゲームを中断して出入り口の隙間を覗いた
ヒビが入った翁の面、夜空のような青みがかった黒髪、作務衣姿
「奏君!!夜分遅くごめんね!!」
桜木さんだ。
「こんばんは桜木さん。なんの用でしょうか?」
「一緒にお風呂に入らないかい!?」
「嫌です。」僕はキッパリと言う。
「なんで!?」桜木さんが驚く なんでとはこちらが言いたい。
「僕はもう15歳です。小さな子供ではありません。」
僕は襖の隙間を閉じるように襖に手をかける
すると桜木さんが指を突っ込んできた
「なんで閉めようとするんだい!?奏クゥン!!」
翁の麺がこちらを覗くホラーだ
「桜木さん…僕は貴方とお風呂には入りません。
それでこの話は終わりです。」
それでも桜木さんは動かず、相変わらず引き下がらず襖をガタガタ鳴らしていた。
大家さんや フランさんがあの態度になる理由が少しわかった気がした。
「桜木さん…なんで、僕と一緒にお風呂に入ろうとするんですか」
「寂しいからさ!!一人で初めて風呂に入るのが寂しいからさ!!誰かと一緒に入ろうと思って」
「それ…僕ではなく大家さんあたりでもいいのではないのでしょうか」
「巴は嫌だ、アイツすぐキレるし怒鳴るし怖いんだもん!!」
力強く桜木さんが訴える
「とにかく、一緒に入ろう 奏くん!!」
「嫌です」
「ね?」
「お断りいたします。」
「ね?」
「僕は一緒に入りたくないです。」
「ヤダヤダヤダァァァァァ!!一緒に入るんだぁぁぁぁ」 ダンダンという音がする 恐らく地団駄を踏んでいる。
「暴れても、嫌なものは嫌です。お断りします」
「一人で風呂に入るの嫌だァァァァぁぁぁぁ、誰かと入りたいィィィィィィ、でも巴はヤダァァァァァ」
「誰と風呂に入るのが嫌だって?」
桜木さんが暴れていると桜木さんの背後から声がする
大家さんこと巴さんだ。
「うるさいと思って来てみれば…」
大家さんは呆れた様子でため息をつく
「念の為、確認をするが一方的にコイツが、しつこく風呂に誘って来た で合っているな?」
「はい、その通りです」
僕は金具を外して少し襖を開けた
その先には首根っこをつかまれた情けない大人の姿があった。
「奏、何回も騒ぎを起こしてしまい申し訳ない。
あと、今日コイツを掘り返すの手伝ったんだろ、
疲れただろうし、風呂は先に入ってくれ」
大家さんは桜木さんを掴んだまま謝った。
「は、はい わかりました。」
「おい、桜木行くぞ!!そんなに一人で風呂に入るのが嫌なら奏ではなく、己と一緒に入るんだ」
「嫌だァァァァァァァァ一緒に入りたくないぃぃぃぃぃぃぃ」
情けない叫び声を上げる桜木さんを引きずりながら大家さんは去っていった。
僕はその姿を見て部屋の中へと戻りタオル類と着替えを持ってお風呂場へと向かっていった。
幽玄荘のお風呂は某映画のようなお風呂や木の風呂を想像していたけど、金属製の湯船にタイル張りの床と壁という、一般家庭より少し広い一般的な風呂場だった。
中には椅子が1つ、桶が二つ、片方にはいろんなサイズのアヒル人形が入っていた。
石鹸、シャンプー、コンディショナー、ボディソープが置いてあった。
ボトルには共用と書かれていた。
僕は身体を洗い湯船に浸かった。
風呂場の窓から見える空は曇っていた。
時々雲の隙間から星が見えた。
窓からは時々涼しい風が流れ込んでいた。
「本当に色々あったな…」
引越して、穴を掘って、気を失って、気がついたら
目の前で大の大人がすごい喧嘩を繰り広げて…この屋敷は普通の屋敷ではなくお化け屋敷で、桜木さんは駄々こねて暴れて…大家さんに連れて行かれて…情報量が多い。
僕はため息をついた。
本当に濃密な二日間…いや一日だったな…
そんなことを考えつつ湯船から出た
のぼせそうだ。
シャワーで頭から冷たい水を被り僕は風呂場から出た。
脱衣所でパジャマに着替えて、洗面台で歯を磨いて自室に戻り、布団を敷いて僕は眠りについた。
深夜、僕はふと目が覚めた。
(喉が渇いたな…)
僕は水を飲みむため台所へ向かおうとして襖に手をかける。
その時だった。
何かの気配と足音。
最初は桜木さんかと思ったけど違う。
他の住民の人だろうか?
足音の他にぴちゃん、ぴちゃんという音
生臭い匂い、鉄のような臭い。
ずるずると何かを引きずるような音。
棘が刺さるような気配…荒い息遣い。
怖い、襖の隙間から様子を伺おうとするけど
僕の手はそれを拒否していた。
開けたくない、見たくない
廊下からグルル…というまるで獣のような鳴き声がする。
その後ろをついていくかのようにヒタヒタという足音と水滴が落ちるような音、引きずる音……近づくと刺されそうな気配
開けたい…開けたいけど開けたら襲われる
僕は布団に潜って息を殺した。
怖い…暗い…怖い…襲われる…やられる…
喉の渇きなど忘れて僕は布団の中で息を殺し震える。
やがて、足音と気配は過ぎ去り僕は恐る恐る布団から出て、襖を開け、スマホのライトをつけて廊下へと出た。
廊下には、何かを引きずったかのように赤い跡が残っていた。
僕は部屋へと引き返して、布団に潜った。
この後僕は一睡もできず、気を紛らわせようと動画サイトで音楽や動画をヘッドホンで視聴しているうち朝を迎えていた。
チュンチュンという鳥の鳴き声、車や新聞配達のバイクの音がどこからともなく聞こえてきた。
朝5時 僕は恐る恐るまた襖を開けて廊下を見た。
廊下は何事もなかったかのように綺麗になっていた。
昨日のは夢だったのだろうか?
いや、この胸の高鳴りとスマホのバッテリーの減り具合がこれは夢ではないと告げていた。
僕は怯えながら台所へと向かっていった。
台所には不機嫌でご飯の準備をしている桜木さんがいた。何かぶつぶつと聞き取れないほどの小声で言っていた。
「お…おはようございます。桜木さん」
「おはよう、奏くん…奏君!?なんで泣いてるの!?」
桜木さんが振り返る。今日は猫のお面をかぶっていた
「え…泣いて…涙…なんで…桜木さん………怖かった…」
桜木さんの顔を見て安心したのか僕はその場に座り込んで泣いてしまった。
「なになになに!?どうしたんだい奏君、何があったの!?え?俺なんかした!?」
心配そうに駆け寄る桜木さん。
外の方では天気予報通り、雨が降り出していた。




