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ここに六つの聖女を率い、世界を正そう。女王。  作者: 夜乃 凛


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8/11

急報と確信

大聖堂に、乾いた足音が響き渡った。

入ってきたのはマリアンヌの部下。額には大量の汗が滲んでおり、呼吸は完全に乱れている。

会議室の重苦しい空気が、一瞬で引き締まった。


「女王陛下!マリアンヌ様!アクドラの最南端、通称『灼熱の荒野』にて、赤い牙の残党が大規模な採掘を開始した模様です!その数、およそ五百!」


「採掘……?あんな何もない死地で、一体何を掘り起こそうというのですか」


マリアンヌが紫水晶を胸に抱きながら、怪訝そうに呟いた。

答えを出したのはシュクレだった。彼の頭脳は、常に最悪のシミュレーションを叩き出す。


「バルドル皇帝と繋がったと見るのが自然でしょう。先日の敗北を経て、皇帝が手ぶらで引き下がるとは思えない。聖女の能力に対抗するための『何か』が、あの灼熱の荒野に眠っている。そう考えるのがロジックの落としどころです」


「行かせるわけにはいかないね」


ナイムが剣の柄をトントンと叩きながら言った。笑顔だが、目の奥は笑っていない。


「もしも聖女の力を無効化するような遺物だったら、私たちが一瞬でただの人形になっちゃうからね。芽が大きくなる前に、完全に摘み取らないと」


「私が往く」


端的に言ったのはホウオウだった。

彼女は既に最後の一口の乾パンを飲み込み、立ち上がっていた。赤い瞳に迷いは無い。


「フランシスカの作った平和を邪魔する者は、私がすべて切り裂く。灼熱の荒野だろうが、どこだろうが関係ない」


「ホウオウ、一人では危険です。私も共に向かいます」


フランシスカが立ち上がった。白銀の冠が揺れる。


「私の聖魔の石があれば、万が一の負傷にも対応出来ます。シュクレ、内政の維持と他国への警戒を。ディーク、ミリアム、イグドラシルはここで本隊の動きに備えてください」


「フン、勝手にするがいい。だが、死に急ぐなよ、フランシスカ」


ディークが腕を組みながら言った。不器用な配慮。


こうして、フランシスカとホウオウ、そしてマリアンヌの索敵部隊は、アクドラ最南端の死地へと急行することとなった。

選択肢は一つ。敵の目的を、根底から粉砕すること。


第五聖地アクドラの南、灼熱の荒野。

そこは、無限に広がる赤茶けた砂の世界だった。陽炎が揺らぎ、立っているだけで体力が酸化していくような、地獄の土地。

その中央で、赤い牙の残党たちが、古びた遺跡の入り口を激しく爆破し、掘り進めていた。


「おい、急げ!皇帝のダンナが待ってんだよ!『神殺しの魔笛』さえ手に入れば、あの聖女どもはただの肉塊だ!」


残党のリーダー格が叫ぶ。

だが、その言葉が砂風に消えるよりも早く、赤い閃光が荒野を横切った。


「動くな」


残党たちの前に立ち塞がったのは、ホウオウ。

激しい熱風の中、彼女の黒い装束が大きくはためく。汗一つかいていない。尋常ではないタフさ。

遅れて、フランシスカとマリアンヌの部隊も到着した。


「赤い牙の残党のみなさん。そこまでにしてください。これ以上の暴挙は、私たちが許しません」


フランシスカの声。凛々しく、そして冷徹。


「けっ、女王陛下のお出ましお出ましだ!だが遅かったなぁ!鍵は既に扉を開けた。遺物は俺たちの手にある!」


遺跡の奥から、ゲイルが一本の不気味な黒い縦笛を掲げて現れた。

その笛から放たれる禍々しい気配。

マリアンヌの紫水晶が、パキリと小さな音を立てて微かにひび割れた。遠距離通信の魔力が、内側から激しく乱されている。


「これは……!魔力が、吸い取られていくようです……!」


マリアンヌが苦悶の表情を浮かべた。

ゲイルが不敵に笑い、魔笛を口元へと運ぶ。


「死ね、聖女ども!」


一吹き。

不快な高音が、灼熱の荒野全体に響き渡った。

直後、フランシスカの『聖魔の石』の輝きが失われ、ただの灰色の石ころへと変わっていく。魔力の完全な無効化。


「能力が……効かない……?」


驚愕するフランシスカ。

残党五百が一斉に武器を構え、勝ち誇ったように襲いかかってくる。

勝率、ゼロ%。聖女の力が消えた今、ただの人間では太刀打ち出来るわけが無かった。


だが、彼らは致命的な計算違いをしていた。

ここにいる黒髪の少女は、最初から聖女ではない。

ただの、圧倒的な強者である。


「頼ること魔力に非ず、研ぎ澄ますこと己の肉体のごとし」


ホウオウが呟いた。

四天王の指輪のブーストは消えた。しかし、彼女の赤い瞳の輝きは、むしろ増していた。

極限状態での、超覚醒。


消えた。

もとい、残像すら残さない本物の神速。

ホウオウが名刀を振り抜いた瞬間、灼熱の熱風そのものが、巨大な真空の刃と化して荒野を吹き荒れた。

物理的な、圧倒的剣技。


轟音。

襲いかかってきた残党の第一波、およそ百人が、一瞬にしてまとめて虚空へと薙ぎ払われた。


「な……何だと!?魔笛が効いているはずだぞ!何故動ける!」


ゲイルが顔を引きつらせて叫ぶ。


「私はフランシスカの剣。お前たちが何を奪おうと、私の刃は鈍らない」


ホウオウの静かな怒り。

死闘それだけ。

魔力を失った死地にて、最強の戦士の本当の無双劇が、今、幕を開けた。

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