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ここに六つの聖女を率い、世界を正そう。女王。  作者: 夜乃 凛


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3/11

三存在の防波堤

一千対三。

数的な不利は、誰の目から見ても明らかだった。しかし、戦場に漂う空気は、バルドル帝国側が圧倒されているかのように重かった。

理由は単純である。そこにいる三存在が、規格外の強者だったからだ。


「ホウオウちゃん、来るの早いね。相変わらず足が速いことで」


ナイムが剣を構え直しながら言った。

ホウオウは返事をしない。赤い瞳が、迫り来る一千の兵を冷徹に捉えている。


「切り裂くこと雷のごとく、防ぎきること鉄壁のごとし。ナイム、ミリアム、下がっていろ。ここは私が突っ切る」


四天王の指輪が光り、ホウオウの全身から凄まじい気が立ち上る。

突撃。

彼女はノータイムで地を蹴った。

バルドル兵の視界から、ホウオウの姿が一瞬で消失する。

次の瞬間、最前線の軽装兵たちの悲鳴が響き渡った。ホウオウの一閃。

刃が触れたわけではない。凄まじい剣圧の衝撃波が、十数人の兵をまとめて吹き飛ばしたのだ。


「化け物め!怯むな、囲んで圧殺せよ!」


落馬したゲオルグ将軍が、泥を吐きながら叫ぶ。

しかし、囲むことなど出来ようはずもなかった。ホウオウの速度が、戦術的な包囲網の構築を完全に無効化していたのである。


「おやおや、あの子ばかりにいい格好をさせるわけにはいきませんね」


ミリアムが美しい紫の髪をはためかせ、再び祈りを捧げた。

大魔法使いの真骨頂。

「アイス・ランス」。

虚空から無数の巨大な氷柱が生成され、バルドル騎馬兵に向けて容赦なく降り注いだ。直撃すれば即死。馬ごと氷漬けになる兵士たちが続出する。ミリアムの魔術は、一瞬で戦場の一部を地獄へと変えた。


防戦一方に見えるバルドル帝国軍。

だが、さすがは精鋭だった。ゲオルグの指揮のもと、重装歩兵が大きな盾を並べ、動く壁を構築し始める。ホウオウの突撃を止めるための、泥臭くも確実な防衛策。

盾の壁。ホウオウの剣がぶつかり、激しい火花が散る。

流石に、四天王の指輪のブーストがあっても、一千の質量を一人で押し潰すのは時間がかかる。


「ちょっと手伝ってあげるよ」


ニコニコ顔のナイムが、盾の壁の真横に現れた。

彼女の能力は、触れたことのある相手を殺す力。だが、物理的な剣術だけでも、アクドラ最強と謳われた剣豪である。

横一閃。

重装歩兵の盾が、まるで紙切れのように真っ二つに切り裂かれた。構築された壁が一瞬で崩壊する。隙だらけ。


「雑魚が」


ホウオウがその隙に飛び込み、さらに戦果を拡大させていった。

三存在の防波堤。

一千の先遣隊は、確実にその数を減らしつつあった。


激しい戦いが続く中、戦場の東方から、数台の馬車が猛スピードで接近してきた。

到着。

馬車から降り立ってきたのは、女王フランシスカ。そして参謀のシュクレ。

それだけではない。

別の馬車からは、青いドレスの第五聖女マリアンヌ、緑の服をまとった第四聖女ディーク、そして緑のロングヘアの第三聖女イグドラシルとオルエン。

ここに、六人の聖女が再び一堂に会した。

崩れる均衡。そして、再集結。


「マリアンヌ、状況は?」


フランシスカが馬上から戦場を見据えて尋ねた。

マリアンヌは紫水晶を握り締め、既にテレパスで戦場全体の気配を察知していた。


「ホウオウちゃんたちが先遣隊を圧倒しています!ですが、敵の将軍がしぶといです。それに……本隊の気配が、ここから数キロ先まで迫っています!」


「本隊四千、ですか。まずは目の前の先遣隊を完全に無力化し、拠点を構築しなければなりませんね」


フランシスカは凛とした声で言った。

彼女は、戦うことは嫌いだった。しかし、民を守るためなら、聖女としての資質をすべて投げ打つ覚悟があった。


「ディーク、イグドラシル、手を貸してください」


「フン、言われずとも。私の四天王の指輪は、既にホウオウたちに力を与えている。イルゴール、ヴェルゼ、前線へ向かえ。ホウオウの補佐をせよ」


ディークが無表情のまま指示を出した。イルゴールとヴェルゼが、即座に抜刀して戦場へ飛び込んでいく。

イグドラシルも、美しい水晶球を取り出した。


「オルエン、貴方も行きなさい。戦況の予測は私がします」


「へいへい、お安い御用っすよ」


オルエンも口笛を吹きながら、ヴェルゼたちの後を追った。

戦力の大幅な増強。

これには、バルドル帝国のゲオルグ将軍も、鉄の仮面の奥で絶望の色を隠せなかった。

目の前の三人だけでも化け物染みているのに、さらに強力な手練れが次々と参戦してきたのだ。


「おのれ……これほどまでの戦力が、何故追放されていたのだ……!国王め、何を考えておったのだ!」


ゲオルグの恨み節。しかし、クズ国王は既にこの世にいない。


「総員、退却!一度本隊まで引き返す!陣形を立て直せ!」


ゲオルグが決断した。撤退の指示。

生き残った数百人のバルドル兵が、蜘蛛の子を散らすように西へと逃げ始める。


「深追いは禁物です!」


フランシスカが大声で制止した。

ホウオウは剣を引き戻し、不満そうにフランシスカの元へ戻ってきた。


「倒しきれたはずだぞ、フランシスカ」


「いいのです、ホウオウ。私たちの目的は、無益な殺生ではありません。バルドル皇帝に、私たちの強さと、戦う意志が無いことを同時に示すこと。そのためには、この撤退を見逃すのが最善です」


「……分かった」


ホウオウはこくこくと頷き、カバンから干し肉を取り出してもしゃもしゃと食べ始めた。体力の回復。やはりタフな子である。


ひとまずの勝利。

しかし、聖女たちの表情に緩みは無かった。

地平線の向こう、砂煙のさらに奥から、本隊四千の、本当の進軍の足音が近づいてきていたからである。

本当の死闘は、これから始まる。

無事に聖女たちが再集結しました!

次回、バルドル本隊との全面対決、そして不穏な影が動きます。

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