贈り物
ひんやりと冷たい風がそよぐものの、ポカポカと照す太陽の恵みを食物たちは全身で受けとる。そして、花々も同様に養分を蓄え美しく咲き誇る。
もとの世界では、秋には収穫も多く実りの秋とも呼ばれはするものの冬の寒さのもとでは実りも夏に比べ減るものだった。土地柄ともいうのかもしれないが、花にしても寒さに弱いものが圧倒的に多かった。
それが、こちらでは手がかじかむような寒さであっても溌剌と咲き誇る花々や物珍しい植物が元気に輝いている。
『以前はここで薬草研究や食菜研究のための栽培をしていたのだが、規模を拡げて新たに新設した園へと使用人、研究者ともに移り、空き地となったのだが……よければルナの庭にどうかと思ったのだ』
ここはアレクが所有する庭園のひとつ、幾つかあるプライベートスペースのひとつである。皇族として女性王侯貴族の義務とも言える茶会と同様に男性王侯貴族には酒会というものがあり、皇族主催としてメインの庭園を使用するものとは別に、私的に開く小規模の会となると個人所有の庭園を使用するらしく皇族は皆幾つか所有しているという。
また、それとは別に個人的に活用するための庭園も幾つか所有してあるらしく、まさしく、そのひとつがこの場であった。
「素敵です! とても嬉しいです! でも、本当に良いのですか? 立派な庭園ですし、まだ植物たちも残ってますが……」
『問題ないよ。全て移動してあるし、種子も苗も必要数保管してあるらしいから好きに弄って構わないし、処分して新たに植え替えても問題ない。ルナの庭園だから、好きにして構わない。それこそ田畑に変えても構わない』
自分のなかでボルテージが上がり目が輝いているのがわかる。久しぶりの土いじり、誰にも迷惑をかけない自分の庭、好きにできる畑、まったく知らない新たに出会う植物たち! 興奮しないわけがない! 嬉しくない訳がない!
「アレク……、ありがとう! ありがとうございます! 大切にします!」
いつまでアレクをはじめ城の方々と過ごせるか、ここでお世話になれるか分からないけれど何もしないでいるより、自分の出来ることをしたほうが断然いいに決まってる。植物についての研究とかまでは大袈裟だけれど、学びの場として大いに活用しよう。
学びと言えば、もとの世界に戻れないなら覚えることも山積みになるよね。会話は不思議と大した問題はない。問題と言えば……文字の読み書き。いまは助けてもらえるとしても、この国で、この世界で生きていくとなると覚えることは必須となる。
こんなときは、幼児教育の本を活用するのがセオリーかな?
となれば……図書館……?
『どうした? 難しい顔をしているね?』
「……あの、アレク……」
こんなに日々よくしてもらっていて、更に要求なんて図々しいと思われないだろうか。アレクは私には忙しさや疲れの表情や素振りはみせないけれど、本当は無理してでも寂しくないように夕食を一緒にとってくれたり、別れたあとに仕事をしている事も知っている。
『ん? 何でも相談してほしいと話しただろう?』
嫌な顔ひとつせず一見クールに見える瞳を柔らかくして笑いかけてくれる。この人はモテる人だろうな。たとえ、あらゆる国の上にたつ帝国の次期皇帝という輝かしいオプションが無くとも、その容姿と空気感は人を引き付けるものだろう。欠点なんてあるのだろうか……。
「はい……、あの、出来たらで良いのですが言葉や一般常識の勉強ができたらと……本を貸して戴けませんでしょうか……」
『あぁ、会話が成り立つからすっかり忘れていた! そうか、読み書きができないのは何かと不便もあるか……。
……そうだな、本の手配をしておこう。それと、宮廷司書庫も出入りできるよう手配しておくとしよう。あぁ、何なら講師をつけよう』
「え?」
『うん。それがいいだろう。神々による神力教育も始まると聞いているし、エリーを専属侍女頭としてスケジュール管理させるか。
いや、その前に神々との対話が必要となるから神殿とも連絡を……アゲットに仲介させるか……』
「あ……あの……」
『ああ、そうしよう! それがいい!』
「は、はあ……」
『なに、心配いらない。5日ほど時間をもらえるかな? 適任の講師を探しておくから、のんびりまってておくれ。神々との勉強も恐らくそのくらいから始まるだろう。それまでは自由に自分の時間を満喫しておいで。
もちろん、安全には最善の注意も備えもしてあるが、ちいさな体、まだルナにとって何が危険かが明確でないから、ひとり行動は控えるようにね。私やヴァルトやエリー、フィー、近衛のいつも居るアリビィンやテルの誰でも構わないから伴ってくれるかい?』
「なんだか申し訳ありません、お忙しいのに次から次へと……。
だけど、助かります。ちゃんと守ります!」
そうして、アレクは執務があるからとヴァルトさんや騎士さんたちと去っていき、私は改めてルナの庭園を眺める。
ワクワクドキドキと子どもが動物園に来たときのような状態で、ひとまず庭園を散策して植物を観察する。明日は図鑑を用意して来ようと心に決めて日がくれてエリーさんに怒られるまで続けたのだった。
いやぁ、久々の更新なのに内容薄い!薄すぎるぅ!




