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神々の愛し子  作者: chima
歩み始める一歩
21/32

呼び名と決意


ふかふかの布団。お姫様の絵本でみたような天蓋。


そうか、城に戻って来たんだった。


『ルナ起きたか?』


天蓋を開けて美形さんが入ってくる。片手にはカットフルーツとポット。


『ん? まだ眠たいか?』


ぼーっと美形さんをみつめる。



この人は始めこそ不審者として私に対して厳しい目を向けていたけれど、神々の話を聞いても、私の正体が判っても態度が変わらない。変わらず優しく温かい人。私をいくつの子どもだと思っているのかは分からないけれど、だけど、それが何だか安心した。



『どうした? まあ、自分の人生すべてひっくり返るような事態だものな、頭で割りきったところで心の奥にある真相心理までは操れぬ。心が疲れたならば私に寄りかかり休めば良い。心の不安を秘めているのは辛かろう、私へと溢せるならば溢すが良い』



優しく頭を撫でてくれる手は私よりひとまわり大きな手。


女性のような美しい容姿を持っていても男性なのだ。包み込むような器の大きさ、こんな人は日本ではお目にかかれなかっただろう。



「美形さん……、ごめんなさい。もう大丈夫だと思っていたんですけど……その、自分が神だなんて実感も人でなくなったなんて実感もないので……」


『常識であった自らの立場や場所だけでなく存在そのものが引っくり返ったのだから無理もない。


だが……ルナ自身は変わらないだろう? 振り返り悲しみ嘆くのは仕様もない事、しかし背を向けて解決するものでもないものは向き合っていくしかない』



「わかってはいるんです」



うじうじグチグチしているのは分かっている。自分が一番嫌いなこと、ばっさり気持ちを切りかえる事ができるところが自分の長所だったはず。悩んでも仕方無いのに。



『よしっ! 整理がつかないなら仕方ない。無理に片付くことでもない! ひとまず茶でも飲みゆっくり休むと良い』



「はい。あの……いつもありがとうございます。不審者と思われても仕方がなかったのに、こんなにも良くしていただいて。どのように御礼したら良いのか……」



『ふっ、お礼というなら“美形さん”というのをそろそろ変えてもらえるかな? “アレク”と呼んではくれまいか?』



ふっと頬笑む普段切れ長の目が少し垂れ下がり、元より中性的な印象をさらに女性的にも魅せる美しさ。長い髪が傾げた動作により一房流れ揺れる様はまるで絵画のよう。



「……アレク様……?」


『ははっ、ルナは神なのだから様などつける必要もないぞ?』


「え、でででも!」


『駄目か?』


何だその色気!

さりげなくベッドに腰掛けその膝にのせられると、距離がぐっと縮まり香りと体温が伝わる。ちらと顔を見上げれば極上の美女とも美青年とも見える顔が視界にはいり胸元に顔を埋める。真っ赤に染まる頬なんてみせられない。



「あ……あああれれっく!」


『もういちど』


「あーれっく!」


『もういちど』


「……アレク……」


『はい、よくできました。果実もあるから食べなさい』



ご満悦な様子で果実を差し出してくる。気付くとさっきまでの鬱蒼とした気分も落ち着き、肩の力が抜けたように思える。前にもあった。この人は凄い。人が慕うのもよくわかる。



「ア……アレク……」


『ん? どうした?』


「あの、アレクは……私が神だと言われてもあまり動じていなかった……というか、態度も変わらずにいてくれますね」



『嫌だったか? 本来ならば神とは至高の身分。人の王であってもけして飛び越せる相手ではない。崇拝してなんぼの存在だからルナを知った者は傅くかもしれぬな』



「そうですか……何だか神官の方々の様子が変わった気がしたので、もしかしたらと……でも、アレクやヴァルトさんとエリーさん達、それにアレクさんの御付きの方々も態度を変えずに接してくださったのがとても嬉しいです!


神と進言されたものの実感はおろか能力だって何もわからない私に敬う必要もありません。どうか、そのままでお願いします。」



ゆっくりと目をつぶり、嫌だ違うと駄々をこねても解決なんてしないんだ。すべて夢で朝起きたら学校へなんて事もない。けれど、立派な大人でもない私には全てをまるっと受け止めるのには時間が必要かもしれない。



せめて、せめて目だけは開けておこう。食わず嫌いのような、踏み出す事もできずに蹲るほど幼くはないのだから。手を差しのべてくれる人に気づけるように、私自身を視てくれるというのだから努力しよう。まずは、目の前の人を信じることから始めよう。



『ふっ、もちろんだ。ここの神々は世話好きだからか、実は私も祝福を授かり持つ者なのだ。幼い頃より神とは親しいからな、相談事あらば私に話してくれると嬉しい』



「はい。ありがとうございます」



その後、お茶のおかわりを慣れない手付きで煎れてくれたのだが、吃驚するほど不味くて二人して寝具にひっくり返し、様子を伺いにきたエリーさんの笑顔が般若に見える錯覚と無言の圧力を受け、ばつが悪そうに視線をそらすアレクは子どものようで少し面白かった。




…………


『ルナは落ち着いたみたいね』


『あぁ、良かった。こちらを拒絶している訳ではなかったようだ……。


神修行はアレクにも話しを通すほうが良いな』


『うふふっ、小坊主も成長したわね。あの子のお陰でルナの心も影に染まらなかったでしょう。さすが、太陽王キイルの眷族だわ! 見事にルナの心を照らしてみせたわね』


『グレス神……またサボりか……ホルムが泣くぞ』


『大丈夫よ! 戻ったらしっかり働くわよ! 息抜きくらい許されるのではなくて?』


『息抜き…………』


『なにか?』


『いや……』


『ははは、諦めろバラッサ! 今日も冥界(パラインフェロス)の手伝いを覚悟するのが賢明だ! はははは』


『……またかよ……』


準王 海神バラッサは地下に位置する冥界と海底を通じ、ご近所さんだからと無理矢理な理由によりグレスの部下神に泣きつかれ度々ヘルプに駆り出される。武神としても名高い彼は豪快さと兄貴肌を持ち合わせており、冥界でも活躍し慕われるのだった。


ちなみに、押し付けられた仕事への鬱憤は素行不良、悪どい死者への制裁で晴らしているとか。


今日も恐らく冥界にて身体を鍛えられるであろう。

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