3 スローペースの罠
戦況への対応
「ねえ、二人とも……少しペースを上げるわよ、いい?」
「こっちはOKよ!」
春風は指でOKを見せた。
「大丈夫だけど」
「じゃあ、着いてきて!」
ふたりはスルリと前に出た紗矢香に釣られように、徐々にピッチを上げてゆく。
「でも、どうして急にペースを上げるの?」
「うふっ、早乙女くんならヒョヒョイって状況を把握しているのかと思っていたけど、意外ね」
常盤さん、それ、どう言う意味だよ?
「スローペースってこと……荒れるパドル区間をね警戒、して、ね……」
「どうした、息切れか?」
「……そうよ、悪かったわね」
「んな、怒んなよ」
ふたりとも、じゃれ合いが面白いけど、仲間割れはダメよ。
「それは、パドル区間を乗り切るための対策を立てた選手たちが作り上げた……海産物ってことよ」
「ええっ、海産物? それ言うなら副産物では?」
紗矢香が割り込む。
「あながち外れてないわよ」
「でしょ」
あーあ、調子のいいこと。
でも地域ガラとはいえ海産物はないでしょ?
副産物だよ。
でも副産物って……なんだ?
「ねぇ、あながちって?」
結奈が紗矢香に聞き返す。
そうでないでしょ、常盤さん。
「常盤さんの言う海産物の話を先に聞かせてよ」
春風が会話に割って入る。
「海産物って何よ」
またまた、ご冗談を。
「あたしがいいたかったのは……」
結奈は仕方なさそうに語る。
「サーフィン選手たちは、リタイアしそうな選手の中を、かい潜るのを避けるため……リタイアしそうな選手たちは、サーフィン選手の攻略を、後追いによりあやかるため……」
「息切れ?」
うるさい、うるさい、うるさーい!
「……多くの選手が、ペースを落とした……ってことよ。それが、このスローペース、という副産物よ」
「なんだ、そんなことか。副産物って言うからさ、もっと別のこと想像しちゃったよ」
うふふ、稀に見る生意気なふっかけね、春風。
「スローペースによって生まれる副産物というのは、前残り、つまり、逃げ切りがし易くなるってことなんだよね?」
春風は副産物というものを「レースの勝負どころ」という点から捉えて聞き返した。
えっ、前残り……だからなの?
結奈はスローペースが生み出す副産物に気づく。
「紗矢香さん「あながち」の真意はそこの部分で良かったかな?」
「その通りよ、春風くん」
あー、なんか、あたし、いいように使われて、ボロ雑巾のように捨てられた、嫌な感じじゃない、もう!
「でも、体力を使い切ってしまったら、3キロのパドリングは、まず渡りきれない訳だし、その先にもきっと影響が出てしまうよ」
「早乙女くん、それどう言うこと?」
「自転車のことだよ」
「自転車は足で漕ぐのよ、どう影響があると言うの?」
ほんと、あたし、いつからボケ役になったのかしら?
「自転車はスピードが上がるほど、体重移動で進行方向をコントロールすることになるんだけど、その時、腕は体を支えているから、腕が疲労してしまうと、ハンドルがまず握れなくなるし、腕がふるって仕舞えば体重はかけられなくなってしまうんだよ」
しばらく黙って前を走っていた紗矢香は、ふたりにこう話す。
「とにかく、この超スローペースでは、パドル区間でゴタゴタした状態に巻き込まれる恐れありよ。だからね、ここはペースを上げて行きたいの」
そうか、
このチームは皆サーフィン経験者だから、
パドル区間にマイナス要素はない、
と言うことだね。
「了解だよ、紗矢香さん!」
「あたしもだよ!」
再び実況席
「しかし、谷山さん、このスローペース、なんなんでしょうかね?」
少し間をおいて谷山が答える。
「いやぁ、おそらくですが、各選手の戦略が一致し過ぎた結果、このような超スローペースができたのではないかと思いますが、どうでしょうか?」
何か腑に落ちたような顔つきの富士山。
「なるほど、谷山さんのお考え、よくわかりました」
「そうですか、わかりましたか。では、私が解説いたしましょう」
谷山が咳払いをした後、このスローペースの謎を解き明かす。
「すべてはパドル区間を攻略するための布石であります」
「布石ですか?」
「そう、パドリング経験値の高い選手は、体力温存とパドル区間の混雑を避けようとランニング区間のペースをわざわざ落としたんです」
「わざわざ、ですね」
「はい、そしてそれ以外の選手の多くが、パドリング経験値の高い選手の攻略方法を手に入れようと企んだ」
「企み、ですか?」
「本来、ランニングでペースを作る役割の選手たちが、故意にペースを下げたことで、超スローペースに陥ったと言うことでしょう」
カメラがスローペースの集団の中から、抜け出す選手たちを捉えた。
「モニターを見て下さい」
「おっと、チームナンバー47の神楽、早乙女、常盤の3選手が、集団を縫うように抜けて行きます!」
この作品はレースに特化した作品として、一話一話のボリュームを上げて20話完結を目指しています。
まだまだ続きますので、お楽しみにね。




