将来の夢
思わず動揺し、身体が少し蓮ちゃんに当たってしまった。それに反応し、眠りかけていた蓮ちゃんが瞳をうっすら開けてしまう。それに加え、チョコが甘えて蓮ちゃんの頬を舐め始めた。
「チョコ〜待ってよ〜!」
チョコが布団の中に潜るので、それを追いかけて蓮ちゃんも潜っていく。
「ふふっ、おにいちゃんも、もぐってー!」
「わんっ!」
電気を落としたベッドの上では、すっかり目が冴えてしまった蓮ちゃんが布団に潜ったり飛び出したりしてチョコとじゃれ合い、キャッキャと楽しそうな笑い声を上げていた。すし詰めのベッドはドタバタと賑やかで、まるで小さな遊園地のようになっている。
そんな騒がしい光景を眺めながら、僕はふっと――奇妙な、だけど強烈な温かさに包まれていた。
「……こういうのって、いいな。僕、夢だったんだ。将来、奥さんと子供とペットで並んで寝るっていう……」
頭に浮かんだのは、昔、思い描いた未来像だった。
もし世界がこんな風に狂っていなくて、僕が普通の人生を送っていたら。結婚して、可愛い子どもが生まれて、家で犬を飼って……家族みんなでこんな風に他愛のない時間を過ごすんだろうか。
温かな家庭への憧れと、今目の前にある日常への愛おしさが胸を満たす。
……だが、次の瞬間。
(って、待てよ!?)
ハッと正気に返った。
今のシチュエーションを客観的に見直してみる。隣にはアイリス、間には子どもとペット、僕は今「家族の温もり」をしみじみと噛り締めてしまった。
「いやっ……!! そのっ!! アイリスに求婚しているわけじゃ……っ!!」
顔が一気に沸騰したように熱くなる。
「い、いや、今のはその…… 独り言というか、単なる一般的な幸福論のシミュレーションというか……!?」
暗闇の中で、僕は顔が火照っているのを感じながら、言い訳しながら慌てて頭をぶんぶんと横に振った。こんなことで引かれたら、嫌われちゃったらどうしようと、心臓がバクバクと騒がしい。
そんな僕の慌てふためく様子を、ベッドの壁側に横たわったアイリスは静かに見つめていた。
「……ふふっ」
アイリスは小さく、しかし確かに、柔らかく微笑んだ。いつもの機械的な正確さの籠もらない笑みではなく、どこか温かくて、けれど切なさを帯びた微笑みだった。
アイリスの身体は機械のロボットではない。人間の生身の肉体に、最先端のAIチップと生体脳を移植して作られている。だから、理論上は子どもを産むことも、人間の女性と同じように体温を感じることも可能――そんな彼女だからこそ、その微笑みには実感を伴う重みがあった。
「……叶うといいですね」
アイリスがポツリと呟く。その声に釣られて、僕は慌てるのをやめ、彼女の顔をそっと見た。
――その時。
アイリスの瞳の奥に、ふっと寂しそうな色がよぎった気がした。
(え……?)
胸のざわめきに疑問を抱く間もなく、蓮ちゃんが「おにいちゃん、ねむくなってきたぁ……」と僕の胸元にコテンと小さな頭を預け、チョコもその足元で丸くなって、ようやく穏やかな静寂が訪れる。
けれど、アイリスが見せたあの瞬間の寂しげな瞳の理由は――この時の僕には、まだ分からないままだった。




