衝撃の真実
オートロックの重厚な電子音が鳴り、家のドアを開けた瞬間――
「わんっ!!」
待ち構えていたように、勢いよく飛び出してきたチョコに抱きつかれた。
「わあ! チョコっ!?」
不意を突かれてバランスを崩し、盛大に倒されそうになる僕。
すると、僕の後ろからひょっこり顔を出したれんや君が、パッと大きな目を輝かせた。
「わあ……! ワンちゃんだ!!」
チョコは人見知りするどころか、れんや君を見るなり千切れんばかりに尻尾を激しく振り、「わんわん!」と大喜びで擦り寄っていく。小さな体でチョコを抱きしめるれんや君の顔に、今日一番の笑顔が弾けた。
「ふふ、仲良くなれそうですね。……では、ご飯を作りましょうか。れんや様にも食べやすいものにしましょう」
エプロンを取り出しながら、アイリスが手際よくキッチンへと向かう。
「ワンちゃん、お名前なんていうの?」
「チョコだよ。チョコ、れんや君に挨拶は?」
チョコと夢中で遊び始めるれんや君の姿にほっと胸を撫で下ろしながらも、僕の頭の片隅には焦りが残っていた。
(これからどうしよう……。母さんや結月から、あのメモを見て連絡があればいいんだけど……)
しばらくすると、香ばしい肉の焼ける匂いと甘いスパイスの香りが部屋中に広がった。
アイリスが作ってくれたのは、子供が大好きな特製ハンバーグとカレーだ。手際の良さもさることながら、栄養バランスまで完璧に計算されているらしい。チョコも足元でおねだりをしながら、三人と一匹で賑やかに食卓を囲んだ。
ふと、夢中でカレーを頬張るれんや君を見ていて気づいた。
そういえば、この子はAIチップが入っていない。それに、この時代の大人がよく着ている無機質なワンピース風の服ではなく、どこか懐かしい木綿の半袖シャツにズボンというスタイルだ。
食事が終わり、満足そうにお腹をさすりながら再びチョコとゴロゴロ戯れるれんや君を見つめていて、僕は「ハッ」と息を呑んだ。
(あれ……? 普通はこのあと、お風呂とか……入れないとダメだよな……?)
この時代の人々は、特殊なナノクレンジングや服の自動洗浄機能があるから「お風呂に入らなくても清潔が保てる」とアイリスから聞いていた。だけど、この子の服装や、AIチップを入れていない生活環境から考えると……もしかして、20年前の僕の時代と同じ生活スタイルなんじゃないだろうか?
「れんや君、お風呂とか……いつも入ってる?」
「うんっ!! はいる!!」
元気に手を挙げるれんや君。
「だよね! よし、じゃあ僕と一緒に入ろうか!」
「うんっ!!」
「あ、みなと様! お風呂は私がお手伝いいたします」
準備を始めようとした僕の前に、アイリスがスッと割り込んできた。
「え? いいよいいよ! それくらい僕でもなんとかできるって」
「ですが――れんや様は女の子ですので」
「……え?」
思わずピタリと動きを止めてしまう。
「ええ……!? お……女の子なの……!?」
思わず大声を上げてれんや君とアイリスを二度見する僕。
「だって、れんやって男の子っぽい名前だし、髪型だってショートカットだし、服だってズボン履いてるし……!」
そこまで捲し立てておいて、自分でもハッとした。
(……待てよ。髪が短くてズボンを履いてる女の子なんて、僕のいた時代だって普通にいたじゃないか……!)
一人で頭を抱えて混乱する僕に、アイリスはいつもの冷静なトーンで補足した。
「『れんや』というのは愛称のようなものです。本名は蓮様とおっしゃいます」
「え? なんでそんな……愛称で……?」
「みなと様が亡くなられたこともあり、お母様も結月様も『男の子』を強く欲しておられたようです。今の時代、学校など他者と直接関わるコミュニティもほとんどございません。そのため、ご家庭内では時々、男の子のような愛称で呼ばれ、育てられていたようです」
「そう……だったんだ……」
母さんと結月が、僕を失った穴を埋めようとしていたのかもしれない……。
そう思うと胸がキュッと締め付けられると同時に、危うく小さな女の子と一緒にお風呂に入ろうとしていた自分の迂闊さに、どっと冷や汗が噴き出すのだった。
「……アイリス、お風呂、よろしくお願いします……」
「はい、お任せください」
完璧な礼をしてバスルームへ向かうアイリスの背中を見送りながら、僕は「あぶねぇ……」と一人で膝から崩れ落ちそうになっていた。




