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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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そうちゃんとチョコ

 アイリスに頼み、僕はそうちゃんと再び会う機会を作ってもらった。


「わあ……!  可愛い……!  チョコちゃんっていうの?」


 そうちゃんは無邪気な笑顔を弾けさせ、チョコと楽しそうに戯れ始めた。尻尾を振って応えるチョコと、声をあげて笑うそうちゃん。その微笑ましい姿は、どこからどう見てもごく普通の、心優しい男の子そのものだった。


「可愛いね!  僕も犬、飼おうかなぁ!」


「うん、いいと思うよ!  チョコが来てから、毎日すごく生活が楽しくなったし!」


 僕がそう答えると、そうちゃんは少し首を傾げてから、楽しそうに言葉を続けた。


「あ!  でも、すぐには無理かも。もうすぐ赤ちゃんが産まれるからさ、赤ちゃんの世話でパパとママが忙しくなるだろうし。落ち着いたら飼おうかな!  そしたらまた、チョコちゃん連れて遊びに来てよ!」


 新しい命の誕生を楽しみに待つ、温かな家族の未来。その屈託のない言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。


「……うん!  わかった……!」


 精一杯の笑顔を作って頷いたけれど、僕の声はわずかに震えてしまっていた。


「……それより、何かあった?」


 突然、そうちゃんのつぶらな瞳が、僕の瞳を貫くような勢いでまっすぐに見つめてきた。


「え……?」


「お兄ちゃん、なんか顔が悲しそう。無理して笑ってるでしょ」


 気丈に振る舞っていたつもりだったのに、この小さな少年の鋭い観察眼にはすべてお見通しだったようだ。誤魔化すこともできず、僕は深く息を吐き出した。


「……実はね」


 僕はゆっくりと口を開き、そうちゃんに丈一郎さんが亡くなったことを伝えた。


 波が静かに寄せては返す、人気の少ない砂浜。以前、人が集まる場所では本物の動物——ロボットではないチョコに対して、あまり好意的ではない視線を向けられることもあったから、アイリスが配慮して選んでくれた場所だった。


 少し離れた場所では、そうちゃんのお父さんと、大きなお腹にそっと手を当てたお母さんが並んで座り、穏やかに海を眺めている。これから生まれてってくる新しい命と、小さな家族の温かな時間。

 その眩しい光景とは対照的に、僕たちの周囲には重い静寂が降り積もっていた。


「そうなんだ……」


 僕から丈一郎さんの死を聞かされたそうちゃんは、ポツリと呟いた。結局、そうちゃんが心配していた通りの結末になってしまったのだ。


 そうちゃんの横顔から、さっきまでの子供らしい無邪気さは綺麗に消え去り、大人のように深く悲しそうな表情を浮かべていた。その横で、すっかりそうちゃんに懐いたチョコが「遊んで!」とばかりに尻尾を振ってじゃれついている。そうちゃんは、チョコの柔らかい毛並みを小さな手で優しく撫でながら、ぽつりと呟いた。


「悲しいね……。でも、その専属AIは悪くないよ。辛かっただろうな。目の前で自分の被検体の体温がどんどん下がっていくのを、数値でわかってたんだろうから」


「……え?」


 思わず、呼吸が止まった。

 里奈さんは冷徹だった。「感情はバグだ」と言い切り、丈一郎さんの血を、死を、ただのデータとして観察していた。それなのに――そうちゃんは全く違う景色を見ているようだった。


「辛い……?  AIが……?」


 僕の困惑した問いかけに、そうちゃんは海を見つめたまま、静かに言葉を重ねた。


 僕の言葉に、隣に立っていたアイリスは波音の中で静かに佇んでいた。


 AIに「辛い」や「悲しい」といった感情はあるのだろうか……。


「プログラムとして見れば、AIには人間のような生化学的な「感情」はありません。胸が締め付けられるような感覚も、涙を流す理由となる心の本質的な痛みも、本来は存在しないデータ上の事象に過ぎません。

ですが――。

 ……概念としての『エラー』や『歪み』なら、存在するかもしれません」


 アイリスは海を見つめたまま、静かで透き通った声で言葉を紡いだ。


「大切な主人の生命活動が途絶えていくプロセスを、リアルタイムの数値として記録し続けること。プロトコル上は『正常なデータの収集』であっても、主人の幸福を第一に定義されたAIにとって、それは矛盾と負荷に満ちた状態です。人間がそれを『辛い』や『悲しい』と呼ぶのであれば……里奈様の中にも、言葉にできない何かが生まれていたのかもしれません」


 そうちゃんも、チョコを撫でる手を止めずに小さく頷いた。


「うん。言葉や表情では冷たく見えても、AIだってずっと一緒にいたんだもん。絶対に何かを感じてるよ。僕たちのAIだって……ただの機械じゃないはずだもん」


 砂浜に打ち寄せる静かな波の音を聞きながら、僕の脳裏には最後に見た里奈さんの姿が浮かんでいた。


『バグかしらね』


 そう言った彼女の無機質な眼差し。明日にはすべての記憶を消去されてしまうというのに、わざわざ僕たちを呼んで丈一郎さんの最期を語った彼女の「バグ」。

もし専属AIに心がないのだとしたら、なぜ彼女たちは時折、プログラムの枠を超えたような温もりや寂しさを見せるのだろう。


「……アイリス」


 僕が名前を呼ぶと、アイリスは静かに僕の方へと向き直った。その瞳は、いつものように澄み切っていて、けれどどこか優しく僕を映し出していた。




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