↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/75

丈一郎の家

 走り出してしばらくして、僕は車が向かっている方向に違和感を覚えて首をかしげた。


「あれ……?  こないだ行った、あの厳重な施設には行かないのか?」


 あの重苦しい警備と無機質な廊下が続いていた、あのドーム内の実験施設へ向かっているのだとばかり思っていた。


 すると、助手席のアイリスが静かに振り返り、微笑みを浮かべた。


「はい。お気づきになりましたか。里奈様より、本日は丈一郎様の『ご自宅』へ来てほしいとのご連絡をいただきましたので、そちらへ向かっております」


「え!?  家!?  家に行っていいの!?」


 思わず身を乗り出すと、膝の上のチョコがびっくりしたように「きゃん」と小さく鳴いた。


「はい。あちら側からの強いご希望でございます」


「えー!  すごく興味ある!!  一体どんなところに住んでるんだろうな〜!  僕みたいな一般的なマンションタイプじゃない気がするし……あ!  でも丈一郎さんって100年以上前に生まれた人だから、インテリアとか建て方がすごく古風だったりするのかな!?」


 胸の奥から、抑えきれないワクワクがふつふつと湧き上がってくる。


 コールドスリープ前の時代を知る者同士、そしてこの時代で葛藤を抱える者同士。丈一郎さんが一体どんなプライベートな空間で、どんな空気感の中で日々を過ごしているのか。


 僕は期待に胸を膨らませ、車外を流れるディストピアの景色へと目を馳せた。膝の上のチョコを撫でる手にも、自然と力がこもっていた。


 細い道へ入り、車は都市の喧騒から少し外れた川沿いの道を静かに進んでいく。車窓の風景が変わり、やがて一軒の大きな邸宅の前で静かに停車した。


「え!  ここ!?」


 思わず声をあげてしまうほどの圧倒的な存在感。


「はい、降りましょうか」


 アイリスに促されて車を降りると、そこには期待を裏切らない巨大な家が構えていた。けれど、想像していたような古い木造の屋敷などではなく、周囲の最新鋭の建築にも決して引けを取らない、洗練されたモダンな邸宅だった。


 僕たちが近づくと、重厚な大きな門が、ゴゴゴ……と低い音を立てて左右に滑るように開いていく。


(うわ……すごいな……)


 ドクドクと速くなる自分の鼓動を落ち着かせるように、僕は腕の中のチョコをぎゅっと抱きしめた。当のチョコは「ここどこ!?」と言わんばかりにハッハッと舌を出し、目を輝かせて尻尾を激しく振っている。


 アイリスと並んで門をすり抜け、どこか遠くに感じる玄関までのアプローチを歩き出した。


 見渡すと、このあたりはきっと富裕層の住宅街なのだろう。周囲に立ち並ぶ家々も同じように巨大な門を構え、外から見ても分かるような三階建ての豪邸がひしめき合っている。


 丈一郎さんの家の庭に目をやると、見事な日本庭園が広がっていた。完璧に整えられた芝生や苔の上に、絶妙な配置で置かれた大きな景石、静かに水面を揺らす小さな池。

 職人の手が行き届いたような和の趣がある一方で、隣の区画の邸宅には広大な芝生にプールや噴水が映える西洋風の庭園が見えたりと、住人の好みに合わせて多様な美意識が組み合わされているようだ。


「すごいな……こんな世界があるんだ……」


 自分の住む機能的なマンションとはまるで違う、重厚で豊かな空間。圧倒されながらも、僕はこれから扉の向こうで待っている丈一郎さんとの再会に向け、一歩一歩踏みしめるように進んでいった。


 重厚な玄関に近づくと、静かに大きなドアが開き、中から里奈さんが出てきた。

 前回見た時と同じ、体のラインが際立つ露出度の高い衣装を身にまとっている。


 だが、何かが違っていた。


 あんなにベッタリと彼女に甘え、縋りつくようだった丈一郎さんの姿が、どこにもないのだ。


 僕たちが足を止めると、里奈さんは完璧に整った美貌に何の感情も浮かべず、冷徹な声で一言だけ告げた。


「丈一郎の部屋に案内するわ」


(えっ、丈一郎さんの個人の部屋に行けるんだ!)


 本来なら一気にテンションが上がるところだった。けれど、氷のように冷たい里奈さんの空気感と無表情な仮面を前にすると、とてもじゃないが声を弾ませることなんてできない。気圧されるようにゴクリと唾を飲み込んだ。


「ワン!」


 その重苦しい静寂を破るように、抱っこされていたチョコが元気に声をあげた。


「しっ……!  チョコ、静かに!」


 慌てて僕が小声で制すると、チョコは「くぅーん……」と小さく鼻を鳴らし、しゅんとした様子で首をすくめてしまった。可哀想なことをしたと思いつつも、僕は里奈さんの後について、緊張した面持ちで邸宅の奥へと足を踏み入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。