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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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新たな試み

 自動運転の静かな車内。僕は座席にもたれかかり、流れていくガラス窓の外をぼんやりと眺めていた。


 その時、青く澄み渡った空を、数羽の鳥が弧を描いて飛び去っていくのが目に入った。


(……あ、鳥だ)


 そういえば、コールドスリープから目覚めて以来、僕が目にしてきたのはロボットやAI、データ化された人工物ばかりだった。


 外の鳥は、羽をはためかせ、風を感じ、自分の意思で空を飛んでいる。温かい血が通い、心臓が鼓動し、生きている命そのものだ。そうちゃんのあの真っ直ぐな言葉や、小さな手のぬくもりが脳裏に蘇る。


 無性に、本物の命と触れ合いたくなった。自分以外の「生きている存在」をこの手で抱きしめ、その温もりを感じたくなったのだ。


「……ねえ、アイリス」

「はい、なんでしょうか」

「僕、生きているペットを飼おうと思う」

「ペット……生物の、ですか?」


 アイリスは一瞬だけ丸く目を見開いた後、端末を操作しながら静かに尋ねてきた。


「この時代、本物の生き物を飼育することは、ロボットペットに比べて大幅にコストがかかります。日々の食事や排泄物の処理、病気のケア……『なぜわざわざ効率の悪い生体を?』と、市民の9割以上が疑問に思う選択ですが……よろしいのですか?」


「うん。食べたり排泄したり、手がかかるからこそ良いんだよ。ロボットペットが主流のこの時代だからこそ、本物の命と一緒に暮らしたいんだ」


 僕が迷いなく答えると、アイリスの表情がほんのりと和らいだ。


「承知いたしました。では、ご自宅に戻られてからペットをお選びになりますか?  ショップへお出かけになりたいですか?」


「えっ、ペットショップって、この時代にもあるの?」


「いえ、実店舗としてのショップは十年前にすべて廃止されました。現在はすべてオンラインでの選定と配送になっております。ですがご安心ください。実物と寸分違わぬ『リアルタイム3Dホログラム』でご確認いただけます」


「ネットでしか選べないのか……」


 家に戻り、リビングに着くと、アイリスが空間に手をかざした。ふわっと青い光が広がり、立体的な展示画面が目の前に浮かび上がる。


 画面の中には、無数の動物たちの姿があった。指先でスワイプすると、3Dで再現された犬や猫たちが、まるでそこに本当にいるかのように動いている。360度どの角度からも毛並みや体型を観察できるようになっていて、息遣いや微細な動作まで完璧に再現されていた。


「猫も捨てがたいけど……よし、犬にしよう。小型犬で」

「犬ですね。何かご希望の条件はございますか?」

「そうだなぁ……コミュニケーションをとりたいから、頭が良い犬種がいいな。アイリス、何かおすすめはある?」


 僕が尋ねると、アイリスはホログラムの画面をすっと操作し、ひとつの小さな犬の3Dモデルを中央に浮かび上がらせた。

 ホログラムの中で、クルクルとした毛並みの小さな犬が、くりっくりっの瞳でこちらをじっと見つめ、首を少し傾げている。


「では、トイ・プードルはいかがでしょうか」


「トイ・プードル?  おしゃれで可愛いイメージだけど、頭が良いの?」


「はい。プードル種はあらゆる犬種の中で全犬種中第2位の知能を持つとされています。小型犬の中ではトップクラスです。人間の言葉や状況を理解する能力が非常に高く、感情の機微を素直に察知することができます」


 アイリスは3Dのホログラムを少し拡大してみせた。


「さらに毛が抜けにくいため、室内での衛生管理もこの時代の基準に適合しやすい利点がございます。この頭脳と観察力であれば、みなと様の良きパートナーとなり、いざという時にも非常に頼もしい存在になるかと存じます」


 3Dの中で元気に尻尾を振る小さなトイ・プードルを見つめながら、僕は思わず目元を緩ませた。


「トイ・プードルか……いいかもな。この子にしよう」



 翌日。必要な餌やシート、ケージといった飼育用品一式と共に、その子は我が家に届けられることになった。さすがに生体輸送とあってドローンでの空輸ではなく、専用の宅配ロボットによる配送だった。


 ――ピンポーン。


 静まり返った室内で、聞き覚えのない澄んだ電子音が突如として鳴り響いた。


「うわっ……!?」


 初めて聞く玄関チャイムの音に思わず肩が跳ね上がり、心臓が跳ねる。何事かと慌ててリビングを飛び出し、廊下へ向かうと、そこにはすでに玄関扉を開けたアイリスの姿があった。


 アイリスの前には、四角く丸みを帯びた自律走行型の宅配ロボットが鎮座しており、その背後からテキパキと荷物を降ろしているところだった。


 そして――。


「キャン!  キャンキャンっ!」


 ロボットの横に置かれたキャリーバッグの網目から、高く澄んだ、愛らしい鳴き声が廊下に響き渡った。


 高精細なスピーカーから吐き出される合成音でも、AIのプログラミングされた効果音でもない。生きている命が、その小さな喉を震わせて発する、生々しく温かな「声」だった。


 アイリスが荷物を床に置くと、こちらを振り返って柔らかく目を細めた。


「みなと様、お受け取りいたしました。私たちの新しい家族です」



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