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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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そうちゃん

 そうちゃんはおままごとの準備を進めていく。だがその手つきや指示の出し方は、とても5歳の幼い子どもとは思えないほどテキパキとしていた。無駄のない立ち振る舞い、一切の迷いがない声のトーン。その姿は、まるで現場で手際よくタスクを配分していく上司のようだった。


 そうちゃんは、周りの子どもたちに向かって淀みなく指令を飛ばす。


「みいちゃんはお母さんだから、お買い物に行ってきて!」

「たっくんはお父さんだから、お仕事に行ってきて!」

「あ、るりちゃんはお姉ちゃんだから学校に行ってきて!」


 テキパキと言い渡された子どもたちは、何の疑問も抱かずに声を揃えた。


「わかったー!」

「はーい!」


 そう返事をすると、彼らはそれぞれの役割に従い、機械のように規則正しくテーブルを離れていった。


 周りの子どもたちが散らばり、それぞれの「役割」へ向かったのを確認すると、そうちゃんはそれまでの甲高い声をふっと落とし、静かに僕を見上げて口を開いた。


「お兄さんは、何年前の人?」

「……え?  に、二十年前だけど……」


 口にしてから、思わず胸の中で自嘲する。いくらなんでも、5歳の子どもに「20年前」なんて時間の感覚が理解できるはずもないだろう、と。


「そっか。僕は5年前」

「え……?  そうなの?」


 呆然とする僕をよそに、そうちゃんは平然と頷く。そのあまりに落ち着いた態度に押され、僕は喉の奥に引っかかっていた問いを思わず口にしていた。


「あの……お母さんは、本当の……?」


 普通なら、5歳の子どもに向かって投げかけるような質問ではない。だが、目の前の異様な「大人びた雰囲気」のせいか、あるいは子どもだからこそ飾らずに聞けたのか。大人の被検体に「隣にいる人は本当の家族ですか」なんて、口が裂けても聞けやしないのだから。


「ううん、違うよ。僕のママに似てはいるけどね」


 そうちゃんはあっさりと、どこか他人事のように首を振った。

 

口調があまりにも大人びていて、僕はいつの間にか彼を「5歳の子ども」としてではなく、対等な人間として同じ目線で会話してしまっていた。


「あの……どうして君は、そんなに大人っぽいの……?」


「んー……もともと。3歳くらいからずっとそう言われてた。『子どもらしくない』って。なんとか症候群……とかで、普通の人間じゃないって言われてたんだ」


 その瞬間、頭の中に電撃が走った。

 ハッと息を呑み、金縛りに遭ったように凝固する。


(そういうことか……!)


 国家が膨大な資金と技術を投じてコールドスリープから蘇らせたのは、単なるランダムな過去の人間などではない。


『子ども』という枠組みでありながら、恐ろしいほどの知性と神童並みのタスク管理能力を持つ「優秀な人材」――。

 次にこの世界を再構築し、発展させていくために必要な「優秀なサンプル」として、彼は選ばれ、蘇らされたのだ。


(……確かに、合理的だ)


 胃のあたりにズシリと重い冷たさが落ちていく。


 普通の5歳児がコールドスリープから目覚めたところで、時代の断層や親との別れを理解できるはずがない。パニックを起こして精神を病んでしまうのが目に見えている。


 だが、この子なら――ずば抜けた知能と冷静さを持つこの「そうちゃん」なら、この異常な状況すら客観的に受け止められる。


 僕や丈一郎さんのように、実験台として適当に選ばれた人間とは違う。

 この子は最初から、この世界の未来のために「意図して残された優秀な人材」だったのだ。


 僕の中に広がっていく確信と冷たい戦慄。

 それを察してか知らずか、そうちゃんは小さく息を吐くと、僕の袖を軽く引っ張った。


「ねえ、見て」


 そうちゃんは顎で、少し離れたベンチをしゃくってみせた。そこには、アイリスとあのAI移植者の『母親』が並んで座っている。


「普通はさ、あんな風に隣に座ったら会話するよね。でも、あのふたりはAI同士だから、必要な情報はあの腕時計みたいな端末で全部やり取りしちゃう。だから、会話する必要がないんだよ」


「……確かに」


 並んで座りながら、ただ前方を無言で見ている二人の姿。不気味なほどの静寂にハッとなり、僕は慌てて声を潜めた。


「な、なあ……こんな風に自由に話して大丈夫なのか?  僕たちは常に見張られてるんだろ?  盗聴とか……」


 僕の焦りようがおかしかったのか、そうちゃんはケラケラと幼い声をあげて笑った。


「ははっ……それなら大丈夫。僕の専属AIに、僕らの会話が盗聴されないよう設定を変えさせてるんだ。ついでに、このドーム内の集音マイクからも音声を拾いにくく補正させてるから……まあ、今のところはね」


「えっ……!?  そんなことまでできるのか!?」


「うん。僕ら専属のAIは、僕たちの命令が最優先だからね。それくらいの設定変更なら余裕だよ。長い時間は難しいかもしれないけど」


 あ然として、言葉を失う。

 

 5歳の見た目をしたこの子が、システムの裏をかき、専属AIをコントロールして監視網に穴を空けているのだ。


「それにしても、すごいよね、この取り組み」


 そうちゃんはおもちゃの分解BOXに視線を投げながら、どこか感心したように、それでいて酷く冷めたトーンで続けた。


「最初目が覚めたときは、母親役しかいなかったんだよ。でも僕が『パパが欲しい』って言ったら、さっきの男のAIが派遣されてきて夫婦になった。で、試しに『兄弟が欲しい』って言ってみたら、本当にママが妊娠したんだよ。どこまでも僕の希望を叶えようとしてる」


 ふっとこちらを振り返ったそうちゃんの瞳には、5歳児のそれとは思えない、底知れない冷酷な理性が宿っていた。


「それくらい、僕らが重要な存在ってわけだよ」



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