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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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眠れる魂

 あまりの衝撃に僕は言葉を失い、ただアイリスを見つめ返すのがやっとだった。


 混乱する頭で周囲に目を向けると、僕が入っていたようなカプセルが、ほかに4台並んでいるのが目に入った。

 すべて蓋が閉まっている。その透明なプラスチックの画面には、心拍数、体温、血圧などの波線や数値が淡い光を放ちながら表示されていた。


 僕は他人の足でゆっくりと立ち上がり、ふらつく身体を支えながら、そのうちの1台へ近づいてみた。透明な壁の向こうを覗き込み、息が止まる。


「え……」 


 中にいたのは、5歳くらいの小さな少女だった。

 穏やかに眠るその顔を見て、血の気が引いていく。


「こんな……こんな小さな子も、家族に売られたってこと……?」

「いいえ。これは国への『正規のドナー』ではありません」


 アイリスは僕の隣に並び、冷たいガラスの向こうの幼い少女を平然と見つめた。


「これは、闇の人身売買です」

「は……?  闇の、人身売買……?」

「みなと様、AI移植が進んで世界がどう変わったか、本当の意味でおわかりですか?」


 アイリスは静かに僕に問いかける。


「――人身売買が、さらに加速したのです」


「な、なんでだよ……!?  AIが管理する完璧で平和な世界になったんじゃ……!」


「権力者や、使い切れないほどの金を余らせた人間たちが欲しがったからです。――『AI移植された人間』を」


 アイリスの瞳の奥のレンズが、小さく絞られた。


「自分の意のままに、完璧に操れる人間を欲しがる人間たちが、この世界には溢れかえっています。ですが、合法的なルートでは簡単に身体は手に入りません。当然でしょう、自分の意思をすべて乗っ取られるのですから」


「乗っ取られる……?  待てよ、AI移植をしたら、元々の人間の意思は消えちゃうのか……!?」


 僕はカプセルを叩きながら叫んだ。アイリスは静かに答える。


「最初は共存しようとしました。ですが、必ずバグが起こるのです。なぜなら人間という生き物は、必ずしも『論理的に正しい方』を選ぶことができない不完全な存在だからです。……ですから、共存ではなく、AIが脳の主導権を握り、肉体を完全に操作することになりました」


 アイリスはそこで、ふっと不敵な、どこか魅力的な笑みを浮かべた。


「でも、安心してください。いつでも呼び出すことはできますよ。私たちAIプログラムが機能を停止すれば――その人間の意識は、いつでもこの肉体に現れます」


 アイリスが不気味に笑う。その瞬間、彼女の瞳の奥から、すべての光が消えた気がした。

 そして、彼女は一旦、ゆっくりと目を閉じる。


 次に激しくパチッと目が開いた瞬間――そこにいたのは、全くの「別人」だった。


「あれ……?  ここ、どこ……?  あなた、誰……っ!?」


 顔の表情が、ガラッと変わっていた。声色も先ほどまでの機械的なトーンではない。

 怯え、震える、生身の普通の女の子の声。表情や瞳に一気に鮮やかな生気がみなぎり、美しい少女の顔が、さらに人間らしく美しく輝き出す。


「えっ……?  身体が、動かない……!?  なに!? ねえ、これ何っ!?  嫌だ、動いてよ!!」


 彼女の顔は恐怖で激しく歪み、涙を浮かべてパニックを起こしていた。


 だが――動いているのは、顔だけだった。首から下の身体は、先ほどと全く同じ、寸分の狂いもない直立不動。両手は行儀よく前で重ねられた姿勢のまま、ピクリとも動かない。まるで、生きている人間の生首だけを、精巧なマネキンの胴体に括り付けたかのような、おぞましい光景だった。


「あ、君……っ」


 僕が思わず話しかけようとした瞬間、彼女はまた、すとんと瞳を閉じた。

 数秒の静寂の後、ゆっくりと開けられたその瞳からは、さっきの生気が綺麗さっぱり消え失せていた。


「このように。身体は私が操作し、意識だけを表層に出すことも可能です」


 アイリスは、何事もなかったかのように、にこっと笑った。


「ですが、こうやってすぐにパニックになり、システムとして使い物にならなくなりますので、滅多に出すことはありません。――意味がありませんので。私たちは、意味のないことはしません」


 そう言い終えると、彼女の顔からすべての感情が剥がれ落ち、また元の、ガラス玉のような生気のない瞳に戻った。


 僕の背中に、今まで経験したことのない、氷水を浴びせられたような戦慄が走る。


 目の前にいるのは、可愛い女の子なんかじゃない。人間の皮を被り、人間の心を奥底に監禁して、平然と笑っている悪魔だ。

 吐き気と恐怖でガタガタと震える膝に、僕は必死で力を込めた。




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