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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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ノーマルモード

 僕の言葉を聞いた瞬間、二人が同時に吹き出した。


「ハハッ!  こいつだよ、この女が俺の専属AIだ」


 丈一郎が腹を抱えて笑いながら、隣の女――里奈を指さす。


「え……?  こんなに人間らしく流暢に話してるのに……?」


「は?  お前、マジで何にも知らねえんだな。お前が使ってるAIは、初期設定の『ノーマルモード』だろ?  こいつらAIはな、性格も感情表現もいくらでも設定変更できるんだよ」


「え……!?」


 思わずアイリスを振り返るが、彼女は表情ひとつ変えず、ただ静かに丈一郎を見つめていた。


「じゃあ、ちょっと試してやるよ。おい、そこのAI、ちょっとこっち来い」


 丈一郎が手招きすると、アイリスは一歩も動かずに淡答した。


「私はアイリスと申します。大変申し訳ございませんが、私はみなと様専属のAIですので、みなと様の許可がない限り他者の指示には従えません」


「はぁー……」と、丈一郎が大袈裟に深い溜め息をつく。


「ほんっと、初期状態のAIってつまらないわね」


 里奈が鼻で笑うと、丈一郎は僕に向かってパッと親しみやすい笑顔を向けた。


「いいだろ、みなと?  俺の命令を聞かせても。ノーマルモード以外があるってことを、先輩として教えてやりたいんだよ」


「あ……はい。それくらいなら……」


「かしこまりました。それでは……」


 アイリスが静かな足取りで丈一郎の方へと近づいていく。


(……そういえば)


 その背中を見送りながら、僕はふと思い出していた。

 適合体の容姿は凍結前の自分に似せて作られ、専属AIは「その人間の理想の異性」の姿にデザインされると聞いた。……ということは、あの丈一郎の理想の女性像が、あの派手で妖艶な『里奈』だということか。


 アイリスは丈一郎の口元に耳を近づけ、何事かを囁かれている。それを無表情のままコクリと頷いて聞くと、丈一郎は顎で「行け」と僕の方を指し示した。

アイリスが僕の元へと戻ってくる。


 ――だが、その歩みはさっきまでと全く違っていた。

 ロボットのように整いすぎていた表情にはパッと生気が満ち、ガラス玉のようだった瞳は潤んだように輝き、白い頬はほんのりと赤らんでいる。


 たったそれだけの変化なのに、僕の胸がどきりと跳ね上がった。


 アイリスは迷わず僕の隣に滑り込むと、両手でぎゅっと僕の腕にしがみつき、上目遣いで僕を見つめてきた。

 ドクドクと、耳の奥で心臓がうるさいほど跳ね始める。


「みなと〜……ふたりっきりになりたいな♡  ベッドに行こ♡」

「は、はぁっ!?」


 あまりの衝撃に僕は焦ってアイリスを押しのけ、弾かれたように立ち上がってしまった。

 その瞬間、向かいのソファから丈一郎と里奈の爆笑が響き渡った。


「アハハハハ!  ウブも行き過ぎると滑稽だな!」

「あはは!  このくらいで動揺してどうするのよ……っ!」


 だが、アイリスは赤らった顔のまま、再び僕の腕にすがりつこうと距離を詰めてくる。


「ちょっ……!  ちょっと待てって、アイリス!!  元に戻って!!」

「……かしこまりました」


 一瞬にしてスンと元の無表情に戻るアイリス。


(……くそっ、二人の高笑いはめちゃくちゃ腹立つけど……)


 けれど、この時ばかりは二人の爆笑に救われた気がした。こんなの、自分好みの女の子に二人きりの時に言われたら、ひとたまりもない。

 二人のけたたましい笑い声によって、僕は崩れかけた現実感を無理やり引き戻されたのだった。


「これが俺のイチオシ、『色気モード』だ。みなとには刺激が強すぎたみたいだな……ハハッ!」


 完全にからかわれたことにムッとしながら、僕はソファーに座る二人へと視線を送った。


「丈一郎さんは……そうやって四六時中ベタベタしていて、恥ずかしくないんですか?」


「恥ずかしい?  まさか。俺はこのいい女から一刻も離れられないんだよ」


(……はいはい、自分の理想通りに作られた好みの女だもんな)


 皮肉が頭をよぎるが、もちろん口には出さない。


「そうですか……。いいですね、ラブラブで」

「何言ってんだよ。お前だって、夜はやることやってんだろ?」

「は……? 何を言って……」

「いや、夜だけじゃないな。朝でも昼でも、いつだって好きな時に好きなようにやって――」

「はぁっ!?  そんなの、するわけないじゃないか!!」


 あまりの言われように、怒りと恥ずかしさで自分の顔がカッと熱くなるのが分かった。血が頭に上り、耳の奥まで熱い。そして何より……こんな下品な話を、隣にいるアイリスに聞かせたくなかった。


「なんだよお前、童貞かよ」

「違う!!  経験くらいある!!  ……それに、この人たちをそんな性欲のハケ口みたいに使うなんて……!!」


 必死に反論しながら、ふと余計な思考が頭をよぎる。


(僕自身には二十年前の経験があるけれど……この『みなと』の肉体の主はどうだったんだろう……?)


 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 目の前でニシシと下品に笑う丈一郎と、その胸に顔を寄せてクスクス笑う里奈。

 僕は拳を握りしめ、真っ赤になった顔を背けながら、必死に乱れた息を整えようとしていた。




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