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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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被検体3

 チンという電子音とともにエレベーターが止まり、静かにドアが開いた。


 長い廊下を進み、僕たちは突き当たりにあるひとつの重厚な扉の前で足を止める。扉の上部に取り付けられた小さなセンサーランプが青く明滅すると、プシューッと圧力が抜ける音を立てて、扉が左右に開いた。


 僕はゴクリと唾を飲み込み、アイリスの背後から息を殺して部屋の中を覗き込んだ。

 室内は壁も天井も、隙間なく真っ白に統一されていた。正面には足元から天井まで届く巨大な強化ガラス窓が広がり、山頂近くという立地もあって、遠くまで広がる未来の無機質な街並みが一望できるようになっている。


「あ、きたきた」


 静寂を破って、少し軽めの男の声が部屋の中に響いた。

 反射的に声のした部屋の左側へと視線を向ける。


 部屋の中に視線を遣ると、中央に鎮座する高級そうな革張りソファの姿が目に入った。そこに腰掛けていたのは、三十代半ばほどの男だった。


 短めの金髪に、目元を隠す漆黒のサングラス。サイズを間違えているのではないかと思えるほどピチピチの黒いTシャツからは、鍛え上げられた筋肉の凹凸がこれでもかと浮き出ている。下は使い込まれたような青いジーンズ。


 そして、その男に身体を隙間なくぴったりと密着させて座っているのは、長いカールがかった茶髪の美しい女性だった。胸元がざっくりと開いた丈の短いワンピースから覗く豊かな胸と、露わになった白い太ももが異様な色気を放っている。


「ふふ……入ってきたわよ。十代後半くらいのかわいい男の子が」


 女は目を細め、僕を品定めするように妖しく微笑んだ。


(え……待って、どっちが『被検体』なんだ?  まさか二人とも……?)


 あまりの異質さに戸惑っていると、女はころころと鈴を鳴らすように笑った。


「アハハ……あたしたちのどっちが被検体かわかんないんでしょ?……ウケるんだけど」


 ……なんなんだ、この女。

 思わずフッと苛立ちが胸を突く。


 この無機質で冷たい時代において、なぜこの二人だけがこんなにも生々しく、ベタベタと密着しているんだ。サングラスのレンズが濃すぎて男の視線がどこを向いているのかすら分からず、女の細い腰に回された男の腕にもなんだか無性に腹が立ってくる。


 戸惑いと苛立ちで動けない僕の前に、アイリスがすっと一歩踏み出した。


「ご要望通り、みなと様をお連れいたしました」


 男は怠惰に首を少し傾げると、女を抱き寄せたまま、片手をひらひらと上げて短く答えた。


「ああ。ありがとうよ」


「あの……どちらが被検体の方……ですか?  もしかして、お二人とも……?」


 意を決して尋ねると、男が短くフッと鼻で笑った。


「俺だ。丈一郎だ。お前もこっちに座れ」


「僕は……みなとです。よろしくお願いします……」


 僕が慎重に歩み寄ると、隣の女が丈一郎の耳元に口を寄せ、くすくすとおかしそうに耳打ちをした。


 ……いら立ちしか湧いてこない。胸の奥がムカムカとして仕方がなかった。


 僕とアイリスが彼らの向かいにある革張りソファに腰を下ろすと、丈一郎がサングラスの奥から僕を見据え、口を開いた。


「どうだ?  ここの生活は」


 どう答えるのが正解なのか分からない。なるべく目の前の男の機嫌を損ねたくはなかった。


「……まだ数日で。分からないことや知らないことばかりで、戸惑っています」


「まあ、最初はそうだろうな」


 その時、壁の配膳スペースから自動給仕ロボットが静かに現れ、湯気の立つコーヒーを運んできた。アイリスが立ち上がってそれを受け取り、僕たちの前のテーブルへと丁寧に並べていく。


「ほらな。こうやって指一本動かすことなく、望みが叶う。便利ないい世の中じゃないか」


「……それは、そうですが……」


 僕は気になっていた疑問を、思い切ってぶつけてみることにした。


「あの……お二人は、どうしてそんな格好をしているんですか?  その……僕たちが着ているような、ワンピース型の服は着ないんですか?」


 僕の問いに、丈一郎がぴくっと動きを止めた。すかさず隣の女が、また彼の耳元で何かを囁く。


(……何か、まずいことでも言っちゃったか……?)


 じわじわと不安が広がりかけたその時、丈一郎が白い歯を見せてニッと笑った。


「そんなダサい格好してる方がおかしいだろ。自分の着たい服を着てるだけだ。俺も、この女――里奈もな」

「そうよ〜。人から言われるままの服を着るなんて、超ダサくなーい?」


 いちいち癇に障る言い方をする女だ。


「おいおい、あまり若者をいじめるな」

「はーい♡」


 丈一郎になだめられ、女――里奈は甘ったるい声を出す。僕は沸き立つ苛立ちを必死に押し殺しながら、努めて冷静さを保って次の質問を投げかけた。


「……あの、お二人のAIはどちらにいらっしゃるんですか?」


 この広い部屋には、僕とアイリス、そして丈一郎と里奈の『4人』しかいない。向こう側のAIはどこにいるのだろうか。ここはただの広い一室で、他に控え室のような部屋は見当たらないはずなのに――。




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