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20年ぶりに目覚めた僕は、他人の身体になってました。~2046年、案内人の美少女は中身AI~  作者: VANRI


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見慣れた部屋

 僕の叫び声など最初から存在しなかったかのように、アイリスは静かな動作で最後の扉を開け放った。

そこに広がっていたのは、三つの個室の中で最も広いリビングだった。


 中央には見覚えのある質感のソファとローテーブル。壁際には薄型のテレビが収まり、奥には整然としたカウンターキッチンが覗いている。


 ……あ。


 息を呑む。間取りだけでなく、家電の配置から全体の空気感まで、かつて過ごした実家のリビングに恐ろしいほど似通っていた。

 冷蔵庫の置き場も、電子レンジが置かれたラックの位置も、僕の記憶にある「我が家」そのものだ。


 無意識のうちに肩の力が抜け、小さく安堵の息が漏れる。


 ――だが、その安らぎは一瞬で毒へと変わった。


 懐かしい風景の模倣。それが突きつけてくるのは、あまりにも残酷な「ここには誰もいない」という現実だった。

 

 胸の奥から、冷たい泥のような悲しみと強い不安がこみ上げてくる。猛烈なホームシックが、喉元まで押し寄せてきて息がうまく吸えない。


「……なあ」


 僕は絞り出すような、かすれた声でアイリスの背中に問いかけた。


「……僕の家族は、どうなったんだ……?」


 恐る恐る口にしたその言葉は、静まり返った模造品のリビングに虚しく響いた。


 アイリスはゆっくりと僕の方へ振り向くと、言葉を発することなく、ただじっと僕の目を見つめてきた。その無機質な瞳に、灯りの落ちたリビングの影が静かに揺れる。


「……明日、ご家族のお宅へ行ってみましょうか」

「え……い、いいのか……?」


 予期せぬ提案に、鼓動が一気に跳ね上がる。


 いきなり姿を現して、本当に大丈夫なのだろうか。美琴が僕の死を疑っていなかったように、父さんも、母さんも、姉さんも、僕はこの世にもういないものとして生きているはずだ。


 ――でも。もし目の前に僕が現れたら?

 「僕は生きているんだよ」と伝えることができたら……みんな、涙を流して抱きしめて喜んでくれるんじゃないだろうか。


「はい、ご案内いたします。みなと様に対しては、言語で説明するよりも直接現地で視覚的・体験的に理解していただく方が早期の状況把握に繋がる、と判定しました」


 機械的な思考プロセスをそのまま口にされ、少し馬鹿にされたような苛立ちが芽生える。だがそれ以上に、ずっと胸の奥にくすぶっていた疑問が口をついて出た。



「……なあ。お前も……僕のこと『死んだ人間』だって思ってるのか?」


 その瞬間、アイリスは両目を大きく見開いた。

 今日出会ってから初めて見せる、明らかな「驚愕」の表情だった。そして間髪を入れず、まばたきすら忘れた様子で一気に言葉を捲し立てる。


「まさか!!  死んでいるわけがありません!!  呼吸数、脈拍、体温、すべて正常値を示しております!!  脳機能はもちろんのこと、移植されたその生体も完全に機能しております!!」


 必死とも言えるその声が耳の奥に響いた瞬間、目頭が熱くなり、ぐっと胸の奥から熱いものが込み上げてきた。


 ……そうか。


 この狂った世界で。僕を知るすべての人間が僕を過去の遺物として扱う中で、このAIだけは――世界でたった一人だけは、僕が「生きている」と疑わずにいてくれている。


 プログラムされた数値のチェックに過ぎないのかもしれない。それでも、その言葉は今の僕にとって何よりも強く、冷え切った心を温める救いだった。


 僕の心拍数の上昇を検知したのか、アイリスは首を少し傾げてこちらを見つめている。

視界が少し滲む中で、僕は彼女にひとつ、確かめてみたいことができた。





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