謎のドーム
ドーム内には、等間隔に警備員が配置されていた。僕はその警備員の横を通り過ぎる際、横目で彼らの様子を窺ってみる。
……やっぱりだ。
一目でわかった。動きや全体の雰囲気が人間じゃない。彼らが視線を動かした時、あるいは何かしらの目標物を捉えた時、その瞳は1ミリのブレもなく正確に対象をロックオンしていた。
これは……AI移植者だ。まさか、ここの警備員全員が……?
あまりの数の多さに、僕はハッとして思わず足を止めてしまった。だが、その時ふと、別の疑問が頭をもたげる。
待てよ。俺、こんな病院着みたいなワンピースを着て歩いていて、不審がられないのか?
慌てて周囲の『人間』たちをよく見回してみる。すると、そこにいる老若男女は、柄や色こそ違えど、全員が僕と同じようなワンピースの服を着て過ごしていた。
一般の人間と服装が違うのは、さすがにあの格好では動きにくいのか、一目でそれと分かる制服を着た警備員くらいだ。
そう言えば、隣にいるアイリスも僕と同じようなワンピースを召している。ドームにいる何百人もの人々は、僕がこんな服で入ってきても誰も気にしない。むしろ、見向きもしない。
だからアイリスは、俺を着替えさせることもなく建物外へ連れてきたのか……
「なあ、アイリス。この時代は、みんなこんな服を着てるのか?」
「はい。誰も特別なものは着ていません」
アイリスは歩みを止めないまま、当然のように答えた。
「腕を通すだけで着替えが可能ですので、効率を好まれる現代の人間は、これを選ぶ者が多いのです」
衣服を選ぶ楽しさや個性すら、この時代の人間は「非効率」として捨ててしまったのだろうか。
僕はもう一度、配置された警備員たちに目を戻した。
20年前、俺は色んな商業施設やテーマパークに行ってきたけれど、こんなに警備員の数が多い場所は見たことがない。まるで、芸能人や国の偉い人が視察にやってくる時のような異様な厳戒態勢だ。
「なんでこんなに警備員が多いんだ? それと……」
ずっと気になっていた、アイリスの『腰の装備』を指さす。警備員たちも、そしてアイリスも、腰のホルスターに奇妙な物体を携えていた。20年前に警察官が持っていたような黒い拳銃とは全く違う、おもちゃのプラスチックで作られたような、カラフルな水鉄砲に似た何かだ。
だが、そんなものを持っているのは、この広いドーム内で警備員とアイリスくらいだった。
「それは、何なんだ?」
「これは……」
アイリスがその水鉄砲のような武器に手をかけ、説明しようとした、その時だった。
――バババババン!!!!
広大なドームの天井を突き破るような、凄まじい衝撃音が鳴り響いた。
「っ……!? なんだ、何の音だ!?」
エアコンの風が心地よかった平和な空間が、一瞬にして、火薬の匂いと硝煙に包まれていく――。
「キャーーーッ!!」
「うわあああ!!」
一瞬にして、ドーム内は地獄のような悲鳴の渦に包まれた。入り口の扉を蹴破って現れたのは、全身を黒い服で包んだ5、6人の集団。その手には、ずっしりと重そうな本物の銃が握られている。
顔は不気味な覆面で完全に覆われており、体格からは性別すら判別できない。
「おい、アイリス、あれ……っ!?」
僕が叫んだ瞬間、ドーム内に等間隔で並んでいたあの警備員たちが、一斉に猛然と黒服の集団に向かって走り出した。叫び声を上げて逃げ惑う一般の人々をかき分け、弾丸が飛び交うかもしれない最前線へと、一切の躊躇なく突っ込んでいく。
そうか……。あのAI移植された警備員たちは、『恐怖』という感情がないからか……!
そして、隣にいたアイリスもまた、警備員たちと全く同じ冷徹な瞳になり、逃げる人々の波と逆方向へ向かって、凄まじい速度で走り出した。
「おい、アイリス!? 待てよ!」
一人取り残された恐怖と不安に耐えかねて、僕は慣れない他人の足をもつれさせながら、無我夢中で彼女の背中を追いかけた。
黒服の集団が銃口を向けるより早く、AIの警備員たちは腰のおもちゃのような水鉄砲を抜いた。完全な無音のまま、銃口から一筋の鋭い光線が放たれる。光線を浴びた黒服たちが、まるで糸の切れた人形のように次々と床へ崩れ落ちていった。
そして、隣にいたアイリスもまた、警備員たちと全く同じ冷徹な瞳になり、僕の手を振り払って、逃げる人々の波と逆方向へ向かって凄まじい速度で走り出していたのだった。
一人取り残された恐怖と不安に耐えかねて、僕は慣れない他人の足をもつれさせながら、無我夢中で彼女の背中を追いかけるしかなかった。
襲撃が始まってから、わずか数分。スピーカーから『侵入者、鎮圧成功』の機械的な音声が流れると、それを待っていたかのように、ドームの天井や壁の隙間から、無数の空を飛ぶドローンロボットや、自走式の掃除ロボットたちがわっと一斉に這い出てきた。
ロボットたちは無駄のない完璧な連携で、黒服たちに蹴り倒された椅子や机をパタパタと元の位置に起こし、床に飛び散った硝煙の汚れを掃除し始める。
まるで、映像を巻き戻しているかのような光速の自動修復。それを見るや否や、逃げていた人間たちも何事もなかったかのように元の場所へ戻り、さっきの時間を再開し始めた。
黒服たちが転がっていた床は一瞬でピカピカに磨き上げられ、世界は秒単位で『完璧な日常』へと上書きされていく。




