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メアリー・アムステルダム


(ちゅんちゅんちゅん)

いつものように、小鳥の鳴き声で目が覚める。


(こんこんこん)

部屋をノックする音。


「メアリー様、お食事の準備ができました」

侍女の声が聞こえる。


「入って」


侍女は中に入ってくる。

侍女は着替えを行い、私の髪を整える。


彼女の名はサラ。

とても優秀だ。


ただ、一番上のお兄様の息がかかっている者。


彼女に話すことは、すべてお兄様に知られる。

だから私は、

彼女に心を開けない。


私は物語が好きだ。

その中のヒロインは、侍女と仲良し。

そういうものだった。


でも私には、そんな選択肢はない。


四六時中監視されている気分。

それが私の立場だ。


私は、8歳の頃、マービンという賢者に出会った。

正確に言うと、彼に助けられた。


領地視察の際に、盗賊団に襲われた私を、マービン様は知略のみで助けてくれた。


その時、盗賊団の後ろには、一番上のお兄様が絡んでいることがわかった。


私はマービン様に、側で助けてもらえないか頼んだが、

権力の側にいることを嫌うマービン様は、受けてはくれなかった。


ただ、

「権力とは関係のないことなら、手助けするのもやぶさかではない。

しかし、それはあなたが公爵令嬢だからではなく、

ただの友人だからだ」

そう言ってくれた。


それから、マービン様には、何度か助けてもらった。

数年が経ち、

マービン様は突然消息を絶たれた。

つてを使い探したが、見つからず。

ようやくマービン様と連絡を取れる魔道具を手に入れた。


侍女にも誰にも悟られず、この魔道具を手に入れるのは、大変だった。


でも、

せっかく魔道具を手に入れたのに、マービン様とは連絡が取れなかった。

つながったのは、ジュン・ナカタと名乗る異世界の女学生。

僕と言っていたので、てっきり男性だとばかり思っていた。


とても不思議な人だった。

見ず知らずの私のために、一生懸命手助けしてくれる。

私の周りには、そんな人はいなかった。


公爵令嬢というのは、政治に直結するがゆえに、面倒ごとが多い。


兄は次男と三男の家督争いのプレッシャーで、

性格がねじ曲がったのだと思う。


妹の私も、婚約相手が誰になるかで、兄の政治生命を脅かす存在になるかもしれない。

だから監視したり、命を狙ったりするのだろう。


父はそんなことを知ってか知らずか、

私たちにプレッシャーをかけ続ける。


成績しだいでは、実の父にさえ、消されかねない。

それが私の立場。


普通に冗談を言い合える友人。

恋の悩みを打ち明けられる友人。

学業の悩みを相談できる友人。


そんな普通とされるものに、憧れ続けた。


あの異世界の女学生なら、

その夢も叶えられるかもしれない。


そう思う。

でも同時に、踏み込むのが怖い。


私は政治という盤上の駒に過ぎない。


そして、

誰にいい顔をし、誰に顔をそむけるか。

ただ選択をするだけの、プレイヤーでもある。


その選択一つで、私の大切にする者達の運命が変わる。


ただ……、

いままで、仲良くしようとしてくれた人もいた。


しかし数回話すと、すぐに距離が空く。

監視のせいだ。


後ろから手を回され、

手に入った一時の幸せは、

砂の城が風に吹かれるように崩れ去っていく。


ジュンとも、

そうなるのだろうか。


私は期待を捨てた。

連絡を取れる間に、

彼女から吸収できるものは全て吸収しよう。


そうして、彼女に助けてもらわなくても、

大丈夫なようにしなくては……。


あれ……、

私は助けてもらおうとしてばかりだ。


急に恥ずかしくなった。

でも、人って助けてもらう以外に、

どんな付き合いがあるというのでしょう。


そうか……、

ジュンに聞いてみればいいのか。


私は魔道具に、メッセージを書き込む。


「私は公爵家の娘という立場ですので、

普通のお友達というものを知りません。

お友達とは、どのようなお付き合いをするものなのですか?」


質問が少し恥ずかしい気がする。


「そうですね。ポテチというじゃがいもを油で揚げたお菓子を一緒に食べたり、試験勉強を一緒にしたり、100マス計算とか、スクワットも一緒にやるよ」


なに、ポテチって……。

じゃがいも?

油で揚げる?

まったくわからない。

試験勉強を一緒に?

100マス計算も、スクワットも?

ご学友ということなのかな。


「それはご学友なのですか?」

メッセージを書き込む。


「うーん。同学年だけど、学校が違うし、ご学友ってわけじゃないかな」


学校が違うのに、接点がある?

意味がわからない。


「学校が違えば、知り合うこともないのでは。社交界とかですか?」

メッセージを書き込む。


「剣道という剣術を部活でやっていて、試合の時に知り合った」


なるほど。しかし、どうやって仲良くなったのだろう。


「どうやって仲良くなったのですか?」

メッセージを書き込む。


絵が送られてくる。


「これはなんですか?」

メッセージを書き込む。


「これは三人が好きなアニメのキャラクター。これをカバンにつけていて、それでお互いに気になって、知り合ったんだ」


アニメというのがわからないけど、同じ趣味だとわかったということか。


「同じ趣味だと分かったということですか?」

メッセージを書き込む。


「そうそう。いま、その友達二人もいるよ。話してみる?」


えっ、どうしよう。


「あの……、うれしいのですけど、私は異世界の者ですし」

メッセージを書き込む。


「あっ。実はね。メッセージが届いた時に、みんなもいたから、どう返答するか相談してたんだ。だから二人ともメアリーちゃんのこと知ってるよ」


あっ。そうなんだ。

えっ、でもどうしよう。

緊張する。


「カエデです」


「トマトです」


うわ。メッセージが届いた。


「私はメアリー・アムステルダムです。ギフト王国の公爵家の娘です」

メッセージを書き込む。


「メアリーちゃんって、何歳なの? 私たちは15歳 カエデ」


「私は14歳です」


「すごいね。大人っぽいね トマト」


「えっ、そうですか? 躾が厳しかったのかもしれません」

メッセージを書き込む。


なんか頭がこんがらがってきた。


「あの、恋の話とかしたりするのですか?」

メッセージを書き込む。


「……そういえば、したことないよね カエデ」



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