表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/12

公爵家令嬢の悩み

「実は私……、

公爵家の娘なのに、落ちこぼれで」


短い言葉の中には、

彼女の苦悩が詰まっている気がした。


僕も落ちこぼれだ。


「はい」

僕は短く返す。


「どうしたら良いか悩んでいて、なにか助言を頂けないかと」

切実な悩みだ。


僕は悩んだ。

実は僕も落ちこぼれなのです。

そう答えようか。


「マービン様なら、きっと悩みを解決してくれるかと思っていたのですが、マービン様を頼れるのが、この魔道具だけでして、相談できる相手がいないのです」


続いてメッセージが届く。


相談できる相手がいない。

そうか、

だから、どこの誰ともわからぬ異世界の相手を頼るしかないのか。


「あの家庭教師の先生とか、そういう方はどうですか?」

反射的に返信をする。

僕は自らの重みを他人に押し付けようとしていた。

少しの嫌悪感が、

僕の横を過ぎていった。


「信頼ができないのです」

短い言葉。

公爵令嬢という立場は、それほどまでに過酷なものなのだろうか?


「公爵令嬢というお立場が関係しているのですか?」


「そう思ってもらって結構です」

短い返答。


僕はあまり深くまで入り込まず、

当たり障りのない回答をしようと思った。

僕にはインターネットがある。

そこの回答をコピペで伝えればいい。

簡単なことだ。

そう思った。


……


僕は爺ちゃんが昔に言っていたことを思い出していた。


成績が下がったことを母に叱られ、

落ちこぼれだと嘆く僕に対して、

「いいかジュン。お前は落ちこぼれだと言っているが、すべてのものが苦手なわけじゃない。

たとえばな。お前は鶏のから揚げは好きだろう。でもピーマンは苦手だ。そうだろ」


「うん。ピーマンは苦手。鶏のから揚げならいくらでも食べられる」


「そうだな。つまりジュンは、鶏のから揚げは得意。ピーマンは苦手なんじゃよ。それがな、勉強やスポーツなんかでもある。ほら見てみろ。あの体操の選手」


テレビに映る当時人気だった体操選手を指さし、


「あの選手なんかは、体操は得意じゃが、球技なんかは大の苦手じゃ。それでも世界で活躍できる」

短い言葉だったが、子供ながらに、その言葉に勇気をもらった。


しかし僕の心にはすぐ影が差す。

「でも苦手だと、成績が悪くなるよ。学校はスーパーマンを育てたいんだ」

僕は言った。


爺ちゃんは目を細め、

「スーパーマンか……、

面白いことを言うな。

たしかにそんな側面はあるな。

しかし、ジュン。お前はピーマンは苦手でも、ナポリタンとかピザのピーマンだと食うだろ」


爺ちゃんは僕の頭をポンポンする。


僕は考えた。

たしかにそうだ。

「うん。あのピーマンは美味しい」


「つまりな。お前が苦手なのは、実はピーマンじゃない。ある特定のピーマンの調理方法なんじゃよ」


「特定の調理方法?」

首を傾げる僕に、爺ちゃんは問いかける。


「焼肉のピーマンは?」


僕は首を横に振る。


「ピーマンの揚げたのは?」


僕は首を横に振る。


爺ちゃんはニンマリと笑い、


「そうだろ。焼肉のピーマンと揚げたピーマンは苦手。ナポリタンとピザのピーマンは得意。つまりそういうことなんだ」

そう言い、

再び爺ちゃんは僕の頭を撫でる。


僕は爺ちゃんを見て、

「算数とか音楽にもそういうのがあるってこと?」

そう尋ねる。


「そうじゃ、そうじゃ。そういうことだ。算数は何が苦手だ?足し算か引き算か?」

爺ちゃんは縁側に腰をかける僕を覗き込む。


「やめてよ。足し算とか引き算はできるよ。苦手なのは分数だよ」


「じゃあ、分数は全部苦手か?」

爺ちゃんは聞く。


僕は考える。

分数は苦手だけど、分数の足し算、引き算は苦手じゃないかも。


「分数の足し算、引き算は苦手じゃない」

僕は答える。


「じゃあ、分数の掛け算、割り算は?」

爺ちゃんは尋ねる。


「掛け算はできるかな?割り算は頭がこんがらがる」

僕は言った。


「ジュン。お前はすごいな。苦手なのは、分数の割り算だけだなんて」

爺ちゃんは目を丸くした。

今思えば、あれは演技だったのかもしれないけど、

僕にとっては、自信がついた一つの出来事だった。


……


「落ちこぼれとおっしゃいますが、得意な分野、本当に苦手な分野があると思います。あなたのもっとも苦手な分野はなんですか?」

僕はまず、苦手な分野を絞ることにした。


「剣術です」

すぐに返信が届いた。


僕は少し安心した。

剣術ならなんとかなりそうだ。

しかし、相手の状態が見えないから、なんとも言えない。

どうしよう。


「僕にはあなたの状態が見えません。具体的にどんな状態なのか、教えてもらえますか?」

僕は尋ねる。


「まるで歯が立たなくて、練習についていけません」

返信が返ってくる。


歯が立たないというのは、練習相手にだろう。

練習についていけないというのは、

どういうことだろう。


「練習についていけないというのは?具体的にどうなりますか」

僕は尋ねる。


「途中でバテてしまうんです」


これは、

体力の問題なんじゃないか。

僕はそう思った。


「練習の後、痛くなったり、フラフラするとか、そういうところはありますか?」


「ペンが握れなくなるのと、歩くのが辛くなります」

そう返ってきた。


これなら、答えられる。

僕も剣道で経験済みだ。


……


僕は中学生の頃、

アニメの影響で剣道を始めた。

体力のなかった僕は、

メアリーちゃんと同じ状態で、

辛くて辞めようかと思っていた。

それを救ってくれたのが、

お爺ちゃんだった。


「剣道をやめようと思っているって?

どうした。あんなに剣士に憧れていたのに」

爺ちゃんは不思議そうに尋ねた。


「だってね。練習したら手は動かなくなるし、足はふらふらになるから」

僕はそう言った。


すると爺ちゃんは、

口元を緩め、


「それはな。足の筋肉と、手の前腕の筋肉が悲鳴をあげているだけだよ。

少し鍛えれば、すぐに良くなる」

そう言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ