友達
恋バナという話題が出て、
僕は話題を変えたくなった。
僕は、恋というものをしたことがない。
正確に言うと、男性に嫌悪感があるのだ。
しかし、こんな事を言ったら、気持ち悪がられるかな。
メアリーちゃんから、返信が届く。
「……恋の話とか言っておいてなんなのですが、私は男性に嫌悪感があるのです」
メアリーちゃんもか……。
二人はメッセージを覗き込んでいる。
「これ僕もなんだ……」
二人は僕の様子を見て、
手を上げる。
「トマトちゃんも? カエデちゃんも?」
尋ねると、二人とも頷く。
僕はメッセージを送る。
「今知りましたが、どうもこちらは三人共、男性に嫌悪感があるようです」
即座に返信。
「よかった。私はおかしいのかと思っていました」
僕はメッセージを見て、二人に見せる。
二人ともどこか嬉しそうだ。
男性に嫌悪感がある理由を聞こうとも思ったが、
いたずらに人の傷に触れるのもどうかと思い、やめた。
僕が男子に嫌悪感を持ったのは、
幼稚園の頃、
ショートカットだった僕に対して、
「お前、女のくせに、男みたいで気持ち悪いな」
そう言われたからだ。
男の子っぽい恰好が好きだったから、
事実ではあるのだけど、
それがやけに刺さった。
「お父さんとかは別にいいけど、男なんていなくて良いような気がする」
カエデちゃんは言った。
「そうだよね。私もそう思う」
トマトちゃんも言った。
僕も頷く。
「僕、幼稚園の頃、今と同じようにショートカットだったんだけど、“お前、女のくせに、男みたいで気持ち悪いな”って言われたんだ」
気が付いた時には、自分の傷口をさらけ出していた。
二人とも視線が止まっていた。
空気が凍り付く。
しまった。変なこと言ってしまった。
「ごめん。わ……」
言いかけた時、二人の目に薄っすらと光るものを見た。
「それはひどすぎだよね」
トマトちゃん。
「ぶん殴ってやる」
カエデちゃん。
僕は長年封印していた傷口が癒えるような感覚を持った。
「……でも。僕、ショートカットだし、たしかに男みたいだと思うんだ」
僕は庇うような言動を取る。
「私はカッコいい女の子好きだよ」
トマトちゃん。
「私もジュンちゃん、カッコカワイイと思う」
カエデちゃん。
視界が広くなる。
僕の心は何かから解放されたような気がした。
そして、開放感と共に、少しの恐怖を感じる。
鎖国をやめた当時の日本って、今の僕みたいな気持ちだったのかな。
「ずっと、この事がひっかかっていたんだ。それが二人のお陰……、いや三人のお陰で消えた。すごく開放感がある。でも反面、少しの恐怖があるんだ。
それで良いのかってね」
僕は正直に言った。
「気持ちわかるよ。開放って怖くもあるものね」
トマトちゃんは頷く。
「自由の恐怖ってやつか……」
カエデちゃんは頭をかく。
僕はこの顛末を、メッセージで送る。
「私には、ほとんど自由になる事がありません。
全てが制約のなかにあります。選べる人がうらやましいなと、空を自由に飛べる鳥がうらやましいなどと思っていました。
でも実は怖くもあるんですね」
そう返信があった。
そうか……、
空を自由に飛べる鳥も、
鷹やトビ、いろんなモノに襲われる可能性だってあるし、
それは怖い事なんだ。
「私、公爵令嬢って恵まれた存在だとばかり思ってた」
トマトちゃんは言う。
そしてそれをメッセージで送る。
そうか……、
この場は三人ではなく、四人の会話なんだ。
僕が頷くと、カエデちゃんも頷いた。
「たしかに恵まれてはいます。でも散歩でさえ、決められたルートですし、本も自由に買えず、屋敷の図書室の本に限定されています」
と返信が来る。
「本は沢山あるのですか?」
とトマトちゃん。
やはり本好きだけのことはあって、気になるのだろう。
「1000冊ほどはあるのではないでしょうか?」
と返信。
「どんな本があるのですか?」
とトマトちゃん。
「歴史、童話、語学、魔法書、家庭の技術、算術、剣術、兵法書などです」
と返信。
「物語とかは?」
とトマトちゃん。
「神話と英雄譚、国家建設の話とかになりますね。民間伝承の類の話も少し。そちらは?」
と返信。
「図書館にはあらゆる本があります。
私が好きなのは、異世界の物語。
特にこちらの世界の人間が異世界に転移したり、転生する話が好き」
とトマトちゃん。
「そんなのがあるんですね。どうやら私の世界はとても狭いようです」
と返信があった。
僕は、メアリーちゃんの、「私の世界はとても狭い」という言葉がやけにひっかかった。
「世界が狭いというのは、どういうことなのだろうか」
と僕。
「大陸の広さとか、そういうことではなくって、見えている範囲ということじゃない?」
とトマトちゃん。
「あの、私は屈伸することができるのはわかってましたが、それで体力がつくことは知りませんでした。そしてそれが、ばてるのを防止できるとは」
とメアリーちゃん。
「あのさ。皆、蟻は知っていても、その蟻がどういう生態をしているかまでは、詳しくは知らない人が多いじゃない。そんな感じでは?」
とカエデちゃん。
「そうか。人それぞれ、見えている範囲が違うからか。こっちの世界は、いろんな人の見方が、あちこちで見られるから、世界が広く見えるんだ」
と僕。
「……もしかすると、私の世界が狭いと思い込んでいるだけで、家にある本を読みこんだり、こうやって皆さんとか、私の周りの人の話を聞くだけでも、世界は広くなるのではないのでしょうか?」
とメアリーちゃん。
三人は考える。
皆頷く。
「そうか……、学校教育って、義務的に世界の知識を入れることなのか。それにより、この世界を理解しやすくする。
学校教育がなければ、いろんな事への理解ができなくなるんだ」
僕は言った。
「そうか……、私は超古代とか、失われた知識みたいなのが好きだけど、こういうのも、今の知識があるから理解できるんだ」
とカエデちゃん。
「私も小説を深く理解するには、周辺の知識とか必要になるし、語彙も多くないと理解が浅くなるもの」
とトマトちゃんは言った。




