第35話 完敗
「はーい、いきますよー!」
笑顔のキサラが翼で突風を巻き起こした。
それを真正面から浴びた煙のメズィは軽々と吹き飛ばされて墜落する。
「うおおおああああぁぁっ」
散った煙が俺の水の球に接触する。
祝福の制御能力を失ったメズィは水から脱出できなくなった。
高熱で水を沸騰させようとしているので、水を足して妨害しておく。
分散した煙は水中で暴れるばかりで無力化されていた。
俺はそこになんとなく雷撃を打ち込んでみる。
最初はまったく通用しなかったのに、メズィは水中で苦しんでいた。
(水に閉じ込められた状態だと効くのか)
祝福には相性がある。
それぞれが独自の法則で作用するため、少し状態が違うだけで結果が変わってくるらしい。
戦闘ではとにかく片っ端から試すのが正解みたいだ。
特に多くの祝福を持つ俺はしっかり考えた方がいいだろう。
今後の反省をする俺は、地面にすれすれに浮かぶ煙に気付く。
どうやら水から逃れたらしいが、量が少なすぎて何もできないようだ。
煙の表層には目玉と唇が浮かんで何事かを呻いていた。
「鈍色の獅子……とんでもねえ、新人を……捕まえやがって……くそ、が……」
「遺言はそれでいいか?」
グイルが目玉と唇を容赦なく踏み潰す。
メズィが苦しげに声を発した。
「ぐい……る……」
「このまま祝福が解けるまで待ってやろうか。そうすれば、お前はバラバラ死体になるだろう」
「や、め……ろ……」
「死後、お前の死体は俺が操ってやろう。お前は強靭な魂を持つから、自我が残るかもしれないな。何十年、何百年と酷使してやる」
グイルが淡々と脅す。
たぶん嘘ではなく事実なのだろう。
彼は死霊術師としての本性をここぞとばかりに発揮していた。
メズィはすっかり弱った声音で懇願する。
「わかった……俺の、負けだ……降参する。だから、殺さないで、くれ……」
「情けないな。王が命乞いするのか」
「俺は……王位に興味、がない……責任なんて、さっさと、捨て……たかったんだ」
弁明するメズィからは、それまでの自信や勢いがまったく感じられなかった。
俺に完敗したことがよほど衝撃だったのかもしれない。
とてつもなく強い祝福を持っていたので、初めて経験だったのだと思う。
その後、彼は予想外の要求を俺達に投げかける。
「頼む……お前達の仲間に……鈍色の獅子に、入れてくれ……」




