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ファルクエン戦記  作者: 結城 からく


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第32話 アーデの王

 煙に包まれたバヌゥカが床にめり込む。

 そこから勢いよく壁に衝突し、さらに天井を突き破って消えた。

 頭上で凄まじい破壊音が連続した後、いきなりバヌゥカが落下してくる。

 血みどろのバヌゥカは苦しげに呻いた。


「うぐっ……!?」


「へへっ、バヌゥカさんよ。あんたの力はこんなもんかぁ? さっさと本気を出さないと死んじまうぜ」


 煙がニタニタと笑うような声を発する。

 バヌゥカは電撃を飛ばして煙を振り払おうとする。

 しかしいくら光を放っても、煙は形を変えるばかりでちっとも消えない。

 それどころか、バヌゥカに体内に侵入して彼の呼吸を邪魔し始めた。

 バヌゥカは泡を噴いて悶え苦しむ。


「ごっ、ああ……がっ!?」


 白目を剥いて倒れたバヌゥカが痙攣する。

 何度か雷撃を暴発させた後、その巨体は動かなくなった。


 将軍バヌゥカが死んだ。

 あまりにもあっけない最期だった。

 俺に脅されて報復すると宣言していたのに勝手に殺されてしまった。


 死体から立ち昇る煙が楽しげに声を発する。


「さて、軍の頭は潰した。あとは残党処理ってところかね」


 煙が一か所に集まり、徐々に人型へと変化する。

 現れたのは金髪の端整な顔の男だった。

 服は何も着ておらず、肉体の一部分は煙のままで浮遊している。


(煙の祝福か……?)


 バヌゥカを一方的に殺した点から、とてつもない実力者なのは間違いなかった。

 ファルクエン兵に包囲された煙の男は、余裕の態度を崩さずに名乗る。


「やあ、諸君。俺はアーデの王メズィ。あんたらの野蛮な侵略を見かねて殺しに来た。死にたくない奴は平伏して――」


 メズィの発言を遮るように、動く死体が殺到した。

 死体は四方八方から掴みかかるが、メズィは再び全身を煙にして回避した。

 室内を高速で飛び回りながら彼は笑う。


「死霊術師グイル! 久しぶりじゃねえか! 今はファルクエンの味方なのかよ」


「団長の意向でな」


 グイルが短く応えた直後、キサラが外から飛び込んできた。

 彼女の蹴りがメズィの煙を搔き乱す。

 少し離れて実体化したメズィは目を輝かせて喜んでいた。


「おおお、獣のキサラもいるとは! はっはっは、これは最高の歓迎だなァ!」


「こちらこそですよ! 王様が直々に来て下さるなんて感激です!」


「お前らが派手にアーデをぶっ壊したせいだろうが! 王の立場としちゃ見逃せないぜ――悪いが皆殺しだ」


 メズィがいきなり真顔になる。

 その身体が煙となって拡散し、砦内を埋め尽くした。

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