第29話 奇襲
それから数週間が経過した。
当初の快進撃が嘘のように、ファルクエン軍の侵略作戦は停滞している。
早々に動きを察知したアーデ軍が守りを固めてきたのだ。
略奪を楽しむあまり、時間をかけすぎたのも原因の一つだろう。
とにかくファルクエン軍は予想外の苦戦を強いられた結果、慢性的な物資不足に陥っていた。
そうして一進一退の行動を繰り返すうちに、鈍色の獅子との契約期限が訪れた。
俺は後から知ったのだが、援軍として協力する日数を決めていたのである。
占拠した街の酒場にて、グイルはバヌゥカに確認する。
「契約を延長するか。その場合、三人分の追加料金を払ってもらうことになるが」
「三人分? 何を言っている」
「俺とキサラと新人のアルフだ」
グイルがそう言うと、バヌゥカは鼻を鳴らした。
そして酒を一気飲みしてから怒鳴る。
「ハッ、ふざけるな。新人の小僧は死んどるだろうが!」
「……つまりアルフの延長金は払わず、契約を終了するのだな」
「当然だ。無論、お前達の契約は継続するぞ」
「わかった。それで問題ない――アルフ、お前の契約は打ち切られたぞ」
グイルが静かに述べる。
その瞬間、動く死体に紛れ込んでいた俺は飛び出した。
頭に刺さった斧を引き抜きつつ、無音の祝福を使って疾走する。
そこから影の手を伸ばしてバヌゥカを押さえ込むと、血で作った針を何本か投擲した。
針はバヌゥカの肩と首に刺さった。
毒の祝福の効果により、バヌゥカは椅子から崩れ落ちる。
雷光を発して暴れようとしているが、影の手の拘束は剥がれない。
怪力の祝福を乗せているので、とてつもない力があるのだ。
バヌゥカは俺を見て驚愕する。
「小僧、なぜ生きている!?」
「祝福の力で蘇っただけだ。それから数週間、死体のふりをして契約期限を待っていた」
俺はバヌゥカを見下ろして告げる。
場が騒然とし、ファルクエンの兵士が殺気立つ。
武器を抜いて近付こうとする者もいた。
そこに突進したキサラが兵士達を蹴り飛ばす。
彼女の四肢は馬のように変形し、背中からは鳥の翼が生えていた。
移動中に聞いたが、獣化の祝福の効果らしい。
さらにグイルが動く死体を並べてファルクエン兵を牽制する。
「少し交渉するだけだ。余計なことはするな」
ファルクエン兵は悔しげに睨んでくるも、それ以上は何もしてこない。
将軍を人質に取られている状態なのだ。
さすがの彼らも慎重になっていた。
俺はバヌゥカの首筋に斧を添えて要求する。
「魔術刻印を施した村人達を、今すぐ解放しろ。さもなければ毒で死ね」
「……ッ」
バヌゥカは目を血走らせることしかできなかった。




