おまけ話 ルミナス☆ミ センター桜宮紫優の憂鬱②〜キスシーン特訓 with ポメ太〜
その後、その日のドラマの撮影を何とか終えるも、私は慣れない演技で何度もNGを出してしまった。
相手役の優青は難なくこなしていて、上から目線で「お前が演技下手なの皆分かってるんだから、力抜いてやれよな〜」とか言って来るのがマジでムカつく!
事務所で、ルミナス☆ミ卒業生の桃谷果林ちゃんにダンス指導してもらっている時、休憩時間にソファーに並んで座り、つい愚痴を漏らしてしまうと、彼女は目を丸くした。
「へーっ! 紫優ちゃん、「双翼」の楓川優青くんと養成学校時代からのお友達なんだぁ?」
「果林ちゃん、友達じゃなくて、ただの知り合い! しかもかなり険悪な仲の!!」
私が拳を握り訂正すると、マネージャーの佐々木さんが苦笑いで説明を加えた。
「まぁ、傍から見てると、二人は気の置けないケンカ友達みたいな関係に思えるんですけどね? 楓川くん、撮影中は常識的な態度を取ってくれてましたし……。
ただ、キスシーンがあるので、紫優さんも余計ナーバスになってしまって……」
「だって、あんな奴とキスなんてしなきゃいけないのよ! しかも、ファーストキスなのに……。アイツ、女性関係激しいらしいし、失敗したら、経験豊富な事でまたマウント取って来るに違いないわっ! うぅっ!!」
涙目でソファーテーブルに顔を突っ伏す私に佐々木さんは困ったように声をかけてくる。
「紫優さん、落ち着いて下さい。確かに、楓川くんは女性と一緒のところを2度ほどスクープされていますが、本人も事務所も否定していましたから、本当に女性経験が豊富かどうかは分かりませんよ?
果林さんから、後輩に向けて何かいいアドバイスありませんか?」
「うん。ウチもキスシーン有のドラマに出演した時、ファーストキスもまだだったから随分荒れたし、紫優ちゃんの気持ちはよ〜く分かるよ?」
「! 果林ちゃんも……?」
佐々木さんに話を振られて、果林ちゃんが同じような境遇だった事を告げられ、私は驚いて顔を上げる。
「そ、その時どうしたの?」
「うん。その時はねぇ! 好きな人でキスの練習をしたよね? そしたら、本番でも上手く行った!(キスするフリだけで済んだけど)」
「「え」」
満面の笑みで答える果林ちゃんに、私も佐々木さんも固まった。
果林ちゃんは旦那さんの小松崎さんに、ずっと片思いしていたんだよね?
好きな人でキスの練習って事は、もしかして小松崎さんで?
だけど、告白番組以前はマネージャーとアイドルの清い関係だったんじゃないの?
ガチャッ。
「あらっちゃん!✧✧」
「おう。皆、お疲れ! 飲み物買って来たぞぅ! って……何だよ、この空気は……!?」
「「……」」
その時タイムリーに、飲み物を抱えた小松崎さんが事務所に入って来たので、私と佐々木さんは思わず鋭い目を向けてしまった。
「おい、果林。二人の前で、変な発言とかしてないだろうな……」
何かを察した新さんに、訝しげに尋ねられ、果林ちゃんは、焦ったような表情になった。
「ハッ。いや、な、何も? (あの、二人共さっきの言い間違い! 好きな人で練習したんじゃなくて、す、好きなぬいぐるみで練習したの!)」
「「(そ、そうだったん(だ/ですね)〜)」」
取り繕うように、果林ちゃんに囁かれた言葉に、引き攣る笑顔で頷く私と佐々木さん。
怪しさ満点だけれど、いいアドバイスを貰ったから、そこは特別に飲み込んであげるわ!
今日は、家にあるポメ太(お気に入りの犬のぬいぐるみ)でキスシーンの演技の練習しよ!
私は少し前向きな気持ちになって小さくファイティングポーズを取ったのだった。
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勝入裕次郎(楓川優青《ポメ太》)「まだ分かんねーのかよ! 俺は、お前の事っ……」
夢野舞子(桜宮紫優)「っ…!?」
チュッ♡
夢野舞子(桜宮紫優)「ゆ、裕次郎……!」
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「よぉし! 完璧!」
それから、私は毎日自宅のベッドでぬいぐるみのポメ太を相手にキスシーンを練習し、憎い優真の画像さえ使ってイメージトレーニングを重ね、ついには奴の顔を見ると条件反射的にポメ太の顔が思い浮かぶようになった。
ポメ太だと思えば、キスシーンの演技も緊張せず、上手く出来そうだと私はホッとしていたのだけど……。
キスシーンの撮影当日──。
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勝入裕次郎(楓川優青)「まだワカメなのかよ! 俺は、お前の事っ……」
夢野舞子(桜宮紫優)「っ…!?????」
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「カットカットォーーッ!! ワカメって何? 優青くん頼むよぉ!」
「す、すみません……||||||||」
「優青……?」
覚悟を決めて臨んだキスシーン本番で、なんと優青の方が先にNGを出したのだった……。
*あとがき*
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