海外旅行③
リムジンで移動中、かすみの興奮は治らなかった。
『信じられない。夢じゃ無いわよね。だって、ローマ法王よ、ローマ法王。本物が来たのよ。私たちを迎えに来たのよ。ローマ法王が、私のことを知っていたなんて、どうしましょう。泣きたいくらい、嬉しい。』
本当に嬉しい時というのは、こんな風に取り乱すものなのだろう。
『かすみさん、来て良かったでしょう?』
『はい。わああ、、、。』
抑えられない感情で、かすみは大泣きをした。
『ママ、どうしたの?悲しいの?』
レイちゃんが心配そうな表情で、かすみの顔を覗いた。
『違うから。大丈夫よ。さっきの、おじいちゃん、とっても有名な人なの。世界の人々が、みんな会いたいと思ってる人なのよ。その人が、空港に迎えに来て、凄く嬉しくて、ママ、泣いちゃった。』
『そのおじいちゃん、一緒にスパゲティーを食べに連れて行ってくれるって言ってたよ。』
泣き止みそうだったかすみの瞳に、再び涙が溢れている。
『彩さん、私、どうすればいいのか分からない。』
『大丈夫よ。法王は、心優しい人だから、何も心配しなくて平気よ。自分を飾る必要など全く必要ないの。素を出せばいいの。ほら、そこのお馬鹿さんを見てごらん。法王に対して、平気でタメ口聞いて、握手を求めていたでしょ。それで、いいのよ。』
かすみが俺を見つめてきた。どう言葉をかければいいか分からなかったので、なんとなく笑ってみせた。
『ちひろちゃん、やっぱり凄いのね。おいで。』
俺は、かすみの腕の中に向かった。
『ヒロ君。ありがとう。』
かすみは俺を抱きしめた。
リムジンが向かった先は、予想どおり、バチカンであった。案内されたのは宮殿である。ローマ法王の住処といえば、分かりやすい。車を降り、スイス衛兵が警備する中を法王と一緒に門をくぐった。
『どうぞこちらへ。』
カメルレンゴが、広々とした部屋に招き入れた。
『こちらの部屋をお使い下さい。宿泊に必要なものも、全て揃えてあります。』
『まさか、バチカン宮殿が宿泊先なの。ダメだ。私、気絶しちゃいそう。』
『かすみさん、一つ、いいことを教えてあげましょう。ヒロ君の秘密。』
『えっ、何?秘密って何?』
ゲッ⁉️いきなり彩先生は、何を言いだすんだ。やめてくれ。俺の秘密って、変なこと話さないで欲しい。
『ヒロ君は、この宮殿で生まれたのよ。』
『そうなの?知らなかった。ヒロ君、教えてくれなかったわ。』
『それは無理ないの。ヒロ君自身も知らなかったのですから。色々あって、極秘情報扱いでしたのよ。』
『じゃあ、ヒロ君って、本当はイタリア人なの?』
『そんなはずないでしょ。この顔を見てごらん。どう見ても、モンゴロイドでしょ。というより、弥生人ね。』
『キャハハ。弥生人。面白すぎるぅ。』
『ヒロ君は、ここでローマ法王から、私に預けられたの。だから、ここが故郷といってもいいかも。』
『てっきり、新宿生まれの新宿育ちだと思っていたわ。』
『少し、休憩しましょうか。夕方から、晩餐会になると思うのでね。』
『晩餐会?やだあ〜。私、そんなこと全く考えてなかった。どうしましょう。ローマ法王も出席なされるんでしょう。急いで、ドレスを買いに行かないと。』
『大丈夫よ。先ほど、カメルレンゴが言っていたでしょ。全て揃えてあると。トレスも用意されてるはずよ。もし、なければ用意させるから。』
彩先生が、部屋の奥にある大きなクローゼットと、引き出しを開けた。クローゼットには、色とりどりのドレスが数えられないほど、掛けられていた。引き出しにも、様々な衣装が用意されている。
『なんだか、夢を見ているようだわ。』
かすみは、頰を赤らめた。
『こっちにも、ドレスあるよ。子供用のドレスだあ。わああ、どれ着ようかなあ〜。ちひろちゃん、一緒に選ぼう。』
やはり、そういう展開になるか。もう、これくらいは想定内だ。
夕方、部屋の扉のベルが鳴った。
『1時間後に夕食に出かけますので、ご用意をお願いいたします。』
バチカン宮殿の執事が声をかけた。こうなると、夕食の中身が嫌でも期待が高まる。
俺とレイちゃんは、お揃いのドレスを着ることになった。レイちゃんがブルー、俺がピンク。もう、全員のテンションが上がっている。ご機嫌な彩先生は、俺に化粧までしてきた。人生初の口紅。恥ずかしいはずなのに、なぜか嬉しい。俺とレイちゃんの準備が終わると、かすみと彩先生は、それぞれ、自分の準備にとりかかった。
『お待たせ〜。どう?似合ってる?』
かすみが銀色のドレスを纏って、近づいてきた。ああ、ダメだ。俺の目は完全にかすみの虜になっている。ずっと見ていたい。美しい。いや、美し過ぎる。一生、見ていても構わないと思った。
『ママ、綺麗!』
レイちゃんが写真を撮った。
『ちひろちゃん、どうしたの?固まっちゃって。』
『かすみ、あっ間違えた。ママ、綺麗。凄く綺麗。やばいよ。やっぱり世界一ね。』
『まあ、嬉しいわ。』
お世辞ではない。やはり、美の女神は本当だ。
そして、美魔女の登場。
『皆様、ご機嫌いかがあ。』
彩先生がキラキラのドレスを着ている。露出度満点。目のやり場に困る。ただ、やはり美しいことは、認めざるを得ない。何と言っても、スタイルが抜群である。とても、128歳には見えない。
『ちひろちゃん、どこ見てるの?おっぱい欲しいのかな?』
俺は顔を赤くした。
『違うよ〜。でも、彩先生、綺麗です。』
『そんなこと言われなくても、分かってますわ。』
再び、ドアのベルが鳴った。
『皆様、ご準備よろしいでしょうか。夕食にご案内致します。』
興奮している4人は、執事の後をついて行った。




