解明①
4月になってしまった。今月から俺の生活が一変することになる。月曜日から金曜日まで、保育園に通うのだ。レイちゃんの妹として。さらに、週一回のスイミングに加え、バレエ教室にも通うことになる。普通なら、新たな生活に胸を踊らせ、ワクワクするのだろうが、俺はどうしていいのか分からない。レイちゃんを見ていると、かすみと楽しそうに準備をしている。その姿を見ていると、凄く微笑ましい。
『行きたくないよ〜。』
などと、駄々をこねて、せっかくのレイちゃんの幸せな気分を壊したくはない。俺は、新たな人生を過ごせることを感謝し、その一瞬、一瞬を思い切り楽しむことにした。そんなことを考えていたら、彩先生がやって来た。
『ちひろ、ちょっと面倒なことになったわよ。宮内庁から私に連絡があったの。「ちひろ」について、聞きたいと。』
『宮内庁が、私を調べ始めているっていうことかしら。』
『そうみたい。担当の役人には、私が適当に話して追い払うけど、おそらく、直接、あなたに接触してくるはずよ。危険はないとは思うけど、一応用心して。』
『この前の正倉院がらみかしら。詮索するなという警告かな。つまり、詮索されては困ることがあると認めたようなもの。宮内庁とテンプル騎士団に繋がりがあるということが、はっきりしたわ。ミッシェルが私を暗殺しようとしたんだから、相当な危険があると考えないと。私だけならいいけれど、かすみママと、レイ姉ちゃんの警護を強化しないと。』
『確かに、私の読みが甘かったかも。分身仏を宜しく。』
敵を、おびき寄せるか。イタリアで試した如く、一人で、目立つように歩いてみようか。
宮内庁の担当部署は、さすがにCIA所属で、日本の首脳陣に顔が広い彩先生に手出しをすることはないだろう。しかし、裏組織の人間が動くのであれば、俺や、かすみ、レイちゃんに危険が及ぶ可能性は否定出来ない。俺は、いつもの倍の分身仏をかすみとレイちゃんの警護に当てた。そして、俺自身は自ら囮になるべく、一人で出かけることにした。おそらく、すでに監視されていると思う。こっちは、いつもの常套手段を使う。わざと捕まり、相手の真意を掴むつもりだ。
俺はマンション近くの公園で遊ぶことにした。最初は人の多いところで、ブランコに乗ったり、滑り台で遊んだ。そして、俺のカンは当たった。強い気を感じる。見張られているのは確実である。俺は徐々に人気の少ないところに移って行った。さっきの気もついてくる。姿を見せないということは、やはりプロだ。歩いていると、反対方向からも気を感じる。複数名で俺を拉致する算段のようだ。
テレパシーで、彩先生から連絡が来た。どうやら、マンションも見張られているらしい。悠長に構えてはいられない状態になった。俺は瞬間移動をした。すぐ近くの木の上だ。後を付けていた男たちが慌てているのが見える。その中に見覚えのある顔があった。
『なるほど。そういうことか。』
俺は再び瞬間移動した。今度は、マンションに戻った。そして、彩先生に報告した。
俺は一言伝えた。
『AGU』
『まさか。AGUが、あなたを暗殺しようと企てているというの?』
『そう、間違いないわ。さっき、私を尾行していた男の顔を確認したから。あの人の名前は三宮。AGUの諜報部員で、北村会長の孫よ。以前、私がイエメンで救出した男なの。』
『宮内庁あるいは、公安が非公式にAGUに暗殺の依頼をしたということね。AGUが絡んでいるとなると、いささか面倒よ。ヒロは死んだことになっているから。余計にややこしいわ。』
『私がヒロに戻り、AGUに乗り込むのが、手取り早いわ。』
『ヒロ復活のニュースは裏世界で、轟くはず。喜ぶ者、憎む者、、、あまり、得策とは思えませんけど。』
『何れにせよ。AGUに、この件から手を引かせなければ。今から、MR.Tの元に行ってくるわ。ヒロとして。』
俺は、ちひろの姿のまま、AGUの本部に瞬間移動した。ヒロの姿を見られと、見た人の記憶操作をしなければならない。それが面倒なので、あえて、ちひろのままで出向いたのだ。MR.Tの事務所の場所は、予め調べておいた。彼の性格は、よく知っている。俺と同じで、団体行動は苦手だ。仕事は一人で行うのを好む。思った通り、専用スペースを用意されており、そこで、一人で作業をしていた。
『誰だ。』
MR.Tは、すぐに俺の存在に気がついた。
『ちひろよ。私のことは、知ってるでしょ?』
『ちひろ?なぜ、ここに?どうやって、この部屋に入ってきた?』
俺は、その質問に答えず、彼の目を見つめた。
『なぜ、黙っている。警備を呼ぶぞ。』
『あはは。面白いわ。MR.T、私が誰か分からないの?』
俺は、彼に近づいた。
『誰って。ちひろって名乗ったではないか。ん?その目、どこかで見たような。お嬢ちゃん、どうやって、この部屋に入ってきた?』
『うふふ、瞬間移動よ。』
『瞬間移動って、そんなこと出来るわけない。そんな能力がある人間は、存在しない。一人を除いて、、、まさか、あなたは、、。』
『やっと気づいたかしら。MR.T、お久しぶりね。うふふ。』
俺は笑いながら、ちひろから、ヒロの姿に戻った。
『ヒロさん。病気で、亡くなられたものと思ってました。情報を管理しているものとして、誤った情報を鵜呑みにしていました。再び、お会いできて嬉しいです。』
『MR.Tよ。よーく考えてみな。俺が死ぬわけないだろう。だが、お前まで騙したことを謝りたい。すまなかった。』
『謝る必要などないです。ヒロさんのことだから、理由があると思うのでね。ヒロさんの死亡説は、裏世界で、あっという間に広がりました。このチャンスを逃すものかと、ヒロさんに怯えていた色々な組織が動き始めたり、なかなか大変でした。』
『ちょっと、面倒な組織というか、宗教団体を潰すために、死んだフリをさせてもらった。』
『そうでしたか。No. 1のヒロさんが居なくなったので、悪さをしようとする輩が増えるかと思ったんですが、ヒロさんを超える人物が登場したので、皆、大人しくしてます。』
『それって、誰だ?』
『謎の魔人らしいです。バブーと呼ばれてます。恐ろしく強いらしいです。ひょっとすると、いや、その乱暴さから、ヒロさんの力を凌駕しているかもしれません。気をつけて下さいね。』
『ガハハ。魔人バブーね。あのね、それ、俺だから。俺が、無茶苦茶に暴れる魔人を演出して、闘ったんだよ。』
『そうでしたか。可笑しいと思いましたよ。そして、次に登場したのが、謎の美少女ちひろ。火を吹いたり、空を飛んだりすると噂されてますよ。』
『その通り。それが、さっきの俺の姿。そして、ちひろの進化形が魔人バブー。ああ、このことは極秘だからな。』
『ヒロさん、なんか楽しそうですね。』
『ああ、確かに楽しくさせてもらってるかも。しかし、大変なこともあるんだぜ。女児になるのは、男としてのプライドを捨てないと、なかなか出来ないんだよ。』
『しかし、何で、わざわざ女児になったのですか。』
『色々とあってな。そのうち、教えてあげるよ。』
『分かりました。それで、何か用事があるのですね。』
MR.Tは頭がいい。この男は、信じられる仲間の一人だと、改めて思った。




