日本の謎①
自分探しの旅はしないと宣言した。だから、長旅などはしない。いつもと同じように、気になったところに瞬間移動すればいい。日本を探すと言っても、どこに行けばいいのか。狭い日本だが、いざ探すとなると、これで結構広い。とりあえず、なんか宝がありそうなところに行ってみるか。ならば、初めは正倉院にしよう。
正倉院は奈良県にある。あの有名な東大寺の北側すぐ近くに存在する。元々は、東大寺の宝物を保管するために建立されたのだから、東大寺の近くにあるのは、当たり前である。東大寺の一部と考えれば良い。ところが、現在、この正倉院を管理しているのは東大寺ではなく、国が管理している。しかも、宮内庁である。天皇家ゆかりの品々が保管されているから、宮内庁が管理するのも納得できる。ところご、通常は一般公開していない。何やら秘密の匂いがしてならない。
東大寺は、聖武天皇の命により建立された寺である。唐の都に習い奈良に平城京という都を作ったのも聖武天皇である。仏教の力で世の中を安定させるべく、全国に国分寺を建て、その中心として、奈良に東大寺を開いたのである。それまでの日本の都は、どこにあったのかは解明されていない。大和朝廷がどこにあったのか。邪馬台国はどこにあったのか。いずれも分っていない。そういう意味では、日本史の中で、はっきりと都として分っている最古の町が、奈良になる。
正倉院には、明日、行くことにした。今日は、かすみに優しくしてもらって、癒されたい。そう思いながら、リビングで寛いでいるかすみに近づいた。かすみは、例のバレエのパンフレットを見ていた。
『ちひろちゃん、見てごらん。彩さんが選んだバレエ教室は、なかなか凄いよ。卒業生の中には、世界で活躍しているパレリーナも沢山いるのよ。ちひろちゃんも、頑張って上手になってね。』
そう言って、いたずらっ子のような目で、俺を見た。
『ママのいじわる。でも、レイ姉ちゃんと一緒に頑張るよ。』
『ウフフ。ヒロ君、すっかり女の子になっちゃったね。ちょっと、待ってて。』
かすみは、何かを探し始めた。
『あった、あった。これ、あげるね。こっち、おいで。』
かすみが、探していたのは、ネックレスであった。シルバーのチェーンにダイヤのように輝く宝石が付いている。かすみは、俺の首に、そのネックレスを付けてくれた。
『思った通り。ちひろちゃんに、よく似合う。このネックレスは、お守り。いつも、私たちを守ってくれてるから。そのお返しね。』
なんだか不思議な感じがした。今まで、宝石などには全く興味が無かったが、今、こうして身につけると、とても嬉しく感じてしまう。本当に似合っているのか、鏡を見たい衝動にかられた。
『ママ、ありがとう。鏡を見てきていい?』
『いいわよ。見ていらっしゃい。』
俺は、洗面所に向かって走っていった。しかし、今の俺の身長では、鏡を見ることができない。椅子を持ってきて、その上に登って、鏡を見た。胸元がキラキラと輝いている。恥ずかしさと、嬉しさが混ざったような感覚になった。自分に酔いしれて、うっとりしているところを、いつの間にか、後ろに立っていた彩先生に見られてしまった。
『ちひろ、見たわよ。鏡を見ながら悦に入っちゃって。』
俺は真っ赤になり、彩先生の胸に飛び込んで、誤魔化した。
彩先生に抱っこされて、再びリビングに戻った。かすみと、レイちゃんがテレビを見ている。何を見てるのか画面を覗いたら、バレエのDVDであった。真っ白い衣装の女性が数人で踊っている。チュチュと呼ばれる独特のスカートを身につけている。いずれ俺も、あんな格好で踊ることになるのかと思うと、恥ずかしくてたまらない。
レイちゃんは、食い入るように画面を見ている。ああ、そうか。彼女の得意技。見て、覚える。興味のあることは、どんどん自分に吸収するのだ。俺は、元来、負けず嫌いである。どうせ学ぶのであれば、負けたくない。俺も勉強しなければならない。そう思い、画面に集中した。そして、重大なことに気がついた。体幹の強さ、体の柔らかさ、跳躍力、バランス感覚、持久力、スピード、ここまでは全く問題ない。すぐにでも、No. 1になれる自信がある。ところが、致命的な弱点を見つけてしまった。音感、そしてリズム感。まるで、ダメだ。つまりは、体操なら完璧だか、音楽に合わせることが出来ないのだ。芸術系が苦手なことを忘れていた。バレエは、いわば総合芸術である。俺にとって、不得意分野の集まりになる。辛い修行になりそうだ。でも、大丈夫。俺には、お守りが付いている。俺は、ネックレスを握りしめた。




